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真ソードアート・オンライン もう一つの英雄譚

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インテグラル・ファクター編
  S級食材

「まぁこんなもんかな」

俺は現在62層の森で素材集めをしていた。《デス・ストーカー》から取れる「蠍の毒針」を集めているのだ。リズベットとサチから集めるよう頼まれたのだが、

「中々落ちなくて大変だった……こんなことならキリト辺りを呼べばよかった……ん?」

俺は隠蔽スキルを使って草陰に隠れる。何かが近づいてくる。人か?
現れたのはフードを被ったプレイヤーだった。スカートを履いているので恐らく(みゆりんの件があるが……)女の子だろう。それにしてもここはそこそこ高い層だ。こんなところにソロで突破できる女の子はコハルかアスナぐらいのはずだ。それに女の子の様子がおかしい。足元がフラついていて今にも……って倒れた。
俺は隠蔽スキルを解除して女の子の元に近づく。一応囮作戦のような事はないか詮索スキルで周りを見渡す。この辺りは俺とこの子だけのようだ。

「おい、大丈夫か?」

とりあえず呼びかけてみる。返事がない。軽く揺すってみるが反応がない。

「仕方ないか……」

俺は女の子をおぶって安全地帯に向かった。安全地帯は森の場合湖がある場所だったりする。この層でも湖がありそこが安全地帯だ。
湖に着くと、女の子を静かに寝かせる。
メニュー画面を開き、ストレージを見ていく。

「え?なんだよ……一個多く取ってたのか……」

必要数よりも多く毒針を得ていた事に驚きつつも呆れる。でも、一個は自由に使えるから悪くはないか。と前向きに考え直す。
そしてストレージからダーツを出して毒針と調合する。「毒のダーツ」ができた。

「ん……んん?」
「お、目が覚めたか?」

女の子は目を覚ますと周りを見渡した。

「大丈夫。ここは安全地帯だ。プレイヤー以外は入れない」
「貴方は……?」
「俺はアヤト。君が倒れていたのを見つけてここまで連れてきた」
「私はミスト。助けてくれてありがとう……アヤト君」

ミストはまだ警戒しているようで重心を後ろに反らしていた。

「大丈夫。何もしてないから。それにしても、ミストはソロか?この層はそこそこ高い層だし状態異常系の攻撃をしてくるMobも多いけど」
「え、まぁ……ソロ……だね。一応回復系のアイテムは多く持ってるし、なんだったら転移結晶もあるから大丈夫だと思う……けど……」
「ん?どうした?」
「武器の耐久値がもうすぐ尽きそうなんだよね……。だから……その……」

ミストはもじもじ何かをつぶやく。何となくわかった俺は笑ってみせる。

「じゃあさ、俺が街まで送っていくよ。こんな所で転移結晶を使うのも勿体無いし」
「え?いいの……?」
「ああ、それぐらい全然だ」

一呼吸付いた俺たちは早速街に向かって戻っていく。あれは?

「ミストストップ」
「え……?どうしたの?」

俺は自分の口元に人差し指を近づけて、もう片方の手で対象物を指差す。

「あれは……《フォレスト・ダック》!?SAOじゃあ《ラグー・ラビット》《ブルー・マツタケ》に並ぶ三大S級食材じゃなーーもごもご!」
「そうだよ!説明さんきゅ。今からあいつゲットするから静かにしてくれ!(小声)」

うんうん!と頷くミスト。俺はミストの口から手を離すとしゃがんでストレージからさっき作った『毒のダーツ』を出す。そのまま狙いを定めて……投げた。ダーツは見事当たり、《フォレスト・ダック》は苦しそうにもがく。飛ぼうと翼を広げるが上手く飛べなくなったようだ。
すると、《フォレスト・ダック》は倒れてガラス片となって砕け散った。
俺は直ぐにストレージを開き中を確認する。

「よし!『フォレスト・ダックの肉』ゲット!」
「やったね!すごいよアヤト君!おめでとう!」
「おう。ありがとうな」

俺はミストと喜びを分かち合う。

「ところでさ……物は相談なんだけどね?」
「なんだなんだ?改まって」
「わ……」
「わ?」
「私も『フォレスト・ダックの肉』食べたい!!《ラグー・ラビット》や《ブルー・マツタケ》も美味しそうだけどやっぱり『フォレスト・ダックの肉』も美味しそうだもん!ね?ね?いいでしょ?いいよね?ね?ね?」
「分かった分かった!暑苦しいから離れろ!」

