戦国異伝供書
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第五十三話 三度南へその三
「上杉殿、宜しいでしょうか」
「何でしょうか」
「実は都の公方様からです」
即ち将軍からというのだ。
「お願いが来ておるとのことです」
「公方様からですか」
「はい」
鎌倉公方ではなく都のというのだ。
「あの方から」
「そのお願いは」
「はい、上洛してです」
「謁見をですか」
「して頂きたいと」
「その様にですか」
「お願いが来ておりますが」
「それは素晴らしきこと」
政虎は小笠原のその話に目を輝かせて述べた。
「ではです」
「上洛をですか」
「武田殿とのことが終わり次第」
政虎が言う仕置きを終えてからというのだ。
「そのうえで」
「上洛をですか」
「しましょう」
是非にと言うのだった。
「その様に」
「それでは」
「まさかそうしたお話が来るとは」
柿崎も驚きを隠せない顔だった。
「想像もしていませんでした」
「全く以てですね」
「はい、ですが」
「このことは」
「それがし是非です」
主である政虎に強い声で言うのだった。
「上洛し」
「関東管領としてですね」
「そしてです」
「そのことを都の公方様にもですね」
「正式に認めて頂き」
「都には朝廷もあり」
「帝もおられますので」
それでというのだ。
「是非」
「そのつもりです、これを機に」
上洛をというのだ。
「帝にも拝謁し」
「天下の為に働くことを」
「約束します」
「大きなことですな」
「わたくの様な者にそこまでのことを願われるとは」
感極まる、まさにそうした顔で言う政虎だった。
「感無量です、では」
「信濃の後で」
「必ず上洛します」
このことを誓ってだった。
政虎は兵を充分に休ませた後で信濃攻めを考えていた、そして彼は機が来たと見るとすぐにだった。
春日山に兵を集めた、そして家臣達に馳走を出して言った。
「ではです」
「これより」
「川中島にですな」
「出陣ですな」
「三度目になりますが」
政虎は主の座から述べた。
「やはり越後から信濃に入りますと」
「あちらですな」
「川中島ですな」
「あちらで対峙しますな」
「どうしても」
「そうです、海津城は放っておき」
そしてというのだ。
「川中島に入り」
「あの地において機を伺い」
「そして機が来れば」
「その時こそは」
「武田殿を滅ぼします、では」
今はと言ってだ、そしてだった。
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