八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百八十九話 武力と暴力その一
第百八十九話 武力と暴力
畑中さんは僕にさらに話してくれた、終戦直後から安保闘争までのことを。
「本当に今思うと懐かしいですが」
「当時は必死で」
「私もどうなるかと思っていました」
「当時の日本が」
「共産主義になれば」
「もう革命や粛清で」
「日本には多くの血が流れていました」
そうなっていたというのだ。
「まさに」
「そうでしたよね」
「当時の世界や中央公論を読みますと」
「革命のことが書いていたんですね」
「今にも起こりそうな感じでした」
そうした書かれ方だったというのだ。
「革命を待ち望み起こそうという」
「そうした意見が多かったんですか」
「実際に」
そうだったというのだ。
「それで私も危機を感じていたのです」
「だから読まれる本もですか」
「共産主義に対するものでした」
「共産主義を肯定するものではなく」
「否定しその問題点を指摘する」
「そうした本を読まれていたんですね」
「小説でもそうでした」
こう僕に話してくれた。
「だからです」
「吉川英治をですか」
「読んでいました」
「そうだったんですね」
「活劇としても面白いですし」
「登場人物もですね」
「作品の出来も立派でした」
だからだというのだ。
「ですから」
「それで今もですか」
「読んでいます。今思いますと」
この頃はというのだ。
「あの時は必死でしたが」
「それでもですね」
「懐かしいです」
「その頃のことは」
「そうでした、昭和二十年代三十年代と」
「そうした時代だったんですね」
「もう遥か昔です」
畑中さんにとってもというのだ。
「まことに。ただ」
「ただ?」
「一つ思うことは」
それはというと。
「あの頃から今も彼等は変わっていないですね」
「昭和のそんな頃からですか」
「はい、一切」
それこそというのだ。
「その主張も何もかもが」
「変わっていないですか」
「安保闘争の頃もああでした」
「ああした主張をしていたんですね」
「全く何も変わっていません」
昭和三十五年、一九六〇年だからもう六十年近い。その頃と世界も日本も何もかもが変わっているがだ。
「あの頃も問題でしたが」
「今も全く変わっていないことは」
「問題外ですね」
「そうですね、本当に何もかもが変わっていますから」
「彼等だけがです」
「同じことを言い続けているんですね」
「そうです」
その通りだというのだ。
「何も変わらず」
「そういえば徴兵制復活も」
「その頃から言っていました」
それこそ六十年近く前からだというのだ。
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