戦国異伝供書
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第三十五話 天下一の武士その四
そしてだった、その中で。
「遂にです」
「高遠殿がじゃな」
「ない、当家に従うとのことです」
山県が晴信に述べる。
「そう言ってこられたとのことです」
「その見返りは、か」
「諏訪大社の宮司です」
「即ち諏訪家の家督じゃな」
「それをです」
まさにというのだ。
「欲しいとのことで」
「それでじゃな」
「当家につくとのことですが」
「そのことは言っておるがのう」
晴信は山県の話をここまで聞いて難しい顔で述べた。
「わしはあの御仁はな」
「諏訪家の宮司、棟梁にはですな」
「なれるとな」
「傍流なので」
「無理だと言っておるが」
「それならばですな」
「諏訪殿の叔父御殿がおられるな」
この者のことを話すのだった。
「あの家が継ぐ」
「血筋から考えて」
「そうじゃ、高遠家は離れておる」
諏訪家からというのだ。
「だからだな」
「それで、ですな」
「あの御仁はな」
高遠頼継、彼はというのだ。
「諏訪家の主にはな」
「なれませぬな」
「そうですね、しかしです」
「それでもじゃな」
「高遠殿は何とかと言われ」
それでというのだ。
「そうしてです」
「それでか」
「諏訪家の主にか」
「その為に今出陣の用意もです」
それにもというのだ。
「入っておられます」
「本気で戦われるつもりか」
「そして我等にもです」
武田家にもというのだ。
「是非です」
「諏訪家を攻めよとか」
「そして諏訪殿もです」
その彼もというのだ。
「お館様の妹婿でありますが」
「腹をか」
「陰にそうも言われております」
「自分が主になる為には本家の主にも死んでもらうか」
「そこまで言われています」
「難儀じゃな」
まさにとだ、晴信はここまで聞いて述べた。
「それは」
「左様でありますな」
「うむ、しかしな」
「それでもですな」
「わしとしてはじゃ」
どうにもとだ、晴信は難しい顔で述べた。
「出来ればじゃ」
「諏訪殿をですな」
「そこまでしたくない」
「左様ですな」
「確かに諏訪家の主の座はどうしてもと言われておるが」
それでもというのだ。
「出来れば説得してな」
「そのうえで」
「諏訪家の主の座を退いてもらってな」
「以後はですな」
「当家の一門衆としてじゃ」
その立場でというのだ。
「仕えてもらいたい」
「左様ですな」
「しかもわしはあの御仁の妹を側室に迎えておる」
晴信はこのことも話した。
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