俺は引っ付くミストを引き剥がす。ミストは嬉しそうに鼻歌を歌いながら帰りの道を歩く。

「とはいえ、料理スキル持ってないとこれを料理できないな。俺も少しだけあるけど全然だし……」
「それなら大丈夫!私、料理出来るから!一応レベルマだからなんでも大丈夫だよ!」
「お、おう。すごいな……」

ミストのあまりの変わりように思わず曖昧な反応を返してしまう。
俺はミストに『フォレスト・ダックの肉』を渡す。ミストは目を輝かしながら肉を出したりしまったりを繰り返している。あんまり触られると何か悪くなりそうだからやめてほしいんだが……

「あのーミストさん?嬉しいのは分かったからあまり出し入れするのはやめて貰えると助かるんだけど……」
「大丈夫大丈夫!これでラストにするから!」

ミストは肉をニヤニヤしながら見つめること5分しっかり堪能してストレージにしまった。
それからは軽く会話を交わしながら街に戻っていった。が、

「げ、あれって《バンデット・キャット》じゃないかな?」
「ああ、そうだな。あいつらは基本5匹ぐらいで活動して、攻撃されるとランダムにレア度の高いアイテムを盗られちゃう厄介なMobだ。今のところこっちには気づいてないみたいだしバレないようにしゃがんで行こう」

俺とミストはしゃがんで進んでいく。物音を立てないようにする。《バンデット・キャット》は耳もいいため少しの物音でもワラワラやってくるのだ。

「ちょ、ちょっとアヤト君待って」
「どうした?」
「スカートが、スカートが枝に引っかかって」

うーんうーんとスカートを引っ張るミスト。ヤバいヤバいそんなに力一杯引っ張ったら!

ガサッ!

「取れた!」
「ああ、でも今のでアイツらにもバレちまったみたいだ」
「え?」
『ニャーー!!!』

《バンデット・キャット》が飛び出してきた。

「く!やるしかないか!ミスト!悪いけど戦闘準備!」
「わ、わかった!」

ミストは片手直剣を背中から抜き取る。なるほど『インペリアル』か、確かにその剣ならこの層でも十分戦えるな。でも、耐久値が少ししかないって話だし基本は俺がやるしかないか。

「ミスト、背中は任せる。もし剣がなくなったら全力で逃げるか転移結晶を使え」
「え?そうしたらアヤト君はどうするの?」
「俺なら大丈夫。必ず後で合流するから」

そう言って俺は飛びかかってきた敵を斬り伏せていく。後ろのミストも流石この層まで来て戦うだけあってちゃんと戦えてる。最後の一匹を倒すと一息いれる。

「どうにか盗られずにすんだね!」
「ああ、これでどうにかなりそう……って危ないミスト!」
「え?キャッ」

突如後ろから現れたのは仕留め終えたはずの《バンデット・キャット》だった。くそ、こいつら6匹で動いてやがったのか!
ミストに攻撃を当てることに成功した《バンデット・キャット》はアイテムをランダムに盗んだ時に行うモーションをやってそそくさと逃げ去った。

「大丈夫か?ミスト」
「私は何とか……HPもあまり減ってないしね」
「《バンデット・キャット》の攻撃自体はあまり強くない。それよりさっきのやつはアイテムを盗んだはずだ。何を盗まれたか確認してくれ」
「う、うん…………あれ?『フォレスト・ダックの肉』がない……?」
「やっぱりそれか……」
「どうしよう……折角アヤト君がゲットしたのに……ごめんアヤト君……」
「大丈夫。《バンデット・キャット》の巣に行けば取り返せる」

今にも泣きそうなミスト。俺はとりあえず落ち着かせてこれからの動きを説明する。

「《バンデット・キャット》は65層の洞窟に巣があるんだ。そこにはこれまで盗まれて来たアイテムがたくさん置いてある。そこから探し出そう。でも、巣には《バンデット・キャット》のボス《ドン・ザ・サーベルキャット》が現れるかもしれない。《ドン・ザ・サーベルキャット》はフロアボスレベルの強さを誇るから遭遇すると面倒だ」
「うん……そうだね」

