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武装神姫 ~心と心の最前線(Front Line)~

作者:太陽と月
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第一章 『ユウナ』
  第6話 出会い 1組目

第6話 出会い 1組目

「マスター! 後ろです!」

 回避を行う。 相手の攻撃を上手く回避した。

 「必殺の一撃!」

 そこへすかさず結奈が最後を決める。

 「FINISH」 「WIN!!」

 「やりました! マスター! 私たち、勝ったんです!」

勝利のサインが場内に響き渡る。ライドアウトと同時に一気にマスコミが迫り囲まれてしまった。

 「おめでとうございます! あなたが新しいF1チャンピオンです! 今のお気持ちを! どうぞ一言!」

 結奈との距離が遠ざかる。この勝利は私だけの力ではないのに・・・。

 「マスター! マスター・・・」

 何故だろう・・・。彼女の声が遠ざかるようで、近づくような・・・

 「マスター! マ! ス!! ター!!!」

 !? 世界が崩壊するほどの驚きと痛みで飛び起きる。

 「マスター! そんな夢を見ている暇があるなら早く今日の準備をなさってください! 遅刻は許されないのに、後20分しかありませんよ!」

 急いで自転車を飛ばす。この調子だと間に合わないかもしれない。せっかく大会にエントリーできたのにこのままでは不戦敗になってしまう。ところで彼女が名状しがたいフライパンのようなものを持っていたことは触れないでおこう。

 「せっかく現F1チャンピオンと前F1チャンピオンのエキシビジョンマッチが見られるというのに・・・。どこかのF1チャンピオンのせいで!」

 本当に申し訳ない。わざとではないのだが当分は許してもらえそうにない・・・。彼女が言っていた通り、今日はF3大会が開かれる前にエキシビジョンマッチが開催される。自分たちが目指す頂きの戦いを見て士気を上げようとする運営の粋な計らいである。ん?そうじゃないか。別にチャンピオン同士のバトルは見られなくてもF3大会には間に合・・・

 「そんなのもったいないです! このような試合を生で観戦できることなんて滅多にありえないのですよ! いいから急いでください!」

 確かに今回は私に非があるが、ここまで彼女が冷静さを欠いているなんて・・・。よっぽど楽しみにしていたのだろうか。彼女の悲しむ顔と同時に例のアレが頭をよぎる。そしてその考えは刻一刻と現実に変わりつつあるようだ。出来ることなら少しだけでも間に合ってくれ。彼女の為に・・・、いや私の為に・・・。


 会場にて・・・


「ヴゥーーーーー!!!」(ブザー音) 「フゥーーーーーー!!!」

試合終了のブザーと大きな歓声が鳴り響いていた。これは彼女からのお説教タイムの開始の合図でもあり、私のこれからの休日の終了のお知らせでもある。

 「うぅ・・・。 見ることができませんでし・・・、あっ!?」

まるでこの世の終わりかのような顔をしていたのが一変、かつてこれほどまでに歓喜に溢れている顔を見たことがあるだろうか、いや、無い。一体何がそれほどまで彼女の心境を変えているのか気になり、横を見てみるとそこには・・・

「あら、見つかってしまいました。上手く撒いたと思えたのですが・・・。」

「正面・・・、突破・・・、する?」

「あ、あの・・・。もしかして『華』さんと、『咲』さんですか?」

「うん・・・、そうだよ・・・。」

私だけがこの流れについていけてない雰囲気を結奈が感じ取ったのか、

「もう! 何をぼさっとしているのですか!マスター! この方は現F1チャンピオンの華さん、そしてその神姫、テンペスタの咲さんです!」

 テンペスタとは、新天使型MMSアーンヴァルMk.2のリペイント版の神姫の呼称である。通常のアーンヴァルMk.2はオールベルンと同じく白色を基調としているのに対しリペイント版であるテンペスタは黒色がメイン、機体の所々に紫色が使われている。優しいイメージから一変し、リペイントされたことでミステリアスな雰囲気を持っているのが特徴・・・らしい。後日受けた彼女からの授業を要約すればだいたいそんな感じだろう。あまりにも長い説明、もとい、授業だったのだ。

 「暫定でチャンピオンになっているだけでして、それほどまでの実力があるわけではないのですよ。 ・・・と、こんな場合ではありませんでした。先を急がなくては、参りますよ!咲・・・」

