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未来を見据える写輪の瞳

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二話

 「ねえ先生ってば、いつまで俺達こんな任務しなかやいけないんだってばよ」

 ナルトがそんな言葉を漏らしたのは、迷子の猫を探すというDランク任務を終え、新たな任務を言い渡されるその時であった。

 「んー、そう言われてもなあ」

 Dランク任務。主に新人下忍に言い渡される任務だが、任務とは名ばかりの雑用が殆どを占めている。はっきり言って、忍びがやらなくていいことばかりだ。だが、里としては馬鹿に出来ないものがあるのだ。
 その例として、ナルト達が先ほどこなした迷い猫の捜索は火の国のお偉いさんの婦人からの依頼だ。木の葉にとって火の国とは大手中の大手の取引相手。たとえくだらない任務であろうと、こういった日ごろの積み重ねから信頼を得るのはとても大切なことなのだ。

 「私も、さすがに……」

 「同感だ」

 「いや、言いたいことは分かるんだが……」

 Dランク任務の大切さはカカシも知っている。だが、ここ最近はその頻度が以上だ。さすがに、修行が出来ないほどに任務を押しつけられているのには、カカシも不満を抱かずにはいられない。

 「と、言うわけでして。修行をするための休暇、もしくわCランク任務を頂けないかと」

 思い立ったが吉日。今日は火影が依頼伝達の席にいることを思い出したカカシは迷い猫捜索任務の達成報告のついでに、直談判に出ることにした。カカシの後ろではナルトら下忍がもうDランクは嫌だと必死に目で訴えかけている。

 「何がと、言うわけじゃ。お前さんたちの次の任務は、ほれ、この通り。既に決まっておる」

 Dと大きく書かれた書類を振って見せつける火影。それを見たナルト達は一斉に顔を落としていた。また、雑用をするしかないのか。ナルトも、サクラも、サスケもそう思った。だが、忘れてはならない。彼らの担当上忍ははたけカカシ。木の葉現役最強と名高い、超一流の忍びである。そんな彼が、なんの手札もなしにこんなことを言うはずがない。

 「火影様、お言葉ですが……」

 「何じゃ?」

 マスクで見えないものの、火影は確かにカカシがニヤリと笑みを浮かべたことを感じ取った。そのことに眉をしかめながら、カカシに続きを促す。

 「現在、私達第七班がこなしたDランク任務の数は八つになります。ですが、他の新人下忍二班はどうでしょうか?」

 そこまで聞いて、火影はカカシが何と言わんとしているかを察した。そして、それは正当性のあるものであると。

 「他の二班がこなした任務の数は四と三。明らかに我々より少ない」

 「う、うむ」

 本来、任務は均等に分配されることになっている。特A任務ともなればそもそもこなせる人材が限られてくるため中々裁量の難しい所ではあるのだが。だが、ナルト達が今行っているのはDランク任務。誰にでもこなせる雑用だ。なればこそ難しく考えずに均等に任務を与えられるはずなのだ。

 「さて、私達が一日に複数の任務をこなしているというのに、他の班は何をしているのやら」

 「ええい、分かった! お前達には別の任務、Cランク任務を行ってもらう!」

 それを聞いたカカシは再び、ニヤリとマスクの下で笑みを浮かべた。



 「任務の内容じゃが、ある人物の護衛を行ってもらう。期間は件の人物が故郷にて作成中の橋が完成するまで。作業を妨害してくるギャングから守って欲しい、とのことじゃ」

 護衛というやりがいのありそうな任務になるとは眼を輝かせ、サスケも僅かだが笑みを浮かべている。そしてサクラは、結構長い任務になりそうねー、着替えとかの準備しないとー、と一人思考していた。
 カカシもギャング程度が相手ならば今の三人でも早々遅れはとるまいと判断し。いい経験になるだろうとその任務を受諾した。

 「うむ。それでは、護衛対象の方に早速会ってもらう。タズナ殿、どうぞこちらへ」

 そう火影に促されてカカシ達の前に姿を現したのは長身で白い髪、白い髭の老人だ。老人とはいっても足取りはしっかりしており、まだまだ若さがみなぎっている感じだ。

 「ワシが橋づくりの名人タズナ。依頼人じゃ。それにしても、こんなガキばっかりで大丈夫なのか?」

 「ハハハ、上忍の私がついてますから安心して下さい」

 ガキ扱いされてタズナにつっかかろうとしたナルトの首裏を掴み上げ、カカシは乾いた笑い声を上げた。





 「それじゃあ、出発するぞ」

 あの後、第七班のメンツは一端解散。その日の残りを準備時間とし、明朝、門の前に集合とした。そして、出発の時間が訪れたのである。
 一行は無理のないやや遅めのペースで歩き続ける。目的地であるタズナの故郷、波の国へはそれなりに距離がある。到着までには何度か野宿をするだろうし、疲労を抑えるべきだという考えの元である。

 「そういえば、カカシ先生。私達がこれから行く波の国って、忍者はいるの?」

 「いや、波の国に忍はいない。火の国、水の国、雷の国、風の国、土の国という五大国がそれぞれ有する木の葉、霧、雲、砂、岩隠れの里を筆頭に数多くの忍の隠れ里が存在しているが、波の国には忍の隠れ里がないんだ」

