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夢幻水滸伝

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第七十二話 荒んだ心その九

 二人は広島城に入った、井伏の拠点だったが井伏は山本をこの城の天守閣に案内してそこから広島の景色を見つつ話した。
「見事な眺めじゃろ」
「ああ、かなりのう」
 山本もこう答えた。
「見応えがあるわ」
「こんなこうした眺めは見たことあるじゃろ」
「ずっとなかったわ」
 山本は天守閣から広島の街並を見つつ井伏に答えた。
「ほんまにのう」
「そうじゃな、しかしな」
「こうした眺めもあるか」
「そしてじゃ」
 さらに言う井伏だった。
「他にも色々な眺めがある」
「観るべきものがじゃな」
「世の中にあるんじゃ、こんなはずっと暗いものばっかり見てきたな」
「そうじゃった」
 その通りだとだ、山本は井伏に答えた。
「あの事故の時からのう」
「そうじゃな、ほなこれからはな」
「こうした景色をか」
「観ていくんじゃ、それもよおさんな」
「それがええか」
「光の当たる場所におってええんじゃ」
 井伏は今は広島の景色を見ていなかった、見ているのは山本だった。彼に身体を向けてそうして言うのだった。
「こんなもわしもな」
「二人共か」
「そうじゃ、二人共じゃ」
「そうか」
「言うたな、死んだモン達のことは」
「忘れるな、か」
「そうじゃ、死んだ連中もこんながずっと俯いていたらじゃ」
 これまでの様に暗い目をしていると、というのだ。
「嬉しい筈ないからのう」
「光の当たる場所でか」
「色々な素晴らしいものを観ていくんじゃ」
「これからはか」
「そうじゃ、あっちの世界でもな」
「そうか、わしもそうして生きていくんか」
「そうせい、ええのう」
 井伏の今度の言葉は強いものだった。
「何ならわしも一緒におるからな」
「そうしてくれるか」
「こんなとは一緒にやってくことになった」
 杯を交えさせた、それならばというのだ。
「それなら当然じゃ」
「わかった、ほなな」
「そういうものを観ていくか」
「そうするわ」
「よし、じゃあ広島と呉を治めてじゃ」
「二つの街の力を使ってな」
「そうして安芸を統一していくか」
 この国をというのだ。
「まずはのう」
「そうじゃな、安芸は広くてよおさんの豪族がおる」
「その豪族連中倒していくぞ」
「ほなな」
 こうしてだった、山本は顔を上げた。そうして井伏と共に広島そして呉から安芸を統一していくことにした。
 すぐにだ、山本は井伏に言った。
「海の方も手に入れていくな」
「水軍は必要じゃ」
 井伏の返事はもう既に決まっているものだった。
「どうしてもな」
「そうじゃな」
「厳島やら因島やら江田島もじゃ」
「わし等の領土にしていくか」
「そうじゃ、まずは安芸じゃ」
 この国をというのだ。
「海の方も山の方もな」
「手に入れていくか」
「ああ、それでええのう」
「わしも異存はないわ」
 山本は実際に異存はなかった、それでだった。
 広島そして呉の二つの街から勢力圏を拡大しにかかった、二人が手を組むと知った近隣の街や村は次々とだった。 
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