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クロスウォーズアドベンチャー

作者:setuna
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第61話:子供のままでいたかった大人

 
前書き
及川って後から見ると凄い共感する。 

 
取り敢えず情報収集その他をやっていたのだが、ダークタワーデジモンのブラックアグモンはある異変に気付き、ブラックアグモンの指示に従ってある寺の方に向かった。

そこには暗黒の種が発芽し、花となった暗黒の花を摘み取っている最中であった。

「及川悠紀夫…!!」

直ぐにデジモン姿となり、戦闘体勢に入った。

なっちゃんはシスタモン・ノワール、ブラックアグモンはブラックウォーグレイモンに進化する。

「邪魔はさせないよ!!」

「目障りだ!!」

立ちはだかるアルケニモンとマミーモンだが、ブラックウォーグレイモンが一蹴する。

「黙ってみていろ。この子がどうなっても知らないよ?」

「ぬう…」

「卑怯!!」

ブラックウォーグレイモンとなっちゃんが悔しげに及川を睨み据える。

花を吸収し終わった及川はのり子を突き飛ばす。

「もう、お前に用は無い」

「おっと」

ブイモンが突き飛ばされたのり子を受け止める。

のり子の肌色はまるで紙のように真っ白な状態になっており、肉体的にも精神的にも危険なようだ。

ブイモンはのり子を巻き込まない場所に連れて行く。

死んだように眠るのり子を見て、及川の甘言に乗り、安易に暗黒の力を手に出したのり子の軽率さ、暗黒の力の恐ろしさを思い知らされる。

「俺は及川に利用されたお前に同情なんかしないぞ。今の状態はお前の軽率さが招いたことなんだからな」

「冷たいな、もう少し思い遣りのある言葉を言ってあげたらどうだい?」

のり子への言葉を聞いた及川が溜め息と共に肩を竦めながらブイモンに言う。

「こいつの自業自得だろ、俺は努力もしないで簡単に諦める奴が嫌いなんだ。」

何かを得たいなら相応の努力が必要なのだ。

何か得るために行動し、努力してきた大輔達の姿を間近で見てきたからこそ、安易に身近な力に縋り、その力を振りかざすのり子が許せなかった。

「おやおや手厳しい。」

ブイモンの言葉に及川は微笑みながら言う。

「それにしても君達も人間の姿になれるとはね。てっきり俺が作ったこいつらくらいしか出来ないと思っていたんだが」

吹き飛ばされて悶絶しているアルケニモンとマミーモンを親指で指しながら言う及川。

「なっちゃんやウィザーモンとかの魔法が必要だけどな。」

「基本的に君達の姿はパートナーを小さくした姿のようだね…。1人は何故かニワトリだったようだが…」

「好きでニワトリでいたわけじゃありません!!」

自分だって出来るなら普通の人間の姿でありたかった。しかし姿はなっちゃんに任されているため仕方なくニワトリの姿で過ごす羽目になっていた。

「それで?お前は何のためにこんなことを?力を手に入れて世界征服って魂胆か?」

「世界征服なんてしないさ、ただ俺はデジタルワールドに行きたいだけだよ。そのためには暗黒の種の力が要るんだ。お前達がダークタワーを破壊しなければもっと早く行けたはずなんだが。」

溜め息と共に紡がれた言葉にブイモンは目を細めた。

「お前、デジタルワールドに行きたかったのか?何でだ?って言うかどうしてデジタルワールドを知ってるんだ?」

「俺は君達のパートナーと違って偶然デジタルワールドの存在を知ることが出来たんだ。デジタルワールドに行きたかったのも…浩樹との約束だからだ」

「浩樹?」

「火田浩樹。3年前にロンドンで死んでしまった俺の親友さ、デジタルワールドを見ることも行くことも出来ずに逝ってしまった…無念だったろうなあ…」

空を見上げて遠い目をしながら言う及川。

「浩樹って、伊織の父ちゃんだぎゃあ…」

アルマジモンの呟きにブイモン達は及川を見つめる。

「そうだ…君の人間の時の姿は浩樹の息子の小さい頃の姿のようだね…子供の頃の浩樹にそっくりだ…名前は確か…」

「伊織だぎゃあ…」

「伊織…息子がデジタルワールドに行って冒険しているとあいつが聞いたらどうしたのかな?笑うかな?それとも悔しそうにするのかな?」

微笑みながら言う及川にブイモン達は戦闘体勢を解いた。

「どうやら根っからの悪人じゃなさそうだな」

「俺は元々無用な争いは避けたい方でね。君達が邪魔さえしなければ攻撃はしないさ。」

「及川、お前にいくつか聞きたいことがある。答えて貰おうか?」

「……いいだろう。計画は最終段階に入った。最早君達が何をしようと止めることは不可能だ…。答えられる範囲でなら答えてあげよう」

「まず1つ目。どうしてデジモンカイザーに賢を選んだんだ?選ばれし子供なら太一達もいたじゃないか。太一達を知らないわけじゃないだろ?」

「ふむ、確かに彼らのことは知っている。しかし俺の計画は選ばれし子供なら誰でもいいわけじゃない。彼は暗黒の種を持った選ばれし子供だった。彼のお兄さんである一乗寺治君の葬式で彼を見た時、分かったんだよ。彼の体内には暗黒の種があるとね」

