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永遠の謎

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214部分:第十五話 労いの言葉をその四


第十五話 労いの言葉をその四

「我がバイエルンの兵達をだ」
「では視察ですか」
「それをされるというのですね」
「そうだ。その通りだ」
 こう答える。そうしてだ。
 王は早速兵達の視察をはじめた。馬に乗り将軍達を従えだ。
 その王の姿を見てだ。兵達は将軍達以上に驚きの顔を見せた。
 そうしてだ。こう口々に言うのであった。
「陛下が!?」
「まさか来られるとは」
「嘘ではないのか」
「夢ではないな」
 我が目を疑う者さえいた。
 だが、だ。王の姿を見ていてだ。彼等は。
 次第に彼等の王に対してだ。こう言うのであった。
「バイエルン王万歳!」
「バイエルン万歳!」
「バイエルンに栄光あれ!」
「この世に勝利を!」
 こうだ。口々に言うのである。
 諸手を挙げてだ。そうしてである。
 彼等は爆発的な歓呼の声をあげて。王を迎える。彼等の士気は最高にまで高まった。
 王はその彼等を見回る。その王を見てだ。
 将軍達はだ。戸惑いながら話すのだった。
「兵達の士気が再考にまで高まったな」
「そうだな、想像以上だ」
「ここまで高まるとなると」
「いけるか」
「そうだな。戦える」
「勝てるぞ」
 勝利さえ予感した。その士気にだ。
 それでだ。王に対して進言したのであった。
「陛下、今です」
「今こそです」
「攻撃命令を」
「それを」
「いや、私はだ」
 ところがだ。王は後ろに控える彼等にこう返すのだった。
「これでいい」
「これでいいとは」
「一体?」
「どうされるのですか」
「ベルクに戻る」
 こう言うのである。
「そうさせてもらう」
「えっ、ここでなのですか?」
「まさかとは思いますが」
「攻撃命令を出されないのですか」
「軍を動かされないのですか」
「そうだ、これでいいのだ」
 また言う王だった。
「それではな」
「あの、しかし」
「今兵を動かせばです」
「プロイセンを倒せます」
「それができます」
「一つの戦場ではそうかも知れない」
 王は戦場でもだ。その遠い目を見せた。
 そしてその目でだ。将軍達に話すのだった。
「だが、それでもだ」
「あの、とにかくです」
「軍は動かされないのですね」
「そうなのですね」
「その通りだ。それはしない」
 はっきりと言ってだ。それをしないというのだった。
 そしてだ。彼はだ。
 踵を返す様にして軍の野営地を後にした。絵画を思わせるその見事な視察は瞬く間に終わった。そうしてなのであった。
 王はベルクに戻った。そこでまた花火を観て音楽を聴く。そうしてだ。
 ホルニヒにだ。こう言うのであった。
「これでいいのだ」
「あの、視察だけでなのですか」
「そうだ、それでいいのだ」
 彼にもだ。こう言うのである。
「これだけでいいのだ」
「やはり兵は動かされないのですか」
「動かしてはならない」
 必要がないのではなかった。してはならないというのだ。
 
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