魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第54話 謹慎? んなのどーでもよくね
前書き
「おかえり、琴葉。おかえり———日常‼︎」
って前回、めっちゃカッコつけて一部が終わったけどさ?
「琴葉センパイちわーっすぅ‼︎ ミオウちゃんとーじょー‼︎ 看守長からお手紙だよん! ラブレターかなぁ⁉︎ わくわく♪」
「……虹村さん、でしたよね。有難う御座います。えーっと、なになに。『黒華琴葉を一週間の謹慎処分とする』ですって」
「日常戻ってねぇじゃん‼︎‼︎‼︎」
ってわけで、琴葉がどっか行った。
第一魔法刑務所に行って初日に謹慎処分を喰らった私は、現在街中を———
「あぁああああああめんどくせェ‼︎ なんでオレがコイツの監視なンかしなきゃいけねェんだよ‼︎」
橙条さんと歩いて居ます。
「大体、何で自宅謹慎じゃねェんだよ‼︎ 何でクソ寒い外に出なきゃいけねェんだよ‼︎」
「私は基本家に帰らないんです。だから家は今頃埃まみれだと思いますけど」
「だとしても暖房あるンだから家の方が良いだろ」
「家は暇なんです。外なら面白い事がそこら中に転がってますから。きっと、外に出た方が楽しいで」
「———きゃぁぁああああああああああ‼︎‼︎」
狭い路地から出た瞬間、女性の悲鳴が聞こえてくる。
目の前には、横断歩道に突っ込んで行く大型トラックと、赤ん坊を抱いた女性の姿。
恐らく、悲鳴はあの女性のものだろう。
これだから外に出るのは楽しいんです。
「……お姉さん。怪我は無いですか?」
「へっ……? え、あの……」
「もう大丈夫です。此処は歩道ですよ」
「で、でも、私……トラックに轢かれて……」
「轢かれて居ませんよ? お子さんも無事です」
だって、寸前のところでしっかり助けましたからね。今は姫抱き状態にして、歩道で話して居ます。
「え……? あ、ああ……ありがとうございますっ‼︎ あなたは命の恩人です‼︎」
「いえいえ。目の前で起こりうる悲劇を見過ごすなんて、出来ませんからね。それに、こんなに可愛らしいお子さんだって居るんですから」
お姉さんを下ろしてから、お姉さんが腕に抱く赤ん坊に、魔法で飴を出してあげて、それを差し出す。赤ん坊は嬉しそうにそれを取って、「あいがと!」と満面の笑みを浮かべる。癒し。
「気を付けてくださいねー!」
「ありがとうございました……‼︎」
手を振りながら、お姉さんが去って行くのをぼんやりと眺める。
「てめぇ……クソ馬鹿だよな」
「マフィアの一員でも人間です。目の前で死にそうな人を見過ごす訳には行きません」
「人殺してンのに?」
「静かにして下さい」
◇ ◇ ◇
「ふんふふんふふ〜ん♪」
「随分と機嫌が良いじゃねェか。ただ歩いてるだけなのによォ」
「歩き疲れたら言ってくださいね。因みに、私は全く疲れて居ません!」
「オレだって疲れてねェよ‼︎ 要らねェ心配すんじゃねェ‼︎」
「分かりましたよー。で、機嫌が良い理由は、面白い事が起こりそうな気がするからで」
「わぁあああああああああ‼︎ どいて、退いてくださいぃぃいいいい‼︎」
横からそう叫び声が聞こえた時には既に遅かった。
思いっ切り横から追突され、横に倒れる。
「いてて……ぇ、あ……ああああの、すすすすすすすみません、すみませんんんんんんんん‼︎‼︎‼︎‼︎」
「い、いえ……大丈夫ですよ……そんなに急いで、如何しましたか?」
「ああ、そうだ……‼︎ 今、刃物を持った元カノに追われてて……‼︎」
どんな状況。
「無茶承知でお願いします……! 助けて下さいぃぃいい……お礼は幾らでもしますぅぅうう……」
「はぁ……分かりました」
「———ハル‼︎ なんで逃げるのよ⁉︎」
面白そうですね。此処は、ちょっと頑張っちゃいますかね。
橙条さんに口パクで「どっか行って」と伝えると、額に青筋を浮かべながら、近くの物陰に隠れる。あとでどれだけ怒られるか分からないのが滅茶苦茶怖いのですが。
「“ハルくん”? あの女の人、誰?」
「はぁ⁉︎ アンタこそ誰よ‼︎」
「私? ハルくんの“彼女”だけど?」
ブッフォァと噴き出す音が聞こえたのは気の所為だろうか。