「なる程、賢を選んだのはそう言うことか」

「じゃあ、次の質問よ。ダークタワー…あれは何なのよ?」

ブイモンの次にテイルモンが及川に尋ねる。

デジモンの通常進化阻害、ダークタワーデジモンの素材、様々な効果を持った暗黒の塔のことを。

「ダークタワーか…あれは元々はダゴモンの海と言うデジタルワールドと似ているようで違うあった世界にあった奴だ。進化を妨害したり、ダークタワーデジモンの素材になったりと色々な使い道があるが……その最大の効果は、デジタルワールドの環境を変えてしまうこと」

「デジタルワールドの環境を変えることがあんたの願いに繋がるって言うの?」

テイルモンの言葉に及川はニヤリと笑った。

「デジタルワールドの環境をかえることで大人でもデジタルワールドに行くことが出来るようにするためさ。」

そう、基本的にデジタルワールドはデジタルワールドが危機に瀕した時、世界を救える可能性を持った子供達だけが行くことが出来る世界。

それはまるで、子供しか行くことの出来ないネバーランドのよう。

「ゲートを開く事は出来たが、行くことは出来なかった……穢れちまった大人を、デジタルワールドは受け付けないってことかな。で、仕方なく俺の遺伝子で作ったこいつらをデジタルワールドに行かせた」

「なる程、そして私達にボコボコにされて、逃げては挑んでくるの負のスパイラルに陥ったわけね」

「うるさいわね!!」

「まあ、結果的にはな。」

テイルモンの言葉にアルケニモンがこめかみに青筋を浮かべながら叫び、及川はアルケニモンとマミーモンの情けない戦歴を思い出しながら溜め息を吐いた。

一応アルケニモンとマミーモンは敵対策に完全体として作ったのだが、やはり簡単には行かなかった。

「そう言えば未来の並行世界のアルフォースブイドラモンも言っていたな。基本的にデジタルワールドはデジタルワールドが危機に瀕した時、人間の子供を呼ぶって」

「並行世界だと?」

「俺とテイルモンは少しばかりこことは違う歴史を歩んだ未来のデジタルワールドに行ったことがあるのさ。そこには違う歴史を歩んだ大輔やヒカリ、俺やテイルモンとかもいたんだ。今だからネタバレするけどデジクロスは並行世界の未来のパワーアップ方法なんだよ」

ブイモンの言葉に及川は興味深そうに見遣る。

何だかんだで及川も光子郎のようなタイプの人間なのか並行世界には興味が湧いたようである。

「並行世界…こことは違う歴史を歩む世界…今までは有り得ない物とばかり思っていたが…」

「デジタルワールドには色んな並行世界があるらしいから。他にもまだまだあるかもな。それで、最後の質問。暗黒の種は何なんだ?」

「暗黒の種はダークタワーの代わりさ。俺はどうしても自分で行きたかった……そこで彼を利用してダークタワーを建てさせたのに、全部ぶち壊されてしまった。だから計画を変え、デジタルワールドでバリアの役目を果たすと言う暗黒の種を子供達に植え付けたんだ。」

以前はなりたいと願っていた選ばれた存在を利用し、そして敵対することになるとは皮肉だ。

「…本来なら見ることが出来ない可能性の世界も存在するとは…デジタルワールド…益々行きたくなって来たぞ…だが、後少し!!後少しで俺の…俺達の夢が叶うんだ!!後少しでデジタルワールドのゲートを潜ってデジタルワールドを……あの時からどんなに待ちわびたことか……!浩樹、君が生きていたら誘ったのにごめんよ……!」

後少しでデジタルワールドに行ける。

それを考えると今まで張り詰めていた物が緩んだのか号泣した。

「どうしましたボス!?」

いきなり泣き出した及川にアルケニモンとマミーモンは困惑する。

「だって、後少しで夢が叶うんだよ!?デジタルワールドを見ることも出来ずに逝ってしまった浩樹の分までデジタルワールドを見て回り、あいつに教えてやれるんだ!!後少しの辛抱だ浩樹!お前が見ることが叶わなかったデジタルワールドを俺が…」