元気をなくすミスト。やはり罪悪感を感じているのだろう。一旦街にもどって昼食べてから行こうか。

「一度街に戻ろう。このままだとミストの剣の耐久値が尽きちゃうだろ?」
「でも……!」
「安心してくれ。盗まれたアイテムは三日以内はまだ他のプレイヤーに盗られない。それにもしボスに遭遇したら耐久値ギリギリじゃあ相手にならないだろうしな。ここはまず準備をしっかりしてから取り返しにいこう」
「……わかった」

俺とミストは街に戻ってきた。さっそく鍛冶屋に行き、武器のメンテナンスをしてもらうのだ。

「こんにちはアヤトさんと……そちらの方は?」
「おっすネズハ。ちょっと武器のメンテナンスをな。こっちはミスト。さっき森エリアで知り合ったんだ。ミストの武器もメンテナンスしてやってくれないか?」
「ええもちろん!はじめましてミストさん。僕はネズハっていいます。アヤトさんには色々お世話になって今は鍛冶屋をさせてもらってます。よろしくお願いしますね」
「あ、はい。よろしくお願いしますネズハさん」

ミストとネズハはお互いお辞儀する。メンテナンスするから店内を見てってくださいと言われ店内を見渡す。
少しすると、店の奥からネズハが俺に向かって手招きしていた。不思議に思いながら、店の奥にいく。

「どうした?メンテナンス終わったのか?」
「アヤトさん。ミストさんとはどういう関係なんですか!?アヤトさんにはコハルさんがいるじゃないですか!」
「ばっ!ちげーよ!ミストとはそういうのじゃないし、コハルとも別にそういう仲じゃないぞ!」
「そうじゃなくても、最近サチさんもアヤトさんの事いつも楽しそうに話してくれたりしてますし!……アヤトさん」
「な、なんだよ?」
「爆発してください」
「いやなんで!?」

そういうのって俺よりキリトじゃないか?あいつの方が大概だろ!最近リズベットもキリトの話を聞きたがるし、、、それに比べたら全然だろ?…….全然だよな?
ネズハの魂の叫びを聞き届け、俺は工房を出る。

「あ、お帰り。何かあったの?」
「なんでもない。ただの哀しい嘆きだ」
「嘆き?」

ミストは頭にハテナを浮かべる。要するに気にするなってことだよ。そういうとミストは分かった!っと納得してくれたようだ。
武器のメンテナンスを終え返してもらった俺たちはレストランに向かった。

「アヤト君、ここのレストランでいいかな?」
「おーけー。早速入ろうぜ」

レストランに入り早速料理を注文する。この世界では独特な色の料理が出てくるが、店によっては美味しかったりする。この店はどうだろうか……。
そうこうしていると料理が出てきた。さっそく一口……美味い!

「美味しいねアヤト君」
「ああ、ミストのは魚料理か?」
「そうみたい。メニューの文字だけだとよく分からないのがちょっと怖かったけどこれは当たりみたいだよ!」

そう、メニュー表には料理名しか書かれておらず肝心の見た目がわからなかった。俺のカツ丼風の料理もだ。
各々食べると早速65層へ行くために転移門のところに行く。そして転移門を使って65層迷宮区前まで飛んだ。《バンデット・キャット》の巣は迷宮区の近くにある。

「よし着いた。ここからは時間との勝負だ。ぶっちゃけ《ドン・ザ・サーベルキャット》は二人だと難しいと思う。だから見つかる前に探し出すんだ。いいね?」
「わかってる」
「洞窟内は暗いけどミストは暗視スキルはある?」
「うん。私の友達にトレジャーハンターを自称してる子がいてその子と習得したから大丈夫」
「よし、早速いこう!」

俺たちは洞窟に入る。暗視スキルを使って周囲を見渡す。ん?金貨だ。って事はそろそろアイテム置き場だな。

「ミスト。もうそろそろアイテム置き場だ。ここからはお互い少し離れて探そう。俺は奥を探す。ミストはアイテム置き場入り口らへんを探してくれ」
「わかった。気をつけてね」
「おう」

俺は早速奥の方を見てみる。《ドン・ザ・サーベルキャット》はまだ巣に帰って来てないのか?なら本当に今がチャンスだ。
俺も辺りのアイテムからくまなく探す。なかなか見つからないな……。
しばらく探してみるが見つからない。奥ではないのか?

