八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二百十一話 紅葉が見えてその五
「一方的に言うな」
「馬鹿な人なんだ」
「ヴィオレッタの何処が穢れているんだ」
ここでも怒った風な言葉だった。
「全く穢れてないだろ」
「その心はね」
「だったらいいだろ」
それならというのだ。
「本当に」
「そう言われると僕だったら」
ここで僕が挙げた話はというと。
「蝶々さんかな」
「蝶々夫人か」
「プッチーニのね」
「蝶々さんは芸者さんだったな」
「武士の家だったけれどね」
けれど武士だった父親が切腹して家は傾いてそれで芸者になったという設定だ。
「それでね」
「アメリカ海軍の士官さんと結婚したな」
「所謂現地妻だったんだよね」
「酷い話だな」
「そうだね、けれどね」
僕は蝶々夫人を中学一年の時にこの学園の歌劇場で観て以来この作品が好きでそれで大場君に話した。
「僕はずっとね」
「蝶々夫人が好きでか」
「蝶々さんもね」
この人もだ。
「好きでね」
「心がか」
「清らかで」
蝶々さんにもこう言えた。
「黄金の精神を持ってるってね」
「言えるよな」
「うん、あれだけね」
本当にだ。
「素晴らしい人はいないよ」
「ヴィオレッタも同じだな」
「ヴィオレッタも素晴らしくて」
「蝶々さんもか」
「だからね」
心から思う、このことは。
「僕もね」
「ああした人ならか」
「そう思うよ、けれど」
蝶々さんのことを思ってだ、僕は大場君に話した。
「君がヴィオレッタが本当にいたら告白しないのと一緒で」
「御前もか」
「蝶々さんが目の前にいたら」
例えピンカートン、その蝶々さんを結果として弄んだことになるアメリカ海軍の若い士官と結婚する前でも後でもだ。
「やっぱりね」
「告白しないか」
「幸せになる様に祈るよ」
「自分が告白して付き合えてもか」
「あれだけの人には僕は釣り合わないよ」
「俺が思うヴィオレッタと一緒だな」
「本当にね」
時分でもこう言った。
「僕にとってはね」
「蝶々さんがそうした人か」
「本当に心の奇麗な人だよ」
「奇麗だからこそあの結末だがな」
「生真面目で純粋で確かな誇りがあって」
無闇にプライドが高い人もいる、けれど蝶々さんは違う。武士の家の人らしくそこにある誇りは確かなものだ。
「素晴らしい人だよ」
「それはな」
「大場君もわかるよね」
「ああ、俺にとっては最高の歌劇のヒロインはヴィオレッタだが」
そうだとしてもというのだ。
「ミミも好きだし蝶々さんもな」
「素晴らしい人だよね」
「素晴らしいだけに悲しい結末だがな」
「子供を残して自決してね」
「終わるからな、だが」
「だがっていうと」
「ヴィオレッタは死んでアルフレードはどうなるだろうな」
大場君は多くの人が考えるであろう物語の『その後』について言ってきた、こう思うのは多くの物語についてこれまた多くの人が思うことだろう。
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