僕のヒーローアカデミア〜言霊使いはヒーロー嫌い〜
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屋内対人戦
オールマイト手作りのくじ引きでFコンビニなった緋奈と葉隠は『敵』チームとして戦闘訓練に挑むことになる。対する相手チームは『轟&八百万』という推薦組コンビ。真っ向からぶつかって勝てる可能性は低い。現在はお互いに五分間の作戦タイム中。
「さて、轟君の個性が分からない以上、真っ向からぶつかるのは危険というわけなので、ここに篭もりましょうか!」
ウインドブレーカーを着用している緋奈は、名案と言わんばかりに親指をグッと立てる。
4階立てのビルの最上階が緋奈達『敵』チームのスタート位置の為、『ヒーロー』チームは真正面の扉から来るしかない。という事はその扉を封鎖すればこちらの勝ちとなる。
「そもそも倒さなくてもいいんだよ。 僕達はこの核兵器を守ればいいんだからね」
バンバンと核兵器を叩いて、告げる。ちなみにこれがハリボテだからまだいいが、本物だったら先程のように叩けば危険である。
「というわけで扉に確保テープを貼り付けてっと。 よし、これで完璧! 後は僕の個性で核兵器をもう一つ具現化させる。失敗した時は透ちゃんの不意打ちに期待ということで!」
「なんかやり方が敵みたいだね」
「え? 僕達いま敵じゃん。卑怯なことやってなんぼでしょ」
緋奈は、何言ってんのさぁ。と笑い、核兵器を具現化する。材質も調べた為、本物の核兵器と瓜二つの偽物を横に置く。
『そろそろ五分経つぞ。準備はいいかい?』
と、耳に取り付けられた小型無線機からオールマイトの声が聞こえる。それに全員が返事をすると、
『戦闘訓練 開始!』
訓練開始の合図が鳴った。
「さてさて、ヒーローチームが来るまで暇だし寝てようかなぁ」
「寝ちゃダメだよ! 一応、授業中なんだから!」
「そんなこと言ったって、眠いもんは眠いし・・・ねぇ、あの扉って最初から凍ってたっけ?」
大きな欠伸をして葉隠に返事をしようとして、チラッと視界の端に見えたこの階に1つしかない扉を指さして尋ねる。それに対し、葉隠は
「ううん。 凍ってなかったよ?」
「ふぅん。って事は個性かな。でも八百万に氷は作り出せないし・・・となると轟君のだね」
緋奈は徐々にフロアを侵食していく氷を見て、呑気に答える。
「んじゃま、透ちゃん。 僕の後ろにいてね」
「う、うん! 分かった!」
姿が見えないため、小型無線機で見つけるしかないため、背後に隠れたのをしっかり確認してから、半分以上を凍らせていく氷に向かって、掌をかざし、
「【炎】」
【言霊】を発動し、氷の波を爆発で食い止める。そして、
「透ちゃん! ちょっと失礼!」
「え? ちょ、嘘でしょ!? 緋奈ちゃん!」
「いいから早く乗って!」
「う、うん!」
慌てふためく葉隠にそうお願いして、緋奈は肩車体勢に入る。 葉隠は、んしょ、と緋奈の両肩に座る。 それを確認した緋奈は葉隠が落ちないように支えながら立ち上がる。柔らかい太股が直に掌などに伝わりなんというかイケナイコトをしている気になってしまうが、今はそんなこと言っていられない。
「何とか、氷は防げれたし、こっちも攻めようかな? 敵なりのやり方で!」
緋奈はそう叫んで、扉を蹴破った。そして、恐らく、階段を上ってきているであろう轟の元へと向かった。
❶
凍りついた4階立てビルの1階入口。
白のカッターシャツに白のズボンというシンプルな戦闘服に白のブーツ。 背中には背負うような形で板状のアーマーのようなものがついている。また、左半身が氷で覆われたかのようなアーマーを覆っている轟焦凍は、壁に当てていた右手を離し、先程、爆発音のした天井の方を見上げ、
「防がれたか。 さすが、成績トップ。 そう、簡単に負けてくれないか」
動揺することなく、呟いた。
