八条学園騒動記
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第五百二十八話 お見合いの前にその四
「奇麗でしたし」
「靴ですか」
「はい、靴も」
そちらもというのだ。
「奇麗に磨かれていて」
「靴が」
「そうでした、とても」
「あの、靴は」
今はじめて知ったという顔でだ、マリアはミンチンに返した。
「私は」
「ご覧になっていませんでしたか」
「とても」
「実は靴がです」
「大事なのですか」
「例えば連合軍ですが」
この軍隊はというと。
「いつも靴を磨いています」
「そうなのですね」
「軍服、作業服にアイロンをかけ」
これを欠かさないのだ、教育隊ならそれこそ毎日だ。
「靴も丁寧にです」
「磨いていますか」
「そこまでしていて」
それでというのだ。
「あの整理整頓です」
「連合軍の整理整頓は有名ですね」
訓練度の低さはともかくそこは長所とされている。
「本当に」
「それで、です」
「先生は靴もですか」
「いつも見ていて」
「そういえば先生の靴は」
マリアはミンチンのヒールを見た、すると奇麗に黒光りしている。磨かれているのは明らかなことだった。
「お奇麗ですね」
「いつも自分で磨いています」
「そうなのですか」
「子供達が磨こうと言ってきますが」
「そうはですか」
「自分の靴は自分で磨くものです」
ミンチンはマリアに笑って話した。
「連合は市民の国ですから」
「市民ならですね」
「自分のことは自分で行い」
そしてというのだ。
「他の人にはさせない」
「だからですか」
「私は私の靴は自分で磨いています」
「そうでしたか」
「かつてイギリス人の絵がありました」
ミンチンはマリアにこうした話もした。
「船旅の時に召使のインド人達に靴を磨かせ」
「自分達の靴を」
「自分達は船のベッドで寝転がり優雅に水パイプを吹かす」
「貴族ですね」
「そうです、その様にです」
連合で言われている貴族のイメージそのままにというのだ。
「している絵を見まして」
「決してですか」
「人に靴を磨かせてはいけない」
「自分で磨くものだと」
「思いそれで」
「先生もですか」
「自分の靴は自分で磨いています」
子供達が親孝行をしようとしてもというのだ。
「子供達には自分の靴を磨かせています」
「お子さん達自身の」
「そう言っていてです」
「させておられるのですね」
「そうです」
まさにというのだ。
「自分の靴は自分で」
「磨いてこそですか」
「そうしてますので」
だからだというのだ。
「靴は自分で磨いてそして」
「よく見ておられますか」
「あの人の靴は奇麗でした」
つまりよく磨かれていたというのだ。
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