未来を見据える写輪の瞳
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三話
(あーあ、やだねぇ)
カカシは大きなため息を一つ零すと、先ほどのやり取りを思い返した。
「さて、タズナさん。一つお聞きしなければいけないことがあります」
下忍の説教からようやく抜け出せたカカシは先ほどまでとは打って変わって真面目な面持ちでタズナを見据える。カカシの視線の先にあるタズナの表情は硬い。
「任務の内容は橋の建設を邪魔するギャングからの護衛だったはずです。なればこそ、この任務はCランクであり、我々に回ってきた。しかし先ほどの忍達……彼らの狙いは明らかに貴方だった。
忍が出てくるとなれば最低でもBランクになっているはずですが……」
カカシの声音には虚偽は許さないという威圧が込められていた。それはタズナにも理解できたのか、数秒の沈黙の後、タズナは事の真相を明かした。
要約すると、タズナは敵……ガトーカンパニーが忍を雇っている事を知っていた。しかし、波の国は大名ですら金を持っておらず、とてもではないが高額のBランク任務を頼むことが出来なかったとのことだ。
「なるほど、そういうことですか」
依頼の内容を偽るなど木の葉からしてみれば忌々しいことこのうえないが、逆の言えば木の葉は一般人の偽装すら見破れなかったということだ。正直言って、その事実は不味い。ただえさえ、木の葉は他里から平和ボケしていると揶揄されているのだ。こんなことが知られればたまったものではない。
「とりあえず、ご自宅までは護衛を続行します。ただし、その後については里の判断を仰ぐことになります」
「元はと言えばワシが悪いんじゃ。どうなろうと礼こそすれど文句は言わんよ」
かくして、カカシ達はタズナの護衛を続行することになったのだった。
が、問題はここからだ。先ほどナルト達が撃破した忍びは霧隠れの忍びで立ち位置としては中忍。一人前の忍者と言って過言ではない者たちである。しかも、彼等はその中でもそこそこに名が通っている腕ききだ。
とはいえ、上忍でもトップクラスの実力を持つカカシの敵ではない。だが、彼らの後ろ。彼らを最初の当て石に使う様な人物がそう簡単に御せるだろうか。少なくとも上忍クラスであろう敵の親玉を思うと、カカシはため息をつくことしかできないでいた。
そして、その時が訪れる。
「そこだぁ!!」
ナルトの突然の手裏剣の投擲。手裏剣が飛来した場所は間違いなく、カカシが何ものかの気配を感じたその場所であった。茂みをかき分けその場所を見る。すると、そこに居たのは頭頂部に手裏剣の刺さったウサギが一匹。だが、そのウサギがおかしいことに真っ先にカカシが、少し遅れて聡明なサクラが気付いた。
「せ、先生! そのウサギって!?」
「サクラ。お前の思っている通り、コイツは変わり身様に育てられたウサギだ。つまり、だ。
来るぞ!」
ブオンブオンと手裏剣など比ではないほどの風切り音を放ち、人の身の丈ほどもある刃がカカシ達に襲いかかった。
「しゃがめ!」
カカシの指示に下忍達は考える間もなくその身を地面へと近づける。カカシは唯一状況を理解できていないタヅナを強引に地面へと押し倒す。
カカシ達の頭上を通った巨大な刃はやがて一本の木に刺さり、その動きを止める。そして、その刃の上に降り立つ影が一つ。
「写輪眼のカカシとお見受けする」
「これはこれは、霧隠れの鬼人”桃地 再不斬”君じゃないですか」
霧の忍刀七人衆が一人、桃地 再不斬。予想外の大物の登場に、カカシの頬を一滴の汗が流れた。
「お前らはタズナさんを頼む」
カカシはそう言うと、一歩前へと踏み出し桃地再不斬と対峙する。そして、カカシは……
「プ……眉なし」
口に手をあてて笑い出した。その行動にナルト達が唖然とする中、笑われた当人である再不斬は額に青筋を浮かべていた。心なしか、体も怒りで震えているようだ。
「テメェ、よっぽど死にてぇようだな」
ジャキリ、と重量感漂う音を鳴らしながら大剣を再不斬は構える。これぞ、霧の忍刀が一刀”断刀首斬り包丁”だ。
