魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第55話 謹慎中でも仕事はあるよ?
「……んむぅ……って、あれ」
朝起きて体を起こしてみたら、なんかスースーすることに気付く。
———何も、着て、ない‼︎‼︎
「……んぁ……うー……ふぁっ……って、嗚呼。おはよう、黒は、な……」
「すみません、チョット説明して貰っていいですか? なんで私達裸なんですか? なんで床に服が散乱してるんですか? 昨夜、何があったんですか?」
「う、ぁあああ……ああああああああああああああ‼︎‼︎」
隣で寝ていた橙条さんはズボンを履いていたらしく、ベッドを飛び出して、直ぐに部屋を去って行った。
……昨日、何やってたんだろ。
◇ ◇ ◇
「……昨晩はマジですみませんでした」
「頭をあげて下さい。貴方に頭を下げている姿は似合いません」
「なんか奢る」
「大丈夫ですよ。昨日、沢山お出掛けに付き合って貰ったんですしね。それでもって言うなら、今日はお仕事があるので、それに着いて来てもらえますか?」
「仕事ォ? 謹慎中だぞ」
「マフィアのお仕事……と言うか、マフィアを通して届いた依頼を熟しに行くんです。マフィアでは何でも屋に近い立ち位置でしたので」
「看守だぞ⁉︎ ふざけンな!」
「なら着いて来ないで下さい。因みに、一件目の依頼は猫探しです」
「は」
「では、行って来ますね」
依頼主は父親がマフィアの構成員である家族。娘さんが飼っていた猫が居なくなってあまりにも泣き喚くから、どうか見つけてやってくれと言う依頼だ。
マフィアがそれで良いのかって? 依頼されたんですから、完遂するまでです。
「やっぱり橙条さんも来てくれるんですね。やっぱり、口が悪くても、背が小さくても、目付きが悪くても、優しいんですねいたたたたたたた頬っぺた引っ張らないでくださいぃぃい」
「チビは余計だっつーの。ばーか」
依頼書に載っていた写真を頼りに、橙条さんと猫探しをする。
目撃情報的には、此の辺りに居る筈なのだが———
「にゃぁん」
猫の鳴き声。
声が聞こえた、自分の真上を見ると、其処には下に降りたそうにしている三毛猫が居た。
でも、探している猫とは違う。
「……今降ろしてやるからな」
橙条さんが身軽に木の上に飛び乗ると、猫を抱えて木から飛び降りる。そして猫を撫でたりして可愛がってから、地面に降ろす。
こんな優しい事、私には出来ない。
こんな温かい感情、私には無い。
「……どうしたンだよ。ぼーっとして」
「え……否、何でもないです……」
そうだ。私は依頼を熟そうとしている訳で、他の事なんて知らない。他なんて如何でも良い。
でも、それは人間の考えじゃない。
それは、人形の考え。
「ぅぅううう……」
「いきなり唸って、どうしたンだよ」
「なんでもないです……ん」
「にゃぁあ」
「ね、こ……それも、白猫……探してた猫ちゃんだぁ!」
可愛いなぁ。
思わず抱き上げて、橙条さんがしてた様に頭を撫でたり、顎の下を擽ってみたりする。あー癒し。依頼引き受けて良かった。
「橙条さんも如何です? 癒しですよ」
「否……既に大分癒されてる……」
「へ、なんて? それに顔赤いですよ?」
「否、なンでもない‼︎」
◇ ◇ ◇
「次は……無法地帯で起こっている喧嘩を制裁しましょうか。周りに被害が出ているそうですからね。まぁ、危険ですので待っていて下さい」
「はァ? 女のてめぇに任せて、男のオレがビビって逃げる訳ねェだろうが」
———きゅん。
「あ……? 何顔赤くしてンだよ」
いやいやいやいやいやいやいやいやないないないないないぜったいないないないないなんでなんでなんで「きゅん」て、「きゅん」って‼︎
「もしかして……惚れたか?」
「ほ、惚れてなんか……‼︎ 私はマフィアの人間で、看守なんかに靡いちゃいけな」
「良いんだぜ? オレを選んでも。マフィアの首領サマが反対するかも知れねェけど」
ああああああああああ多少カッコいい台詞を言っただけ! 過剰に反応しない‼︎ 落ち着く‼︎
「……って、橙条さんも顔赤いですよー。惚れました?」
「(なんつー顔してンだよコイツ……顔真っ赤にしてこっち見やがって……それに、首……紅いの見えてンだが……? あー、ムラムラしてきた)知るかよ。つーか、依頼の方は?」
