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永遠の謎

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196部分:第十三話 命を捨ててもその八


第十三話 命を捨ててもその八

「それだけでよかったのにだ」
「左様ですか」
「だが私は」
 王はだ。さらに話していく。
「ワーグナーの美の世界にいたい。その中に留まりたい」
「ではどうされるのですか?」
「私からワーグナーを引き離した人々から離れ」
 疎ましく思っていた。確かに。
「そしてそのうえで」
「その美の世界にですか」
「入りたい。そうしたい」
 こう話すのだった。ホルニヒはここまで聞いた。
 そのうえで言葉を出そうとする。その言葉は。
「あの、陛下」
「何だ」
「場所を変えますか」
 こう王に話したのである。
「どうされますか」
「場所をか」
「はい、気分転換に」
「ここにはその為に来たのだがな」
 寂しい微笑みでの言葉だった。
「だが。しかしだな」
「どうでしょうか、それで」
「そうだな」
 王はだ。ホルニヒのその言葉に頷いた。そうしてだ。
 彼に顔を向けてだ。こう話すのだった。
「庭園に行くか」
「宮殿のですか」
「そうだ、人工庭園に行こう」
 そこにだというのである。
「そこに行こうか」
「話には聞いていますが」
「行ったことはないのだな」
「はい」
 ホルニヒは王に対する礼と共に述べた。
「それは」
「そうか。はじめてだな」
 王は彼のその整った、一見すると少女にも見えるその顔を見ながら述べた。かなり長身の少女に見える、彼はそうした外見なのだ。
「そなたがそこに入るのは」
「私なぞが入って宜しいのでしょうか」
「いいのだ」
 それはいいとだ。王は述べた。
「私にも。その程度の自由は許されている」
「誰かを庭に招き入れることは」
「肝心なことはだ。許されないのだがな」
 ワーグナーのことはだ。どうしても言ってしまう。
 そこに悲しみを感じながら。王はさらに話した。
「だが。許されることはだ」
「それはですね」
「させてもらう。では戻ろう」
「はい、王宮に」
「技術は。戦争の為に使うものではない」
 王の言葉がまた変わった。ここでだ。
「美や芸術の為に使うものなのだ」
「その為にですか」
「そうだ。そういうものだ」
 また話す。
「それが私の考えだ」
「左様ですか」
「それは庭も同じだ」
 その庭もだとだ。そうだというのである。
「同じなのだ」
「ではその庭は」
「入ればわかる」
 こう話していく。
「その時にな」
「わかりました。それでは」
「行こう」
 ホルニヒを伴いだ。馬首を返した。
「そこにな」
「はい」
 ホルニヒは王のその言葉に頷いた。そしてだった。
 その庭に来た。そこはだ。
 ドイツのものではなかった。アラビア風の庭園だった。
 
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