「アヤト君!あったよ!」
「ん?おっけ!今行く!」

俺は走ってミストの元に戻る。ミストは手に持った『フォレスト・ダックの肉』を持って頭の上に掲げる。
よし!じゃあこのままーーーってやばい!

「ミスト避けろ!!」
「え?」
「ギャシャアアアア!!!」

表示されたのは《ドン・ザ・サーベルキャット》最悪の展開だった。
間一髪ミストは敵の攻撃を躱すことが出来たのが不幸中の幸いだった。

「ミストは隠れてろ!俺が隙をつくる!そしたら全力で出口に向かって走るんだ!」
「でもそうしたらアヤト君が……」
「早く!!」
「!!」

ミストはアイテムの陰に隠れる。敵はミストの方を向いている。俺はソードスキル《ヴォーパル・ストライク》で突撃。注意を引きつける。

「お前の相手は俺だぜ化け猫野郎!」
「ギャシャアアアア!!」

敵の前足から伸びる長くて鋭い爪を振るってくる攻撃をバックステップで躱していく。

「ミスト!今だ!走れ!」

しかし此処は洞窟内。いくらバックステップで躱すにも限界がある。

「しまった!」

背中には壁。敵は前足を上から縦に振り下ろした。俺は剣で防ぐが、中々重い。こんなのをマトモに受けたらひとたまりもないだろう。

「ぐっ!」

敵のもう片方の前足で俺の剣が弾き飛ばされてしまった。万事休すか!

「えーい!!」
「ギャアアアア!!」

敵が仰け反る。後ろから攻撃されたようだ。

「ミスト!?」
「アヤト君がピンチなんだもん!こんな所で逃げるなんて出来ないよ!」

そしてもう一度ミストは敵の背中に一撃加えた。敵はミストの方を向き、前足を横に広げて咆哮と共に威嚇する。ボスレベルモンスターの特徴である全身が赤みを帯びる姿。体力値の減少による怒り状態だ。

「ミスト下がれ!」
「う、うん!」

ミストはバックステップで敵と距離を取る。俺は剣が飛んで行った方を見る。此処からじゃ剣は遠いな。じゃあこれでやるしかないか!

「いくぞ!!はあああ!!」

俺は一気に敵の背中に向かって飛びかかる。そして強く握った拳で一撃を叩き込んだ。
敵は前に倒れこむ。俺は一気に敵の前までいき敵の腹部に5連撃を加える。敵はフラつくが直ぐに反撃を仕掛けてきた。それを倍速で躱しながら攻撃を加えていく。

「す、凄い……剣を使わないで攻撃するなんて……。これって体術スキル?でも明らかに《閃打》とかとは違う……じゃああれは?」

ミストはこの光景について考えてみるが答えが出てこないようだ。
ヤバい、そろそろ時間が……。

「ミスト!なんでも良い!ソードスキルをぶつけてやれ!俺はそろそら時間で動けなくなる!やるんだ!」
「!!……わかった!」

ミストは剣を構える。後は頼むぞミスト!
俺は一撃を叩き込むと倒れる。そして、

「くらえ!《スラッシュ・ウェーブ》!」
「ギャアアアア……」

《ドン・ザ・サーベルキャット》はガラス片となって砕け散った。

「アヤト君!!」

敵を倒したことよりミストは倒れたアヤトの元に向かった。

「しっかりしてアヤト君!アヤト君!」

しかしアヤトは目を覚まさない。ミストはアヤトの頭をを自分の膝の上に乗せるとポロポロと涙を流し始めた。

「そんな……いやだよ……アヤト君…………死んじゃいやだよ……」
「ん……ん?どうしたんだミスト?」
「え?」

アヤトは目を覚ますと不思議そうにミストを見つめる。
ミストは口を両手で抑えてよかった……と呟き続けた。 
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