戦国異伝供書
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第五十八話 出家その四
「その様に。ただわたくしは妻がいません」
謙信はまたこのことを話した。
「そうですから養育はです」
「それがしがですか」
「このまま頼みます」
こう政景に告げた。
「それでいいですね」
「はい」
実際にとだ、政景も答えた。
「我が妻と共にです」
「宜しくお願いします」
「それでは」
「そなたと姉上には」
政景の妻は謙信の実の姉だ、謙信にとっては母と共に頭の上がらない仰いでいる存在でもあるのだ。
「まことにです」
「お任せあれ」
「はい、そして」
さらにだった、謙信は家臣達に話した。
「わたくしはこれからもです」
「関東管領として」
「そのお立場で、ですね」
「天下に再び泰平をもたらす為に」
「その為に戦われますか」
「そして治めてもいきます」
このことも忘れないというのだ。
「何があっても」
「はい、それでは」
「我等もその殿と共にです」
「何処までも参りましょう」
「そしてやがては」
「天下を」
「そうしていきましょう」
こう言ってだった、謙信は卯松を己の後継者に任じたうえでさらにだった。
信濃に出陣する用意を進めた、この頃関東は北条家は己の足場をさらに固め本願寺も大人しく上杉家にとって都合のいい状況だった。
その為謙信は信濃攻めの用意を極めてそれも彼が思っていたよりも迅速に進められた。それでだった。
兼続の報を聞くと満足している声でこう言った。
「では予定よりもです」
「早くですね」
「兵を出します」
こう言うのだった。
「そうします」
「それでは」
「はい、そしてです」
「信濃においてですね」
「武田殿の過ちを正します」
「武田殿の御首級は」
「武田殿は容易に討ち取れる方ではありません」
信玄を倒せるかどうかについてはこう述べた。
「ですから」
「そのことは、ですか」
「はい、求めません。むしろ」
「降してですか」
「そうしてわたくしの片腕にとです」
「お考えですね」
「そのことは変わりません」
以前よりと、というのだ。
「全く」
「そうなのですね」
「はい、そして」
そうしてというのだ。
「その後で関東を正します」
「関東管領として」
「そこから織田殿も片腕として」
「天下を正しますね」
「そうします、武田殿は悪ではありません」
既にわかっている返事だった、謙信のそれは。
「考え違いをされているだけなのです」
「それで奸臣となられているのですね」
「幕府の定めに従わない」
そうしてというのだ。
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