(となれば、一人じゃ攻略は無理か)
轟はそう考え、外で待機させている八百万に声をかける。
「・・・おい、八百万。 お前の個性はなんだ?」
「わ、私のですか?」
「あぁ、そうだ。 出来れば手短に頼む」
轟は時間を気にしながら、八百万に声をかける。
「わ、分かりました。私の個性・・・」
そう言って、八百万は個性の説明を始めた。
個性【創造】。
あらゆる物を自分の体内(脂肪)で創り出し、取り出す事が出来る能力。
創り出せる物は衣服、ネット、絶縁シート、刀剣など多岐に渡り、物体の分子構造まで把握する彼女の膨大な知識量がそれを可能にしている。
ただし、生物は創ることが出来ない。
「というわけですわ」
「そうか。因みに俺の個性は【半冷半燃】。左で凍らし、右で燃やすことが出来る」
轟は交互に氷、炎と出して説明する。
「恐らくだが、俺一人じゃどうすることも出来ない。それにどうやら、お前は桜兎と知り合いみたいだし、あいつの個性に弱点も分かるだろ?」
「ええ、緋奈さんの個性は【言霊】。 言葉にした事象を現実に表す事が出来る強力な個性であり、大きなリスクを伴う個性でもありますわ」
「・・・大きなリスク?」
轟の問いかけに、八百万は頷く。
「彼女の個性は使用する度に、頭痛が起こります」
「・・・頭痛? それのどこが大きなリスクなんだ?」
「ただの頭痛じゃありませんわ。彼女が【言霊】を五回使う度に頭痛のレベルがあがります。そのレベルは六段階で、最初は軽く小突かれるほどの痛みで済むようですが、六段階目は失神するほどの痛みを伴うとのことですわ」
「という事は、三~四段階目でもかなりの痛みを伴うってことだな?」
二度目の質問に、八百万は首肯した。
「それで弱点というのは?」
「弱点はないですわ。 ただ、頭痛が起きるタイミングに一瞬ですが動きが鈍ります。その隙を狙うしか緋奈さんを倒せるチャンスはありませんわ」
「時間にするとどれくらいだ?」
「・・・3秒」
それはあまりにも短すぎる隙。だがその隙を狙わなければ、緋奈には勝てない。轟は、やるしかねえか。と胸中で呟いた。
「葉隠の方は脅威にはならなねぇ。二人で桜兎を倒すぞ」
「は、はい!」
轟と八百万はそう作戦を立てて、ビルの階段を上がっていく。
戦闘訓練終了までの残り時間、後9分。
❷
「うわーうわー! 緋奈ちゃんよく避けたよねー! 」
「だよなー! よく避けたよな緋奈!普段やる気ないくせに!」
数分前の緋奈による轟の発動させた氷結をたやすく防いだ光景に芦戸と切島は興奮気味に感想を零す。今、モニターに映っているのは、葉隠を肩車した緋奈が部屋に置かれている木箱に立っている姿。 そしてもうひとつのモニターには、轟と八百万が4階に向かって階段を上っている姿。
(緋奈少年か。入試試験で見てはいたが、強力な個性だ。ただ、あの二人の息子にしては何かが違う。 ヒーローに必要な『何か』が足りない)
成績簿を手にオールマイトは胸中で呟いた。
「・・・残り7分か」
ストップウォッチを見て、
「2チーム共、残り7分だ! 時間いっぱい頑張りたまえ!」
ビル内で訓練中の緋奈、葉隠、轟、八百万の四人の小型無線にそう声をかけた。
『了解で〜す!』
『は〜い!』
『分かった』
『わかりました』
各々がそれぞれ返答する。 それを聞いた後、オールマイトは、
「うむ! いい返事だ!」
満足げに頷いた。
そしてその掛け合いの間に、ビル内での戦況が変わった。
「オールマイト! 轟君と八百万さんが核兵器のある部屋に辿り着きました!」
と、出久がモニターを指さして叫んだ。その言葉に全員がモニターに視線を戻す。
そこでは、4階の核兵器が置かれた部屋の前に辿り着いた轟と八百万の姿があった。
❸
扉の前。一度氷結させていたため、ドアノブが凍りつき、開けることが出来ない。その為、八百万の個性で巨大なハンマーを作り、凍りついた扉を破壊する。
バゴッ!
