戦国異伝供書

「ですから」
「それは別にしてか」
「はい、父そして祖父もです」
「わしに王道を歩んでもらう為にか」
「それがしを甲斐に送りました」
「左様か。しかし今は戦国の世」
　晴信は自分に語る幸村にれ聖菜声で述べた。
「血は避けられぬぞ」
「はい、仕方ない時はありますが」
「無駄な血はか」
「避けるべきであり」
「王道はか」
「不要な血は流さぬ様にして」
　そしてというのだ。
「進むべきと思いますので」
「お主はそれを助けるつもりか」
「その為に参上しました」
「ではお主にその力はあるか見たいが」
　ここでだ、晴信は笑って幸村に告げた。
「よいか」
「さすれば」
「お主の得手は何じゃ」
「槍と馬、手裏剣、忍術に水練に兵法です」
　こうしたものだとだ、幸村は答えた。
「政も学んでいます」
「では全て見たい、よいか」
「それでは」
　幸村は館の内外で晴信の前で武芸を見せてそうしてさらに晴信に問われた兵法そして政のことを全て淀みなく即座に答えた、その後でだ。
　晴信は自分の思いを隠して幸村に述べた。
「それなら問題ない」
「では」
「わしに王道を歩ませるかどうかはわからぬが」
　それでもというのだった。
「お主の資質はわかった」
「武田家にお仕えするだけのものがですか」
「ある、ではお主をこれより家臣の一人とする」
　こう幸村に述べた。
「よいな、そしてお主は一人で来たか」
「十人の家臣が供をしてくれています」
　幸村は十勇士達のことを答えた。
「それがしにとって最高の家臣であり友であり義兄弟です」
「ではその者達もじゃ」
「武田家に入れて下さいますか」
「お主の家臣としてな、お主には馬と陣羽織を許す」
　この二つを戦の場で使うことをというのだ。
「そしてわしとこうして会うこともな」
「許して頂けますか」
「そのうえで武田家に尽くすのじゃ、よいな」
「有り難きお言葉、それでは」　
　こうして幸村は十勇士と共に武田家に仕えることになった、晴信は彼に屋敷を与えてそこに入れたがその後でだった。
　信繁を呼びこう言ったのだった。
「勘助の言う通りじゃ」
「あの真田の者は、ですか」
「武芸も兵法も比類ない」
「恐ろしい武士ですか」
「しかも心までしっかりしておる」
　こちらも備えているというのだ。
「まさに心技体、智勇を併せ持ったな」
「天下一の武士ですか」
「わしは恐ろしい者を家臣にした」
　晴信はこうまで言った。
「間違いなくわしを助けてくれてじゃ」
「王道もですか」
「歩ませてくれる、今も当家は優れた家臣達がおるが」
「そこにさらにですな」
「あの者も加わった、これで敵なしじゃ」
「少なくとも信濃攻めには」
「そうじゃ、ではまずはな」
　ここまで話してだ、晴信は弟にあらためて話した。
「諏訪にまで兵を進めてじゃ」
「高遠殿も抱き込み」
「諏訪殿に迫ろうぞ」
「降ることをですな」
「そうしようぞ」
　こう言ってだ、晴信は幸村を家臣に加えたことを喜びつつ自らも出陣したうえで諏訪に兵を進めていった。