「え⁉︎ かの、じょ……?」
「そうだけど何?」
「違う、違う‼︎ 私がハルの彼女なの‼︎ アンタなんか知らない!」
「知らなくて結構。だけど、ハルくんは貴女のことを怖がっているんだけど? ハルくんみたいな優しい人、貴女みたいな包丁持って暴れてる人にハルくんは似合わないわ」
「うるさいうるさいうるさい‼︎ ハルは私のモノなの‼︎」
「ハルくんはモノじゃない‼︎ ハルくんは今、私を選んでくれたの‼︎ それを否定するのは、ハルくんの意思を否定するのと同じ!」
「うっ……ごめんなさい……ごめんなさい、ハル……」
「え、ぁ……良いよ、謝らなくて……俺も悪かったから、さ……」
「……でも、私、諦めないから。ハルが振り向いてくれるように頑張るから!」
そして、元カノさんは去っていった———
「てめぇのその演技、どっから出てきてンだよ」
「まぁ、色々して来てますから」
「……ありがとうございました‼︎ もう、なんとお礼を言ってらいいか……」
「いや、お礼は要りませんよ。困っている人を助けたまでです」
「でも、このままじゃ俺の気が済まなくて……あ、そうだ! 俺、ジュエリーブランドに勤めてるんですけど……よければこれを……」
「指輪、ですか……綺麗ですね。でも、かなりお高いのでは?」
「俺が考えたヤツの試作品なんです! ずっと誰かにあげようて、出来ればはめて貰ったところを見てみたいなとは思ってたんですけど、あげる人が居なくて……その、貴女は命の恩人ですから、是非貰って欲しいんです‼︎ 出来れば……つけていただいたりも……出来ませんか?」
「勿論です。……わぁ! キラキラと光を反射して、とても綺麗ですね!」
「あ、ありがとうございます‼︎ で、それを……貰ってはいただけませんか?」
「良いのですか?」
「はい‼︎」
◇ ◇ ◇
「らんららんらら〜ん♪」
「夜になっても絶好調かよ……」
「楽しかったんですもん! トラックに轢かれそうになっているお姉さんと赤ちゃんを助けたり、元カノに襲われかけていた男性を助けたり」
「マフィアがそれでいいのか?」
「人は皆自由であるべきです。それがマフィアであっても、です」
「ふーん……」
とそこで目の前に不審人物を発見。
パンツ一丁で道路に蹲っている男性が居たのだ。
「なんですか、あれ」
「知らね」
「流石に声を掛けにくいので、声を掛けてくれませんか?」
「嫌だ! 絶対、い、や、だ‼︎」
「……たすけてくれぇえええええ……! 僕にお金を恵んでくれぇええええ……‼︎」
「……だそうだ。黒華」
男性が倒れているのはカジノの入り口。きっと、賭けに負け続けて全部取られてしまったのだろう。
まぁ、賭け事で失敗した人に掛ける慈悲なんて、親族でも友人でも無いのだから、ない———
「どーしましたか。おにーさん」
出来るだけ男性を直視しない様にしながら、私は問い掛ける。
まぁ、賭け事がなんだって話ですよね。優しい私は助けてあげるのです。
「今手持ちのお金は? 無一文という訳では無いですよね?」
「百五十円……それしかねぇ……」
「なら百円下さい。足りない分は私が出しましょう。三十分後くらいに帰って来ますので、それまで私の連れと一緒に待ってて下さい」
という訳で、いっちょ、カジノを荒らしに行きましょうかね。
最低賭け金が安いところで、只管増やしたら、高いところに行って一気に稼ぐ。
三十分後、何故かディーラーさんに強制退場させられた。悪い事はしてないですよ?
「お待たせしました。これだけあれば充分ですか?」
「え、こんなに……というか、貰えませんよ‼︎ こんな額‼︎」
「大丈夫です。足りなかった分で私が足したお金は既にそこから抜き取ってありますから。これからは、服まで毟り取られる前にやめて下さいね。あ、服も買い戻して来ましたので。では」
長引くのも面倒臭いので、直ぐに其の場を後にする。
「……謹慎って言葉の意味、知ってるか?」
「さぁ? 知りませんねぇ」
謹慎初日。
まだまだ、休みは始まったばかりだ。
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