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永遠の謎

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195部分:第十三話 命を捨ててもその七


第十三話 命を捨ててもその七

「そう思っているのだがな」
「バイエルンの国旗でもあるその青をですか」
「そしてだ」
「そして?」
「リヒャルトの色だな」
 今度はその青だと言ったのだった。
「そうだな」
「私のですか?」
「そなたの。そうだな」
 ホルニヒの名前がだ。彼の名前と同じだからこそだった。それがわかってだ。
「同じだったな」
「そこに何が」
「同じか。いや、違うか」
 すぐにわかった。王はだ。
「また別だな」
「?」
 ホルニヒは王の言葉がわかりかねた。しかしだ。
 王がだ。悩んでいるのはわかった。それがわかったからだ。彼はこう王に述べた。
「陛下、お悩みでしたら」
「悩みか」
「はい、出過ぎたことですが」
 こう断ってからだ。ホルニヒは王に言うのだった。
「私が」
「出過ぎたことではない」
 王はまずそれを否定した。
「そなたは出過ぎたことは言っていない」
「そうであればいいのですが」
「王とは望むものを手に入れられないものなのだ」
 遠い、悲しい目での言葉だった。
「人は誰でもそうかも知れないが」
「人はですか」
「それ以上にだ。王はだ」
 どうかというのである。
「王は玉座にいるだけでだ。望むものがその手に届く場所にあってもだ」
「手に入れられない」
「そうだ。手に入れられない」
 また言う王だった。
「手を前に出しても。届く場所にあっても」
「決してなのですか」
「手に入れられない。自然と遠くに離れていく」
 悲しい目で話していく。
「それが王なのだ」
「左様ですか」
「人は言う」
 周りのことだ。多くの者達のことだ。
「王の意のままにならぬものはないと言うな」
「それは」
「隠さずともよい」
 それはさせなかった。今はホルニヒを見てはいない。前を見ている。しかしなのだ。王はそれでありながら彼の心を見ているのだ。
「わかることだ」
「そうなのですか」
「人は。隠そうとしても出してしまうものなのだろう」
 こう話すのだった。人についてだ。
「噂は余計にだ」
「噂ですか」
「私は聞いてきたのだ。私は何もかもを意のままにしていると」
 しかし実はどうなのか。その王の言葉だ。
「だが。私は何もかもを、傍に置きたかった世界をだ」
「それを留めることが」
「できなかった」
 そのことを言った。
「私は。あの世界だけが欲しかったのにだ」
「それがあの」
「ワーグナーだ」
 彼であった。まさにだ。
「彼のことは知っていたのだ」
 王はだ。見えていたのだ。そして聞いていたのだ。
「何もかも。だが」
「それでもですか」
「私は傍にいて欲しかった」
 同時にこうも言った。
「傍に置きたかったのだ」
「ですが陛下」
「誰もが許さなかった。私があの美の世界の中にいることを」
 王の目にだ。ローエングリンが映った。その白鳥の騎士のことはだ。幼い時に見てからだ。何があろうと忘れることはないのだ。
 
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