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永遠の謎

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213部分:第十五話 労いの言葉をその三


第十五話 労いの言葉をその三

 そのことに前線は戸惑っていた。呆然とさえしている。
「まだ前進命令は出ないのか」
「何故だ、戦うのではないのか」
「どうしてだ、何故プロイセンと戦わない」
「それをしないというのか」
「陛下は何を考えておられるのだ」
 ここでもだ。王に対する疑問の言葉が出た。
「何故動かれない」
「何もされない」
「ミュンヘンにもおられないというが」
「どういうおつもりか」
 こうだ。兵士達だけでなく将校達もいぶかしんでいた。
 そして将軍達もだ。戸惑いを隠せず話をするのだった。
「ベルクで花火を見られ続けているのか」
「花火もいいが今は戦争だ」
「戦争をしているというのに」
「何故ミュンヘンにもおられないのだ」
「何を御考えか」
 こうだ。会議の場でも困惑の声ばかりが出る。
「まさか戦争が今終わるとは思わないが」
「それはない」
「絶対にない」
 この戦争が長期戦になるとの判断は将軍達も同じだった。
「しかし。だからといってだ」
「その通りだ。このまま何もしないでいるのは駄目だ」
「オーストリアに面目が立たない」
「それにだ」
 彼等はオーストリアが勝利を収めることを前提として話をするのだった。
「勝った後での見返りも要求できない」
「何もしないではだ」
「陛下はそれをわかっておられるのか」
「前線を視察してもらいたいとまでは言わないが」
 王がそれをするとは考えずにだ。彼等はそこまでは言わないことにした。
 しかしだ。せめてだというのであった。
「だが。それでもせめて」
「ミュンヘンにいて頂きたいのだが」
「それだけでもされれば」
「そうしてもらいたいのだが」
 こう話すのだった。しかしだ。
 ここでだ。彼等のところにだ。驚くべき報が来た。
 若い将校の一人がだ。狼狽しながら部屋に入って来た。そしてだ。
 彼はだ。慌しい敬礼の後でだ。将軍達に述べた。
「大変なことが起こりました」
「大変だと?」
「一体何があった」
「まさかどちらかが」
「いえ、陛下です」100
 将校は何とか落ち着きを保ったまま話す。
「陛下が。来られました」
「馬鹿な、ここにか」
「陛下が来られたのか」
「それはまことか」
「はい、そうです」
 その通りだと答える将校だった。
「この場にです。来られました」
「そんな筈がないが」
「陛下はベルクにおられるのではないのか?」
「それでなのか」
「この場に来られるなぞ」
 有り得ないとだ。誰もが思った。しかしだ。
 ここでだ。その王がだ。青と銀色のバイエルン軍の軍服を着て姿を現したのであった。
 それを見てだ。将軍達はあらためて唖然となった。
「馬鹿な・・・・・・」
「本当に陛下が来られるなぞ」
「戦いはお嫌いではなかったのか」
「それで何故だ」
「どうしてだ」
 こう言い合う。その彼等にだ。
 王はだ。静かにこう言うのであった。
「それではだ」
「は、はい」
「ようこそ来られました」
 将軍達は我に返った。そうしてである。
 敬礼をしそのうえでだ。王に問うのである。
「それで今回はどうしてここに」
「この戦場に来られたのですか」
「一体どうして」
「兵達を見たいのだ」
 戦場とは思えない優雅な声での言葉であった。
 
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