「そろそろ現場に着きます。銃弾と魔法に気を付けて下さい。一応再生も蘇生も出来ますが、味方が死ぬのは好きじゃないんです。取り敢えず、全員無力化して下さい」
◇ ◇ ◇
「……はぁ、ッ……ぁあ、っ……」
「はっ……う、っ……」
「「……ぁぁぁあああああ……‼︎」」
・ ・ ・ 。
「てめっ……ンな声……あげんじゃ、ね……ッ、はぁ……」
「橙条さ、も……そんな、こえ……はぁ、っ……出さない、で……」
「「……ん、ぅ……あ、ぁ……はぁ……!」」
・ ・ ・ 。
「「疲れたぁあああああああ……‼︎」」
安心して下さい。
わるいことはしてません。
するとしたら……このあとです。
「依頼も終わった……またヤらねェ?」
「どんな御誘いですか……偶然、綺麗なベッドがあっただけで、なんで……急に」
「てめぇがあんまりにも良い声で鳴くからよォ? ムラムラして来た」
「よく言葉に出してそんな言葉を……まぁ、確かに私も貴方を見てたら少し……」
いやいやいや惑わされるな! これは暑くて錯乱状態になっているだけで……‼︎
だって、汗をかいて服を少しはだけさせてるだけです‼︎ 落ち着け……落ち着くのです、私‼︎
「へぇ。てめぇも乗り気なのかよォ?」
整った顔を近付けてくる橙条さん。
汗で髪が額や首筋に張り付いていて。
煽情的な目で真っ直ぐ私の目を捉えてきて。
逃げられない———
「……だだだだ、だめです‼︎」
「いいじゃねェかよ。ヤらせろよ」
橙条さんに抵抗するべく、彼の額を押す。彼もそれを押し返すように、頭を近づけて来る。舌を出して、この人……完全にヤる気だ。
「だめです‼︎ 一応、有力者達を無力化したとはいえ、人は残ってるんです! それに、まだ昼間ですよ⁉︎ 依頼もまだ残ってます! 絶対、だめですっ‼︎」
「チッ……まァいいさ。オレは無理矢理犯す様な酷ェヤツじゃねェからな」
助かった。
「ンで、次の依頼は」
「“息子が深夜にコソコソと家を出て何処かへ行ってしまうんです。何をしているか調べて、それをやめさせてください”だそうです。因みに、これは事前に調査は済ませてありますから、直接息子さんにお話に行くだけです。で、これが資料です」
「……げ、中坊かよ……が売春⁉︎」
「私も一ヶ月程、調査の為にやった事がありますが……アレはサイアクですよ。私は女なので、男性にされるだけでしたが、やっているのは男の子ですからね。女性にされるパターンもありますし、男性にされるパターンもあります。軽くトラウマになっていてもおかしくありません」
「待て待て待ててめぇ今なんて」
「私も一ヶ月程、調査の為にやった事がありま」
「ふざけんなッ‼︎ 体は大切にしろよ‼︎」
「……すみません」
「てめぇは自分の反省でもしとけ。この依頼、俺がやってやる」
「……分かりました。では、私は次の依頼に……」
「依頼内容は?」
「とあるヤクザが女性を誘拐して襲っている様なので、成敗しに行きます」
「どうやって」
「誘拐されて、向こうが油断している内に無力化します。薬を盛られた場合如何なるかは分かりませんが、まぁ大丈夫で」
「駄目だ、絶対やめとけ‼︎ だから、体を大切にしろっつーの‼︎」
「そうするのが一番楽なんです!」
「てめぇに何かあったら嫌なンだよ‼︎」
「私が嫌じゃないんですから、良いんです‼︎」
「てめぇが何を言おうが、俺は許さねェ」
「橙条さんは橙条さん、私は私ですので、橙条さんが許すとか許さないとかは私には関係ありません‼︎」
「ある‼︎ ……好きな女がクソ豚男共に汚されるかもしれねェのを、放っておける訳ねェだろ」
………………………………え。今、私、告白され……
「……って、オイ!? 大丈夫か」
顔に熱が集まっていくのが分かる。きっと、私の顔は林檎みたい真っ赤になっているだろう。
私を作った研究者達、そして湊さんへ。
愚かな人形の私が、恋を知るかもしれません。
「あ、えっと……その、ぁ……あの、愚かな私にはまだ“恋愛”と言う知識が無くてですね? 如何返答したら良いか分からないのですが……」
「はぁ……別に、答えは要らねェよ。ま、そう言う理由があるから、てめぇはその依頼も駄目。他の、猫探し並みに平和な依頼やっとけ」
結局、その日は暴力沙汰や探し物、浮気調査等の依頼を一通り熟して終わった。
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