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戦国異伝供書

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第五十三話 三度南へその五

「とかくじゃ」
「今は決して動かず」
「機を見て」
「そして動くべき時に動く」
「そうするのですな」
「そうじゃ、飯も食ってじゃ」
 それも忘れるなというのだ。
「よくじゃ」
「はい、英気を養い」
「その時に備えますな」
「そして時が来れば」
「その時は」
「火になるのじゃ」
 こう言うのだった。
「よいな」
「攻めること火の如し」
「左様ですな」
「それが攻める時であり」
「思う存分ですな」
「攻めてな」
 そうしてというのだ。
「敵を倒すのじゃ、よいな」
「承知しております」
「その時を待ちます」
「そして静かにもします」
「今歯」
「そこは林じゃ」 
 今度はこちらだというのだ。
「静かなることな」
「そうなりますな」
「静かにするのも戦ですし」
「今はその時でもありますな」
「その通りじゃ」
 晴信は穏やかな声で言った。
「だからな」
「はい、今はですな」
「山の様に動かず」
「林の様に静かにですな」
「そうすることじゃ」
 武田軍は晴信の言うままに動かず静かにしていた、それは上杉軍も同じで双方動くことはなかった。だが。
 それを駿河から見てだ、雪斎は義元に言った。
「今武田殿と長尾殿がです」
「川中島で、おじゃるな」
「はい、睨み合っていますが」
「それをでおじゃるか」
「仲裁すべきかと」
 こう義元に言うのだった。
「この度は」
「双方に恩を売るのでおじゃるな」
「左様です、それにやはり」
「戦でもでおじゃるな」
「やはり流れる血はです」
 死ぬ者傷付く者はというのだ。
「少ないに越したことはなく」
「収められるものならばでおじゃるな」
「はい、ない方がよいので」
 だからだというのだ。
「この度はです」
「当家が双方を仲裁してでおじゃるな」
「ことを収めるべきかと」
「では和上が」
「はい、お館様はこちらにおられて下さい」
 主の義元はというのだ。
「やはりお館様はです」
「余程の時でないとでおじゃるな」
「然るべき場に悠然とおられるべきなので」
「そうして全体を見るべきでおじゃるな」
「ですからこの度は」
 戦の仲裁はというのだ、武田と上杉のそれは。
「お館様のご命を受けた」
「和上がでおじゃるな」
「向かわせて頂きたいです」
 そうした名目にしてというのだ。 
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