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永遠の謎

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211部分:第十五話 労いの言葉をその一


第十五話 労いの言葉をその一

             第十五話  労いの言葉を
 ミュンヘンでは。相変わらずのことになっていた。
 王がいないことにだ。誰もが暗澹としていた。
「戦争の指揮にあたられないとは」
「大公に指揮を任せられるのか、このまま」
「もうあの方は御高齢だというのに」
「それでもとは」
「陛下は何を考えておられるのだ」
 こうそれぞれ言うのだった。
「バイエルンが今動かずしてどうする」
「今はオーストリアと共にプロイセンを討つ時だぞ」
「それで何故だ」
「何故王がミュンヘンにおられぬのだ」
「何を考えておられるのだ」
 こう次々に言っていく。しかしだ。
 叔父のルイトポルド公は悲しい目で。親しい者達にこう漏らした。
「王に述べる言葉ではない」
「そう言われますか」
「その様に」
「そうだ、我が甥にして王は」
 彼をだ。そう呼んでの言葉だった。
「考えあってああされているのだ」
「このミュンヘンにおられない」
「そうなのですか」
「確かにあの方は戦争は好まれない」
 公もそれは否定しなかった。幼い頃から見ている甥の性格は知っている。
 しかしだ。それでもだと言うのである。
「だが。それだけではない」
「王が今ミュンヘンにおられないのは」
「王のお考えがあって」
「だからだと」
「だからだ。今は何も言わないことだ」
 これが公の考えであった。
「それにあの方は」
「あの方は」
「といいますと」
「繊細な方だ」
 このこともよくわかっていた。実にだ。
 それもだ。公は話していく。
「非常にだ」
「それは知っています」
「王のそうした御資質は」
 周りもこう答える。しかしであった。
 公はだ。悲しい顔を左右に静かに振って。こう述べるのだった。
「いや、あの方の繊細さは」
「それはですか」
「どうだと」
「卿等が考えている以上のものだ」
 こう言うのである。
「触れただけで壊れてしまいそうな繊細さなのだ」
「ガラスよりもですか」
「それよりも」
「そうだ。何よりも繊細なのだ」
 それがバイエルン王の心だというのである。
「少しの噂や。中傷がだ」
「あの方の御心を傷つけてしまう」
「そうなのですか」
「だから。その繊細な御心を害するのは止めるべきだ」
 これが公の御考えだった。王をよく知っている彼のだ。
「王であるが。それでも」
「言葉をですか」
「注意して」
「そうしなければならないのだ。しかしそのことは」
「誰もわかっていない」
「そうだと」
「このままではよくない」
 公は悲しい顔のまま話す。
「やがて。大変なことになってしまうかも知れない」
「この戦争ではなくですか」
「陛下が」
「私では。王の御心を救えない」
 叔父である彼にもだ。完全にはというのだ。
「見守るだけしか。それだけしかできない」
「しかし何とかしなければならない」
「そうなのですね」
「その通りだ。そしてこの戦争だが」
 今の戦争についてもだ。話されるのだった。
「我が国は確かにプロイセンへの反感が強い」
「それも非常にです」
「どうしようもないまでにです」
 これはだ。そのままドイツの南北の対立、そしてプロテスタントとカトリックのだ。実に根深い対立がそこには存在しているのである。
 
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