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戦国異伝供書

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第五十三話 三度南へその四

 政虎自身も馳走を食べ酒を飲んだ、彼が酒を飲むのはいつも通りだったがこの時は彼も馳走を食べていた。
 そのうえで出陣した、するとすぐにだった。
 このことが甲斐にも伝わった、晴信はその報を聞いて言った。
「よし、この度もじゃ」
「出陣ですな」
「これより」
「そうされますな」
「すぐに」
「そうする、そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「長尾家の軍勢を迎え撃ってな」
「そうしてですな」
「倒しますな」
「この度こそ」
「そうしたい、中々機は見付からぬであろうが」
 相手が政虎ならばというのだ。
「しかしな」
「機を見付ければ」
「その時はですな」
「すぐに兵を出して」
「そうしてですな」
「降すとしよう、ではな」
 晴信もこう言ってだ、彼もまた出陣前の宴を開きそうしてだった、すぐに川中島に兵を進めた。そしてだった。
 両軍は三度目の睨み合いに入った、政虎は目の前の赤い軍勢の布陣を見て言った。
「今はです」
「攻めぬ」
「そうされますな」
「隙がないので」
「だからですか」
「はい、あの陣を攻めれば」
 どうなるかと言うのだ。
「こちらが大きな傷を負います」
「確かに。見事な布陣です」
「前の布陣よりもよい位です」
「隙が全くありませぬ」
「今あの陣を攻めてもです」
「こちらが大きく傷つくだけです」
「そうです、流石は武田殿です」
 政虎はこうも言った。
「何も隙はない見事な守りです」
「だからですな」
「守ってですな、こちらも」
「今は動かぬことですな」
「武田殿が言うには山の様に」
「その様にして」
「そうです、動かざること山の如しといいますが」
 晴信が旗に書かせている風林火山の文のこの一説はというのだ。
「まさにその通りです」
「どうして動き攻めるか」
「戦の進め方ですな」
「それを書いていますな」
「そうです、まことに今はです」
 まさにというのだ。
「動かざることです」
「山の如し」
「そうあるべきですな」
「今は」
「何があろうとも」
「そういうことです」
 こう言って政虎は動かなかった、それは晴信も同じで。
 軍勢を動かさない、それで諸将に言うのだった。
「よいな」
「今はですな」
「動かず」
「そして機を見る」
「そうした時ですな」
「迂闊に動いた者は罰する」
 こうまで言うのだった。 
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