それに対し、カカシは腰のホルスターから一本のクナイを抜き放つ。何の変哲もない、ただのクナイだ。多くの忍びが使う一品だが、首斬り包丁の前では頼りない印象を得る。
「こいよ眉なし」
「ッテメェ!」
ブチリ、と何かが切れる音がすると同時に再不斬が首斬り包丁を振りかぶりカカシへと襲いかかる。空を切る凄まじい音を伴って繰り出された上段からの一撃は、カカシに難なくかわされてしまう。
大剣はその威力に比例して技後硬直が大きい。教科書通りの先方でカカシは剣を振りきった再不斬へとクナイによる突きを放つ。だが、大剣の弱点など再不斬とて百も承知。なんの対策もしていないはずがない。
「舐めるなよ、カカシィっ!」
「ッ!?」
クナイを握る右手、その手頸を正確な蹴りが撃ち抜く。カカシはそれによりクナイを取り落とすが、追撃はさせぬとすぐさま距離をとった。
「んー、さすがにあんな挑発にはのらないか」
「舐めてんじゃねえぇぞ。すぐにその首すっ飛ばしてやる」
訂正。効果がないだけで挑発事態は成功している。だがそれじゃあ意味がないとカカシは心中で一人突っ込みを入れた。
そんな余計なことを考えらがらもカカシは新たなクナイをホルスターから取り出し、現在の戦況を分析していた。
(さすがにやるな。今のところ仲間がいる気配は無いが……ナルト達ならある程度の相手なら大丈夫だ。かといって、安心もしてられない、か)
現在、カカシと再不斬の攻防は互角といったところだ。だが、カカシは再不斬に勝った所で勝利したことにはならない。今の彼が行うべきは護衛の対象なのだ。いくら手配書に載る様な忍を倒した所で依頼を失敗しては意味が無い。
時期尚早ではあるが、カカシは自身の切り札を一つ、切ることにした。
「再不斬、お前は強い。だから、本気で行かせてもらう!」
左目を覆い隠していた額当てをグイと持ち上げる。現れるのは縦に走る大きな傷。そして……
「それが噂に名高い写輪眼か」
紅い瞳に三つの勾玉文様が浮ぶ。血継限界、写輪眼が姿を現した。
「さぁて、第二ラウンドといこうか」
写輪の瞳を解放したカカシが静かに笑った。
「間違いない、あれは本物の写輪眼だ」
「写輪眼?」
「何だってばよ、それ」
写輪眼という言葉が出てからというもの、何処か落ち着きなかったサスケが目を見開いてカカシを凝視している。いや、正確にはカカシの左目だ。
「血継限界ぐらいは知ってるだろう。あの瞳……写輪眼もその一つでうちは一族にのみ現れる筈のものだ」
「え!? それなら何でカカシ先生が……」
「よく分かんねーけどカカシ先生はうちは一族じゃねー。だからおかしいってことだろ?」
カカシの瞳が血継限界だと明かされ、ようやくサクラにもサスケの挙動に納得がいった。あり得ないはずの血継限界、しかも自分の一族のものを持っているとなれば驚かないはずがない。だが、今はそれより重要なことがあった。
「サスケ君。それで、その写輪眼はどんな力を持っているの?」
疑問は後で解消すればいい。今は敵、再不斬を退けられるかが重要だ。この局面で出したということは強力な力を持っているのだろうがそれを知っているのと知らないのとでは安心の度合いが違う。
「効果は様々だが、代表すると体術・幻術・忍術の仕組みを看破でき、また視認することによりその技をコピーし、自分の技として使うことができるって所だ。もしカカシが写輪眼を使いこなせるなら、これ以上ないアドバンテージを得られるだろう」
「何か凄そうだってばよ」
理解しきれていないナルトはともかく、サクラはその強力すぎる能力に舞いあがる様な気持だった。これならば、きっと再不斬を退けることに違いない、と。しかし、サスケはその後に言葉を付け足した。
「カカシがどうやって写輪眼を手に入れたか知らないが、うちは一族でない以上その消耗は激しいはずだ。この勝負、勝つにしても負けるにしても、決着はすぐだぞ」
甘い話には裏がある。強力な力だからと言って、それに頼り切っていては足元をすくわれる。サスケの言葉にそのことを思い出したサクラは再び気を引き締め、周囲を警戒しながら師の戦いの行く末を見守るのだった。
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