| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百八十八話 本を探しているとその十三

「終戦直後から安保闘争までは本当に必死でした」
「共産主義の力も強くて」
「はい、まるで今にでもです」
「日本が共産主義国家になる様な」
「そうした空気がありました」
「危なかったんですね」
「羽仁五郎という学者はです」
 畑中さんはこの名前も出した。
「対談相手にその発言は革命が起こったら問題になるとです」
「対談相手に言ったんですか」
「自分と違う意見だったので」
「何か共産主義の本質が出ていますね」
「異論を認めないですね」
「それで容赦なく殺すっていう」
「まさにそれです」
 その学者が言った言葉はというのだ。
「民主主義を否定する恫喝ですね」
「どう見てもそうですね」
「冗談を言う場ではなかったです」
「真面目な対談だったんですか」
「その場で言いました、これは二十年前の話ですが」
 今度の話はというと。
「加藤周一という人物ですが」
「その人もそんなこと言ったんですか」
「南京でのことを否定する様な意見は国家が禁じてもいいと」
「それも異論封じですよね」
「国家による元老統制を主張していますね」
「それっておかしいですよね」
「はい、南京はともかく」
 日中戦争での軟禁攻略戦でのことだ、僕は言われている様なことは当時の日本軍や南京市の状況からなかったと思う、畑中さんもあの話はおそらく便衣兵つまりゲリラを掃討していてそこに一般市民も犠牲になったものではと言われていた。
「そこで自分と違う意見をそうしろと言うのは」
「完全に言論弾圧ですね」
「そしてその言論弾圧をです」
「ああした人達は主張するんですね」
「そして粛清もです」
 共産主義名物のこれもというのだ。
「推進していたでしょう」
「日本が共産主義国家になれば」
「どれだけ恐ろしいことになっていたか」
「沢山の犠牲者が出ていましたね」
「経済も崩壊していました」
「とても今の日本はなかったですね」
「そうなっていました」
 間違いなく、というのだ。
「北朝鮮の様になっていたかも知れないです」
「あんな風にですか」
「ですから私も必死でした」
「日本が共産主義にならないことを考えておられて」
「本当に必死でした」
「そうして本も読まれていたんですね」
「そうでした」 
 それが当時の畑中さんだったというのだ。
「今思うと本当にです」
「大変でしたか」
「そうでした、ただ」
「ただ?」
「実際に革命が起こらなかったからでしょうか」
 それでとだ、畑中さんは僕に話してくれた。
「今は懐かしいです」
「あの頃のことが」
「左様です」
 こう僕に話してくれた、そして僕にさらに話してくれた。その頃のことを。


第百八十八話   完


                   2018・5・15 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