戦国異伝供書
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第五十八話 出家その五
「幕府が何の権威も持っていないとです」
「お考えになっているだけで」
「若し悪であるなら」
謙信がというのだ。
「民を苦しめています」
「かなりの善政で民を救っておられるとか」
「ただ田畑や街を整えるだけでなく」
「法もですね」
「しかと定めそれを守る国にされている」
「若し法がなければ」
その国はどうなるか、兼続も言った。
「恐ろしいことになります」
「力のあるならず者ばかりが力を持ち」
「力の持たぬ弱き者はどうなるか」
「それこそ」
「民にとってこの世の地獄となります」
「ですが武田殿は」
信玄、彼はというのだ。
「そうしたことはです」
「決してされず」
「善政に徹し」
そうしてというのだ。
「民に泰平を謳歌させているので」
「それで、ですね」
「武田殿は悪ではないとです」
「殿は確信しておられるのですね」
「そうです」
まさにというのだ。
「ですから」
「それ故に」
「わたくしはあの方をむしろ善と見ています、だからこそ」
「殿が天下を安らかにする為の片腕に」
「なって頂きたいのです」
こう言うのだった。
「その様な方はです」
「討ち取られることはですね」
「ありません」
「それでは」
「わたくしは全力を以てです」
自身のそれを向けてというのだ。
「あの方に勝ちます」
「それでは」
兼続も応えた、そしてだった。
彼もまた出陣の用意を進めていった、上杉家は関東と一向宗への備えを置いたうえでだった。
信濃へ兵を進めはじめた、このことは即座に海津城の高坂も知った。それで彼はすぐに城を守る兵達に告げた。
「城の守りを固めてじゃ」
「そうしてですね」
「狼煙を上げる」
「そうしますな」
「うむ、すぐに甲斐のお館様にお伝えするのじゃ」
信玄、彼にというのだ。
「よいな」
「わかり申した」
「それではです」
「すぐに城の守りを固め」
「そして狼煙も上げます」
「頼むぞ、この度はおそらくな」
高坂はその誰もが一目見てさらにもう一度見る様な整った顔で言った。
「大きな戦になる」
「先の戦と違い」
「そうした戦になりますか」
「この度は」
「そうなってしまいますか」
「お館様もそうであるが長尾殿もな」
二人共というのだ。
「期が来たと思われておるからな」
「期ですが」
「まさかと思いますが」
「その期は」
「決着じゃ」
それの期だとだ、高坂は兵達に答えた。
「それが来たと思われておるからな」
「だからですな」
「この度は、ですな」
「大きな戦になる」
「殿はそう言われるのですな」
「そうじゃ、だから城は余計に堅固に守るのじゃ」
これまで以上にというのだ。
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