八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百六十六話 長くなってきた夜その七
「松前藩ではない」
「札幌も函館も明治からですからね」
「その時から栄えていますし」
「小樽だって稚内だってそうですよ」
「北海道は明治からですから」
「江戸時代はその松前藩だな」
評判の悪いこの藩だ。
「確かに弱いな」
「最上徳内さんのお話でも悪役ですし」
「探検を邪魔しようとしたりして」
何でも暗殺までしようとしていたらしい。
「北海道民藩は自慢出来ないです」
「お殿様は」
「そうなのだな、しかし北海道はな」
井上さんは北海道自体について二人に言った。
「五稜郭、そして開拓から輝いたからいいと思うが」
「まあそうですが」
「そう言われますと」
「そうだな、私も北海道は大好きだ」
強い声だった、いつもの井上さんらしく。
「海の幸も牧場もいい、そしてジンギスカン鍋もな」
「あれ実は」
香織さんはジンギスカン鍋について井上さんに申し訳なさそうに話した、その話すことは何かというと。
「ニュージーランドの羊ですから」
「北海道に羊はあまりいないからな」
「ご存知でしたか」
「牧場にいるのは牛や豚や鶏ばかりだ」
井上さんはこのことは実に鋭かった、そのことからもう北海道名物の一つジンギスカン鍋のシオン実を見極めていた。
「それではだ」
「羊がニュージーランド産のことも」
「わかっていた」
「そうでしたか」
「羊は我が国ですわね」
ジョーンさんが笑って言ってきた。
「何といっても」
「いや、ニュージーランドの羊よりも」
ここでエリザさんも言ってきた。
「オーストラリア」
「オーストラリアは二番ですわ」
「ニュージーランドが二番」
「それはニュージーランドの羊を食べて言えますの?」
「オーストラリアの羊を食べたことがあるか」
「私はどちらでもいいが」
こう二人に突っ込みを入れた井上さんだった。
「羊は」
「いえ、違いますわ」
「それはとんでもない考え違い」
二人も即座に井上さんに言い返す。
「オーストラリアの羊は世界最高」
「ニュージーランドの羊は世界一ですわよ」
「どちらも美味いが」
「それ違う」
「最高は一つでしてよ」
「食べればわかる」
「ニュージーランドの羊こそが最高であることが」
何か訳のわからない三つ巴になったと思った、僕が見ている限りだと。だが三人のその三つ巴は続いた。
「わかりますわ」
「それは戯言」
エリザさんも負けていない。
「オーストラリアの羊の素晴らしさときたら」
「待て、そもそもだ」
井上さんは自分にそれぞれ言う二人に言った。
「何故そこで張り合う」
「負けられないから」
「だからですわ」
二人は井上さんにそれぞれ同じ意味の言葉で返した。
「ニュージーランドには」
「オーストラリアには決して」
「どうしても負けられない」
「だからでしてよ」
「どうも両国はな」
オーストラリアとニュージーランドはとだ、難しい顔で言った井上さんだった。
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