永遠の謎
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210部分:第十四話 ドイツの国の為にその十
第十四話 ドイツの国の為にその十
「そんなものは。芸術や傷ついた者を救うことに比べれば」
「小さいですか」
「些細なものだ」
戦争について王は。その程度のものだと考えていた。
しかしだ。その彼については。王はそうした目を向けているのだった。
「きっと。彼は多くのことを成し遂げる」
「傷ついた者を救い」
「それはやがてわかる。わからなければ」
「わからなければ?」
「人は過ちを犯す」
そういうものだと。王は話すのだった。
「それも。あってはならない過ちだ」
「そこまでのものですか」
「私は。彼を信じている」
そのデュナンをだというのだ。
「多くの者が彼によって救われるのだ」
「だからこそ支持されるのですか」
「本当の騎士とはそうではないだろうか」
遠くにある、今は幻想と思われている国を見ながらの言葉だった。
「剣で勝利を収めるよりも」
「誰かを救う」
「そうではないだろうか」
「そういえばローエングリンも」
「確かに剣は持っている」
それにより勝利も収める。しかしだというのだ。
「だが、彼は救うな」
「はい、エルザ姫と彼女の弟を」
「英雄は人を救うものだ」
それこそが英雄だというのだ。
そしてだ。王はまたそこに付け加えた。
「そしてその英雄を救う存在が」
「女性ですか」
「だが私は女性を愛せない」
そのことに至る。再びだった。
「何故だ。何故私は」
「陛下、今は」
「わかっている。言っても仕方のないことだ」
目の光が弱まる。その表情も。
憂いのあるものになってだ。その中での言葉だった。
「では今は」
「この花火をですね」
「見るとしよう」
「花は。自然にあるものだけではないのですね」
ホルニヒはだ。そうしたことも話した。
「こうして。夜空にも」」
「そうだ。花は造り出せる」
王は話す。花のことを。
「人は花を造り出せるのだ」
「花火もまたですか」
「花火だけでもなく。人の手で造り出せる花は多い」
「人の持つ力で」
「人の力は。そういうものに対して使われるべきだ」
これが王の考えだった。その中には。
「科学もまた」
「あの。世の中を変えたものも」
「その為にあるものだ。何もかもな」
「では陛下、今は」
「見ていよう」
また花火があがった。今度は赤と青だ。
その二色の百合を見ながらだった。夜空の百合を。
「こうして。二色の百合も生み出せるのだから」
「わかりました。では私は」
「その私の傍にいてくれるか」
「陛下がお望みとあらば」
片膝をついて。心からの忠誠を述べた。
「そうさせて頂きます」
「わかった。ではこれからもな」
「はい、これからも」
「供にいてくれ。私は一人でいたいことが多いが」
それでもだというのだ。相反するものがここで語られる。
「一人では。いられないのだ」
「人が必要ですか」
「勝手だな」
自嘲だった。その感情だった。
「一人でいたいのに。一人を嫌うとは」
「それは」
「そして。女性を認めながら女性を嫌う」
そのことも言ったのであった。またしても。
「私はおかしな人間だ。人が私をおかしいと言うのも」
「陛下、それは」
「言うべきではないか」
「はい」
まさにだ。その通りだというのだ。
「そうです。それは」
「わかった。では言わないことにしよう」
「そうして頂けると宜しいかと」
「そうだな。私は多くのことを言うべきではない」
王として。そう思ったのである。
「むしろ何も言わない方がいいのだろうな」
「何もですか」
「そうだ。だが」
「だが?」
「そなたには言いたいと思った」
そうなったというのである。
「少しな」
「私にはですか」
「ホルニヒ」
彼の名前も呼んだ。ここで。
「これからもそうさせてもらう」
「有り難うございます」
「では。今はだ」
「はい、今は」
「花達を見よう」
こう彼に述べた。
「静かにな」
「わかりました。それでは」
今はだ。戦争を避け花火を観る王だった。刻一刻と変わっていく状況の中でもだ。彼はそうしていたのだ。まるで事の成り行きがわかっているかの様に。
第十四話 完
2011・3・14
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