夢幻水滸伝
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第八十三話 江戸っ子その三
「夫婦とかな」
「まだまだ早いんだね」
「そうだ、そういうのは仕事はじめてからだ」
それからだというのだ。
「そうだろ」
「それは起きた世界のことじゃないかい」
麻友もせいろのおかわりをしつつ幸田に返した。
「違いかい?」
「まあそれを言うとな」
「その通りだね」
「まあな、じゃあこっちの世界じゃな」
「一足早くね」
「夫婦生活はじめるか」
「そうしたことも考えてね」
そのうえでと言うのだった。
「家買おうね」
「それじゃあな」
こうしてまずは家を買うことになり二人でとりあえず蕎麦屋のすぐ近くに会った家を扱っている店に入って金はあると言ってから家を所望すると。
店の親父はすぐにだ、こう二人に言った。
「それなら武家屋敷でもいいかい?」
「武家屋敷かい」
「ああ、でかいお屋敷が一つあるよ」
「そんなにでかい家かい」
「そうさ、昔は大きな旗本さんの家でな」
「その家でか」
「その人が近畿に行ってね」
そうなってしまってというのだ。
「もう主がいなくてね」
「その屋敷をか」
「そこまで銭があるんならな」
二人がそれぞれ出した紙幣の束を見ての言葉だ。
「充分過ぎる程買えるぜ」
「そうか、じゃあな」
「早速だな」
「その屋敷買うぜ、場所は何処でい」
「桜田門から少し離れた場所だよ」
「おいおい、随分いい場所だな」
この世界の江戸には大名屋敷はない、江戸城の周りには武家屋敷が集まっていてその屋敷もその中にあるというのだ。
「それはまた」
「そうだろ、いい場所にあるいい屋敷だけれどな」
「高くてか」
「買い手が見付からなかったんだよ、しかしあんたはお武家さんみたいだしな」
「おう、傾奇者だけれどな」
「銭もあるしな、じゃあな」
「それならだな」
幸田もこう応えた。
「いいな」
「いいぜ、買うな」
「おうよ、おいら決めたぜ」
「それじゃあな、早速詳しい話をするか」
「宜しく頼むぜ」
「それじゃあね」
麻友も店の主に言った。
「お屋敷の中も見せてくれるかい?」
「実物をかい」
「そうだよ、そうしてね」
そのうえでというのだ。
「買うかどうか確かめたいしね」
「御前さんしっかりしているな」
「当たり前だよ、吉君のかみさんになるんだよ」
今からその考えの麻友だった。
「それじゃあね」
「しっかりしないとか」
「鼠やゴキブリは大丈夫か、地震にも耐えられるか」
「細かいね」
「あと障子や衾の破れはないか」
そうしたことまでというのだ。
「ちゃんとしてね」
「そうしてか」
「そうだよ、本当にね」
それでというのだ。
「買うかどうか決めるよ」
「そうかい、そこまでしてだね」
「買わせてもらうよ」
「わかった、じゃあ今から家を見るか」
「そうさせてもらうよ」
実際にとだ、麻友が言ってだった。そのうえで。
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