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夢幻水滸伝

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第九十九話 中原の者達その十一

「だからですし」
「今は焦らないことですね」
「そう僕ちん達にも言い聞かせているでし」
 ここでだ、郁は弱気な目になった。蟹の表情もそうなっている。
「どうにも」
「郁君ご自身にもですか」
「僕も焦って失敗したことがあるですし」
「それはわたくしもですよ」
「莫君もですしか」
「それで親に叱られました」
 そうした経験があったというのだ。
「大事な時こそ焦るな」
「その通りですしよ」
「それで、です」
「莫君もそう言うですしか」
「そして思ってもいます」
 言うだけでなくというのだ。
「まさに」
「そうですしか」
「何度言っても焦って致命的なミスを連発して反省もしない」 
 ここで滝沢がこんな言葉を出した。
「しかも相手が悪いと居直る奴はどうにもならないだがや」
「馬鹿ですしな」
「文字通りのそれだぎゃ」
 滝沢は郁にも吐き捨てる様にして述べた。
「そこに嘘は吐いてやるべきことをしないで挙句にはゴロツキ連中とグルになっただぎゃ」
「滝沢さんのお知り合いですし?」
「中学の時の一つ下の部活の後輩だっただぎゃ」
 その者がというのだ。
「流石に酷過ぎて退部になって今は地元で中卒で無職でゴロツキ連中のパシリだがや」
「酷い転落ですし」
「家も出て親御さん達を泣かせているだがや」
 滝沢は忌々し気にさらに言った。
「部活動に散々迷惑かけてそれだっただがや」
「それで、ですか」
「挙句はですか」
「今やならず者の手下」
「愚かなことを繰り返して」
「そうだがや」
 坂口は忌々しい顔で述べた。
「誰が何言っても聞かなかっただがや」
「止めてもですか」
「柄の悪い連中と付き合うなと」
「そして行いをあらためろと」
「そう言われてもですか」
「動くのは自分と言ってだがや」
 そう言ってというのだ。
「部室の鍵をその連中に渡したりしただがや」
「それでは部員のお金がどうなるか」
「部費も」
「そんなことまでしたのですか」
「それで背信行為と呼ぶなら呼べと言っただがや」
 忌まわしい思い出だった、坂口にとっては。
 だがその思い出をだ、彼は今語るのだった。
「そして退部処分になって学校で信頼を完全に失っただがや」
「当然の結果ですね」
「何故そんなことをしたのか」
「それでは完全にゴロツキ達と同じです」
「グルと言われても仕方ないです」
「そして実際にだがや」
 その評価はというのだ。
「妥当だっただがや」
「そう言うしかないですね」
「その様なことをしては」
「全く以て愚かですね」
「愚かの極みです」
「わしがこれまで会った中で一番の馬鹿だっただがや」
 こうまでだ、坂口は言った。
「だからわしも見捨てただがや」
「坂口さんが見捨てられましたか」
「それはまた」
「見たところ坂口さんは人を見捨てる人ではないですが」
「そうされましたか」
「言っても聞かないでどうにもならないことを繰り返してはだがや」
 それも全く反省せず、というのだ。
「わしもどうしようもなかったがだや」
「それで、ですね」
「見捨てるしかなかった」
「そうでしたか」
「生まれてはじめて人を見捨てただがや」
 そうなったというのだ。 
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