| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二百二十六話 マダム=バタフライその十三

「せめてと思いたい」
「そうですね、僕もです」
「そう思うか」
「はい」
 蝶々さんのお子さんも子孫もだ、心から思う。だからこそはっきり答えることが今も出来た。それも淀みなく。
「お吉さんにしても」
「史実は重要だ」
 歴史、それはというのだ。
「だがそれを絶対視して創作を狭めるとな」
「よくないですね」
「ある程度の性格の変更もいいしだ」
「それ位は幾らでもありますね」
「そして結末もだ」
 これもというのだ。
「やはりな」
「幸せなものにしてもいいですね」
「そう思う、そしてだ」
 それでと言うのだった。
「ハリス公使とお吉さんが結ばれてもな」
「いいですね」
「この作品のハリス公使は若々しく純粋でな」
「いい人ですか」
「だからお吉さんとも幸せになれる筈だ」
 何でもハリス公使は生涯独身だったらしい。
「そしてあの人が幸せになるのならな」
「結ばれるお吉さんもですね」
「幸せになる」
「そうなりますね」
「だからだ」
 それでというのだ。
「そうなってもいいだろう、しかし」
「しかしといいますと」
「外交人と結婚してもだ」
 それでもとだ、井上さんは僕に遠い目になって話した。
「今は何でもないな」
「はい、それは」
「しかしだ」
「当時は違っていましたね」
「そうだった」
 蝶々さんを見てもお吉さんを見てもわかることだ。
「蝶々さんは自害してだ」
「お吉さんもでしたね」
「知っているな、自殺している」
「入水自殺でしたね」
「ハリス公使達と数日いただけでだ」
 幕府のお声がかりでだ、ほんの数日そうしただけでお吉さんの運命は暗転してしまったのだ。これも歴史の残酷さか。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