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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二百話 森鴎外という人その九

「水銀を使ってね」
「ああ、それでですか」
「うん、治療するんだけれど」
「中毒ですよね」
「それが怖かったんだよ」
 昔の梅毒の治療ではというのだ。
「他には熱病に感染してもらってね」
「その熱での治療ですか」
「それで身体の中の菌を殺していたんだよ」
 性病のそれをだ。
「そうしたこともしていたんだよ」
「熱病ですか」
「勿論失敗したら死ぬよ」
「凄い荒療治ですね」
「水銀もかなり凄いけれどね」
「そっちも死ぬんじゃ」
 水銀は毒、それも猛毒と聞いている。それで僕は先生にこう返した。
「中毒で」
「だからそれでかえって死んだ人もいるよ」
「やっぱりそうですか」
「シューベルトもそれで死んだみたいだし」
 若くして亡くなったこの偉大な作曲家もというのだ。
「あの人もね」
「そうだったんですか」
「梅毒に罹って」
「それで、ですか」
「その治療でね」
「水銀を使ってですか」
「かえってそのせいでね」
 水銀の方でというのだ。
「死んだらしいよ」
「そうだったんですね」
「チフスで死んだとも言われているけれど」
「僕最初そう聞いていました」
 シューベルトの死因はだ、この病気だったと聞いていた。
「実は違ったんですか」
「梅毒になってね」
「その治療で、ですか」
「水銀を使って」
 そしてというのだ。
「その症状で死んだんだよ」
「梅毒の治療でも水銀は」
「よくないって思うね」
「今から思うと」
「そうでもしないと本当に死んだから」
 梅毒でだ。
「それも身体が腐って苦しみ抜いてね」
「まず斑点が出来るんですよね」
「身体にね」
 症状としてそれが出て来るのだ。
「そうしてね」
「その斑点が膿んで」
「そこから腐って鼻も落ちてね」
「脊髄とかも駄目になるんですよね」
「そうした場合もあるよ、髪の毛が抜けたり頬が腐ってそこから歯が見えたり」
 正直想像するだけで恐ろしい。
「膿んだところが瘡蓋になってね、脳神経にも影響与えて」
「頭もおかしくなるんですね」
「ニーチェはこれだったらしいね」
 晩年発狂して知能を喪失したこの思想家もだ。
「だからおかしくなったそうだよ」
「凄い知性だったんですよね」
「吉本隆明なんか同じ思想家というのもおこがましい位にね」
 どうもこの先生も吉本隆明が嫌いらしい、やっぱりオウムやその教祖を賛美するなんてどうかしている。
「凄かったんだよ」
「そんな人でもですか」
「梅毒でね」
 まさにこの病気でだ。
「脳神経がやられて」
「頭がおかしくなって」
「それで死んでいるからね」
「そうならない為にもですか」
「水銀を使ってでもね」
 猛毒のこの金属をだ。
「治していたんだよ」
「そうだったんですね」
「二十世紀でもやっていたよ」
 この水銀を使った治療をというのだ。 
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