八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百八十話 まさかのことその七
「苦しい思いをしておられるでしょう、どうも冬までは」
「欧州からですか」
「離れられないそうですから」
「困りましたね、じゃあ僕が」
「いえ、義和様はです」
畑中さんは僕が行こうかと言うとすぐに止めた。
「ここにおられて下さい」
「秋田に行ったら駄目ですか」
「はい、止様ならここでどう言われると思いますか」
「行くなって言います」
絶対にだ、僕にこう言っていた。僕もそのことがすぐにわかることだ。
「子供はこうした場合は動くものじゃないって言って」
「そしてですね」
「自分が行っています」
もうそうするに決まっている、親父なら。
「父親がいるなら母親を助けるのは父親の仕事だって言って」
「左様ですね」
「はい、絶対にです」
もうそれこそだ。
「自分の奥さんだからって言って」
「そうですね、私もです」
「そうしたお考えですか」
「はい、止様がそうされますので」
「だからですか」
「義和様はここで、です」
この神戸でというのだ。
「止様を見ていて下さい」
「お袋を連れ戻すところを」
「はい、助けられるところを」
まさにその時をというのだ。
「そうされて下さい」
「そうですか」
「はい、おそらくお母様は秋田から動かれないです」
「もうですか」
「少なくとも暫くの間は」
畑中さんは僕にその読みを話してくれた。
「どうもかなり安心している様なので」
「お袋の実家の方が」
「止様がイタリアに行かれたというお話をしていたそうです」
「あっ、あっちにも噂が流れているんですか」
「その様です、そのせいで」
「お袋の実家は油断しているんですね」
「そうです」
僕にこのことも話してくれた。
「ですから」
「それじゃあ」
「はい、暫くお母様は秋田におられます」
実家の奥深くに閉じ込められているというのだ、理由はどうあれ家族でも人を無理にそうするなんて許せないことだと思うが。
「ですから」
「何時かですね」
「止様は秋田に行かれ」
「そしてですか」
「お母様を救い出されます」
「そうしてくれますか」
「必ず。ですから」
僕はというのだ。
「待っていて下さい」
「わかりました、じゃあ僕は」
「はい、ここにおられて下さい」
この神戸にというのだ。
「そうしていて下さい」
「わかりました」
僕は畑中さんのその言葉に頷いた、そのうえでこう言った。
「親父を迎える用意をします」
「そうして下さい、ただ状況が変われば」
「親父に何かあったりしたら」
「その時は宜しくお願いします」
秋田に行ってお袋を助け出して欲しいというのだ。
「私もお供しますので」
「畑中さんもですか」
「その時は行かれますね」
「はい」
僕は即答で返した。
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