| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

永遠の謎

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

460部分:第二十八話 逃れられない苦しみその四


第二十八話 逃れられない苦しみその四

「これからです」
「これからですか」
「その花を咲かせられるのは」
「そうなのですか」
「そうです。これからです」
 王はまた話す。
「私が為すべきことを為すことは」
「申し訳ありませんが」
 周囲にいる者の一人がこう前置きして話す。王が実直さを好みごまかしやそうしたものを嫌うことを知ってだ。こう話したのである。
「私にはそれは」
「おわかりになれませんか」
「すいません」
 まさにそうだというのだ。
「それは」
「左様ですか」
「はい、陛下は既にそれをされていると思いますので」
「しかし違うのです」
 王の中だけでわかってだ。それで話すのだった。
「それはです」
「違いますか」
「そうです。私はこのドイツに」
 そのだ。ドイツにだというのだ。
「その花を咲かせるのです」
「陛下が咲かせるべき花を」
「それを」
「そうです。青と銀、そして金の」
 王の愛する色だった。どれも。
「見事な花を咲かせたいです」
「ではそうされて下さい」
「陛下の思われるままに」
「有り難うございます」
 周囲の言葉にだ。王は。
 それを聞いてだ。また言うのだった。
 今まさにだ。舞台は終わろうとしていた。それを観つつ。
「ザックス万歳ですか」
「それは即ちですか」
「あの方と」
「そう。ドイツです」
 その二つへの賛辞だというのだ。
「ワーグナーはドイツを至上にまで高めたのです」
「この作品によって」
「遂にですか」
「ザックスは彼で」
 そしてだった。
「私はヴァルターなのです」
「陛下はですか」
「あの若い騎士ですか」
「そうなるのですか」
「はい、私はヘルデンテノールになります」
 ワーグナーの代名詞であるだ。その独特のテノールだというのだ。
 ワーグナーの作品はテノールである。バリトンに近い声域で輝かしい声を要求される困難な役だ。ワーグナーはそれを創り出したのだ。
 そのテノールだとだ。王は言うのだ。
「ですから私は」
「陛下は」
「ワーグナー氏でしょうか」
「はい、彼に導かれるのです」
 ヴァルターがだ。ザックスに導かれた様にだというのだ。
「そうなります」
「ですか。あの方に」
「これまで通り」
「それは変わらないのです」
 今の関係はあってもだ。そうだというのだ。
「今は無理でもです」
「またあの方とですか」
「共にですね」
「おられたいのですね」
「そう思っています」
 この願いは変わらなかった。そうしてだ。
 舞台が終わりカーテンコールを観ながら。王はまた言った。
「ヴァルターはザックスという理解者を得て幸せを手に入れました」
「そうですね。見事に」
「生涯の伴侶を得ました」
「私は何を手に入れるのか」
 言うのはこのことだった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