八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百六十四話 二学期その十三
「貴方の評判は聞いてますとか言えばね」
「もうそれで、ですか」
「嘘で誤魔化そうとしてもね」
「きっぱりと断って」
「二度と話し掛けるなとでも言ってね」
「それで、ですね」
「関わらないことだよ」
こっちから撥ね付けてだ。
「それがいいよ、もうどうしようもない人はね」
「どうにもならないからですね」
「最初から関わらないことだよ」
「だから先輩もですか」
「彼を見ても声は絶対にかけてないから」
関わろうということは一切していない。
「向こうも僕のことは知っていても興味ないみたいだし」
「接点がないんですね」
「今はね。そしてこれからもね」
「接点のないままですね」
「やっていきたいよ、どうせあのまま高校を出ても」
彼のこれからのことも話した。
「絶対に碌な人にならないから」
「絶対にですか」
「どんな仕事に就いてもチンピラだよ」
「ヤクザ屋さんにならなくてもですか」
「うん、元々下手なヤクザ屋さんより性根が腐ってるからね」
悪事を生業とする人よりもそうだというのもある意味凄いことだろう、どんな家庭だったのかとも思うけれどまともな家庭で生まれ育ってもとんでもない人になったりするケースがあるから世の中わからない。
「どんな仕事に就いてもね」
「所謂人間の屑ですね」
「そうなるよ」
後輩の子にこうした話もして二学期最初の部活の時間を過ごした、そうして学校を出て八条荘に帰ろうとすると。
途中のコンビニの前で畑中さんの奥さんに会った、僕は奥さんとコンビニの関係が想像出来なくて思わず奥さんに聞いた。
「あれっ、コンビニに行かれるんですか?」
「いえ、本屋さんに行きまして」
「それでなんですか」
「その帰りです、小説を買いまして」
「小説ですか」
「武者小路実篤を」
この人の作品をというのだ。
「買っていました、あとライトノベルも」
「武者小路実篤にライトノベルですか」
「はい、そうです」
「ええと、どちらも」
僕は畑中さんの奥さんのお歳から驚いて言った。
「何か」
「想像がつかないですか」
「はい、武者小路実篤は」
志賀直哉と同じ白樺派のこの人はだ。
「恋愛小説でライトノベルは」
「若い人が読まれるものですね」
「そう思いましたから」
「恋愛小説も若い人が読まれますね」
「ですが奥さんは」
「実はどちらもお好きで。武者小路実篤は若い頃から好きで」
多分武者小路実篤が生きている頃からだ。
「そしてライトノベルは」
「そちらはどうしてでしょうか」
「曾孫達が読んでいるのを読んで好きになりました、昔から軽い感じの小説も好きなので」
「そうですか、お若いですね」
「どれも面白いですね、りぼんやちゃおも読みますし」
「少女漫画もお好きですか」
「面白いですから」
にこりと笑って話してくれた奥さんだった、何というか僕がはじめて知った奥さんの意外な一面だった。その一面を知ってそうして僕はその一面を見せてくれた奥さんと一緒に八条荘まで帰った。二学期の最初の一日は本当に色々ある一日だった。
第百六十四話 完
2017・11・15
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