「お父さんは友達が罪を犯してまでデジタルワールドに行くなんて絶対に望みません!!」

「何?」

及川はハッとなって声のした方を振り返るとそこには…。

「伊織!?どうしてここにいるだぎゃあ!?」

「隣の爺さん誰だよ?」

アルマジモンが目を見開いて伊織を見遣り、ブイモンは伊織の隣の主税に疑問符を浮かべた。

「伊織の祖父ちゃんだぎゃ」

「なるほど」

アルマジモンの説明にブイモンが頷いた。

「お前は浩樹の息子…小さい頃の浩樹にそっくりだ…そしてお前は…?」

親友の忘れ形見と言える伊織を見た後、隣の老人を見つめる及川。

どこか見覚えがある気がするのだが、それを見た主税は目を細めながら口を開いた。

「…やはり覚えとらんか…最後に会ったのは大分昔じゃったからのう…昔から無口で友達の少ない子じゃったが、まさかこんな事になっているとは……伊織の祖父と言うより、君の友人、火田浩樹の父と言った方が良いな」

「浩樹の…お父さん!?」

及川は呆然としながら、親友の父親の主税を凝視している。

「君達はデジタルなキャラクターが、自由に生きていくことの出来る世界の存在を信じていたようじゃったな…。わしは自分の息子のそんな姿に、不安を感じてそんな夢みたいな話をすることを禁止してしまったんじゃ。その時の悲しそうな顔は今でも覚えておる。それから、青年に成長しても君達はデジタルな世界の存在を信じて、2人だけで夢を膨らませていたんじゃな。が、浩樹の突然の死。あの時の君の落ち込み様は普通じゃなかった。考えてみれば当然のことじゃ。君にとって友人と言えるのは、浩樹だけだったからなぁ…。あの時、わしがもっと君の力になってやれたらとそう思うとな…。」

主税は贖罪にも取れる言葉を淡々と紡いだ。

もしあの時、幼かった息子や及川に夢を描く事を禁じなかったら。

涙を落としながら墓の前から去り行く及川の背中に何か一言でも声を掛けてやれたら。

もしかしたら何かが変わっていたのかもしれない。

しかし過ぎてしまった過去を変えることは出来ない。

いや、出来る存在はいるかもしれないが、人間の身では到底不可能なことだ。

「…今更こんなことを言うのも何じゃが、わしの友人になってくれんか?浩樹の子供の頃のことを、一緒に話す相手が欲しいんじゃ…。」

その言葉を聞いた瞬間に及川の心に希望の光が差した。

晴れやかな表情をして、主税によろよろと歩み寄る。

「……浩樹と、一緒の頃…。おじさん、っ…ぐああああああああああ!!」

しかし、次の瞬間に及川はいきなり苦しみ始め、嬉しそうな表情から一変した。

今度は負の感情を全面に出したような表情になり、僅かに残っていた人の心すらも失って他人を傷付ける存在に成り果てた及川が初めに取った行動は、親友の父だったはずの主税を、この世から抹消することだった。

「チッ!!」

誰よりも早く動けたのは究極体のブラックウォーグレイモンのみで、主税を抱えて及川の攻撃をかわした。

「ぐっ…」

「ブラック!!大丈夫!?」

しかし、無事とは言い難く、ブラックウォーグレイモンは脇腹を抉られ、血が流れ出す。

なっちゃんは直ぐに治癒魔法でブラックウォーグレイモンの傷を治し始めた。

「ああ、そうだよ…やっぱり私は1人でなければ…今までも、そしてこれからもずっと。そうだ、私は暗黒の種を全て刈り取らねばならない。私の願いを叶え、デジタルワールドへ行くために…」

及川はそう言うと、高笑いしながら走り去って行った。

「ぐっ…早く…大輔達の元に戻らなければ…」

「喋らないで下さい!!」

伊織が無理をして体を動かそうとするブラックウォーグレイモンに叫ぶ。

「伊織…早く大輔達にメールを送れ…デジタルワールドに繋がるゲートを全て閉ざさなければ、現実世界もデジタルワールドもあいつの思い通りにされてしまう…!!死期を見失った愚かな亡者にこれ以上好きにされてたまるか…!!」

ブラックウォーグレイモンは及川から攻撃を受けたことで曖昧ながらも敵の正体を掴み始めていた。

まず自分達がしなければならないのは現実世界に存在するデジタルワールドに繋がるゲートポイントの遮断。

最後の戦いが近付いている。 
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