 「あなた・・・、オールベルン型・・・、ね?」

 「はっ、はい!」

 2人は既にマスターのもとにおらず、廊下に並ぶデスクの上で新たな世界が広がっていた。やたらと結奈のテンションが高い。試合を見たいのもそうだろうがご本人に会いたい方がメインだったのではないだろうか・・・。

 「はぁ・・・。こうなるともう止められませんね。あっすみません、先ほどそちらの娘からご紹介に預かりました、華と申します。」

 マスター同士も会釈を交わす。華さんからはどことなく大和撫子な雰囲気が伝わってくる。だが、おしとやかさだけではなく少しだけピリピリとしたプレッシャーも感じ取れる気がする。謙遜はしていたもののF1チャンピオンであることに間違いはない。これが王者の風格というものだろうか。

 「ふぅーん・・・。」 「え、えっと///」

 咲は結奈の周りをぐるっと歩きながら観察していた。

 「あなた・・・、羽・・・、は?」

 「えっ? 羽ってこれのことですか?」

 武装セットの中から胸部に装着するアクセサリーパーツを取り出す。

 「そう・・・、これ・・・、ふふっ///」

 上機嫌のように見て取れる咲は、ずっとそのパーツをなでている。突然のことながらではあるが微笑ましい光景だ。

 「華・・・、この娘・・・、気に入った。」

 「そう、良かったわね。新しいお友達ね。」

 咲は頬を赤らめた。照れているのに加えてとても嬉しそうである。

 「羽ちゃん・・・、名前・・・」 「はい!『結奈』と申します!」

 「華・・・、結奈・・・、連れて帰って。」 「「えぇっ!?」」

 さすがの結奈でもこの展開には驚きを隠せなかったらしい。嬉しそうに見て取れるのはさて置き、なぜ驚かれたのかわからない様子の咲はキョトンとしながらこちらを見てくる。

 「咲・・・、結奈さんはそちらの方の神姫だと思うのですが。」

 「そう・・・、なの・・・?」

 問いかけてくる咲に向かって困惑しながらも肯定を示す私と結奈・・・。

 「じゃあ・・・、ダメ・・・?」

 お、おかしい。ここまで天然な娘にもなり得るのだろうか。神姫がどれほど人間に近しいのかわかったようでわからない・・・。

 「それなら・・・、華・・・、SNP。 神姫ネット・・・、する。」

 「そうですね、咲がそんなに気に入ったのなら。えっと、構いませんか?」

 慌ててSNPを取り出す。まさかまだまだ新人である自分がF1チャンピオンの人と知り合いになるとは思いもしなかった。ゲンさんといい、華さんといい、縁には恵まれているようだ。

 「ところでこの会場に来ているということは、貴方、F3の出場者ですね?」

 縦にゆっくりと頷く。今日までの頑張りをきちんと形あるものにしたい。そういった思いが今の私を満たしている。ふと結奈と目が合う。お互いの意思を、意気込みを感じ取り無言のまま頷き合う。結奈も今日までのバトルで成長できたと実感している。先程まで咲に腕を組まれて困惑(嬉しそうに)していたが、熱意の感じ取れる真剣な眼差しを私に送ってきた。

 「・・・見たい!」

 少しだけ咲の声が大きくなった。

 「残念ですが咲、それはできません。午後には用事があると言っていたでしょう?
はっ!? そうです! 用事が!」

 「がっかり・・・。」

 「咲さん、私たちはバトルを初めてまだ2ヶ月です。とてもお見せできるようなものではありません・・・。」

 「違う・・・、結奈・・・、強い・・・、大丈夫。」 「咲さん///」

 見ただけで強さが分かるというのだろうか。先程までの天然っぷりからは予想できないほどはっきりとした意思が伝わってくる声だった。結奈もまさかの人から励まされて嬉しいようだ。咲から頭をなでられるたびに人間で言う表情筋がまるで溶けていくかのように幸せに満ち満ちた顔になっていく。普段がしっかりものであるがゆえに、ここまで砕けた表情を見せるのが珍しい。そういえば、先ほど鉢合わせたときから少し急いでいるようにも思えたが華さん達の予定は大丈夫なのだろうか。私が話題を切り出そうとしたその時、

 「ふぇ~~~~~ん!!」

 華さん達が出てきたところから泣き声とともに1人の女性と1体の神姫が現れた。

           第6話 完 
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