 「へぇ~」

 サクラはアカデミー座学トップだったはじなのに、こんなことも知らないのか? アカデミーの授業内容を見直した方がいいんじゃ、と柄にもなく今の時代を憂いていたカカシだが、道端にある一つの”水たまり”を発見し、ほんのわずかだが目を細めた。

 (……これは、面倒なことになりそうだ)

 小さくため息をつきながら、来る戦いに備えカカシは気を引き締めた。





 「さて、道中ただあるいているだじゃもったいない。お前達に一つ修行を課そう」

 「ええ!? 歩きながら修行すんの!?」

 この任務が面倒になりそうなことを察したカカシは少しでもこの状況を利用しようと目論む。自身の負担は増えるが、やはり成長するには実戦が最適なのだ。

 「なに、そうむずかしいことじゃない。お前達には違和感を探してもらう」

 「違和感?」

 首を傾げたサクラだけではなく全員に一つ一つカカシは説明していく。

 「今回の任務は護衛だ。つまり、俺達は狙われる側ということだ。基本的には襲ってきた敵を迎え撃つわけだが、此方の隙をうかがう敵を見つけ、倒すこともあるかもしれない。その隠れた敵を探すには?」

 「違和感を探せ、ってことか」

 「その通りだサスケ。何気ない光景に潜む僅かな違和感。それを見つけられるかが非常に大事だ」

 三人がちゃんと己の話を理解している事を確認しながら、カカシは歩く。少しずつ近づく気配を察知している事をおくびにも出さずに。

 「今、ここまで来る中にも凄くおかしなものがあった。よーく思いだして見ろ」

 隠れていた者の気配が変わる。今の会話を聞いて、カカシが自分たちの存在に気付いていたことを知ったのだろう。時間が経つにつれ、敵意……いや、殺気が高まっていくのをカカシは感じ取る。

 「違和感……違和感……」

 「何かあったかしら?」

 「チッ、分かんねえ」

 三人とも必死に思いだそうとしているが、中々難しい様だ。これは、奴さんが仕掛けてくるのが先か? とカカシが思った所で、ナルトが目を見開き口を開いた。

 「あー! そういえば、水たまりがあったってばよ!」

 「水たまり?」

 「それのどこがおかしいのよ?」

 「ここ最近雨なんてふってなかったから普通水たまりなんてないはずだって!」

 どうやら、自分たちの力で答えを出したようだ。カカシは満足そうに頷き……

 「正解だ。よくやったぞ、ナルト」

 ナルトに賞賛の言葉をかけたとほぼ同時に、その身を三つに切り裂かれた。



 「え?」

 下忍達三人は目の前の光景を受け入れられず、茫然と立ち尽くした。修行の機会は少なかったが、皆カカシの実力は知っている。今の自分たちでは到底届かない、そんな高みに居る筈のカカシが殺された。今、目の前で。

 「っ! 動けええええ!!」

 頬に生温かい何かが付着したことで、サスケがいち早く我を取り戻す。今、自分達は襲撃を受けている。ならば、成すべきことは一つだけ。

 「ナルト! 影分身を出してサクラとタズナの護衛に回せ! 本体は俺と敵を迎え撃つ!」
 
 サスケの怒鳴るようにして言い放たれた指示の声に、残りの二人もようやく気を取り戻す。動きはぎこちないが、サスケの指示通りに動きだす。

 (カカシを殺るような奴等を、俺らが相手に出来るか? いや、やらなきゃやられるだけだ!)

 心は熱く、頭は冷静に。サスケは先手を取るべく、最も結びなれた印を最速で組んでいく。馬の印、そして寅の印へと続き、術は成る。

 ――火遁・豪火球の術!

 サスケの口から巨大な火球が放たれる。火遁の基礎忍術、豪火球の術だ。基礎とはいえ、下忍がそう簡単に会得できる忍術ではないのだが、サスケは火遁に相性の良い血筋と、その類まれなる才によってそれを可能としていた。

 「ほう」

 しかし、巨大な火球とはいっても外と言う広い空間では大した脅威ではない。鋭い爪のついた手甲を装備した敵の忍びは、左右に分かれることで難なくその術を交わす。

 「そこぉっ!」

 だが、そんなことはサスケ達とて先刻承知。始めから豪火球は敵二人を分断させるためのものだった。
 そこへ、サクラが投擲した手裏剣が襲いかかる。

 「甘い甘い」

 しかし、何の工夫もなく放たれたそれは容易く手甲によって弾かれる。だが、彼らの攻撃はまだ、終わらない。

 「甘いのは、お前だってばよ!」

 手甲によって弾かれた手裏剣、その一つがボフンという音をたててナルトへと姿を変える。この予想外の出来ごとに、体を硬直させた忍びはナルトの放った蹴りを無防備な顎に受けることになる。

 「っしゃあ! まずは一人!」

 かねてより仲間で練っていた策の一つが成功したことでいつもの調子を取り戻したのか、ナルトの顔にはもう怯えの表情は無い。それどころか、もう一人も俺が倒してやると勇んでサスケへの救援に向かった。



 ほどなくして、ナルトの加勢を受けたサスケは残ったもう一人の忍びを打倒する。
 戦闘が終わり、一段落した所でカカシの死体だと思っていたものが実は変わり身用の丸太で、血だと思ったものはトマトジュースだったと知った彼らが大きなため息をついて脱力したのは仕方のないことだろう。
 ちなみに、姿を現したカカシは下忍達によって説教をくらった。 
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