と破砕音が鳴り、扉が吹き飛んだ。
「よし、行くぞ!」
「ええ!」
轟と八百万はすぐさま扉が破壊された部屋へと飛び込み、個性を発動する。氷で床を凍らせ、その氷を飛んで躱すのを想定し、創造した防刃性ネットを投げる。完璧な連携。
だが--
「【炎】からの【壁】!」
もくもくと立ち込める煙の中から、個性を発動する緋奈の声が響き渡る。それと同時に、床を侵食していた氷が砕け散り、創造で作られた防刃性ネットが具現化された壁にぶつかりポトっと落ちた。
「ちっ。 もう一度だ」
轟は舌打ちして地面に足を叩きつけた。 するとそこから地面が冷やされていき氷の槍が襲いかかる。 そこから更に、
「八百万!」
「はいですわ! 轟さん!」
声をかけられた八百万は、数秒前に大量に創っておいたマトリョーシカ型煙爆弾を上空に向かって投げた。それが同時に爆発し、4階の部屋を灰色の煙が覆い尽くした。これであちらからこちらの姿は見えない。対する轟轟八百万には、生物の熱を確認できるセンサー付きゴーグルを掛けている為、緋奈達がどこにいるか分かる。
「そこだ!」
轟は確保テープを手に、周囲をキョロキョロと見渡す緋奈を視界に捉えて捕縛にかかる。やがて、緋奈の後ろ姿を完全に捉え、確保テープを伸ばした瞬間、
「轟君! 確保ー!」
真横からそんな明るい声が聞こえ、振り向いた瞬間、そこに確保テープが浮いていた。否、葉隠がそこにはいた。
「ちっ!」
轟は葉隠の持つ確保テープから逃れる為に、右手をかざし氷壁を作り出す。が、それが過ちだ。 一瞬の隙。気を1度、緋奈から葉隠に逸らしたことでチャンスを与えてしまった。
「ほいっ、と!」
シュルーッと素早く伸びた白いテープが、葉隠の方に伸ばした右腕に巻きつき、流れるような動きで轟の右腕の関節を極め行動不能にする。
「轟さん!」
「俺の事はいい。 それよりも核兵器を奪え!」
捕縛された轟が叫んだ。しかし、八百万は動かない。否、動けないのだ。というのも、彼女は判断ができない。最善の方法を思いつくことが出来ないのだ。これが実戦ではなく、筆記であれば彼女は正しい答えを即座に見つけ出すだろう。 しかし、今回の訓練は戦闘。それも実践に近い訓練。轟の考えた策は尽きた。自分で考えようにも、何が正しいのか判断出来ない。
「どうした、八百万! いいから核兵器を確保しろ!」
轟がさらに叫ぶと、
「は、はい!」
慌てて返事をして八百万は核兵器に向かって走り始めた。ただ、その行動はあまりにも遅すぎた。
「悪いけど、行かせないよ。 八百万」
「ごめんねー、八百万さん!」
「くっ。 緋奈さん。 それに葉隠さんも!」
八百万の前に立ちはだかる緋奈と確保テープを手にした葉隠。 二対一の局面。不利なのは八百万。
「ハッハッハ! 覚悟したまえよ、ヒーロー!」
「そうだよー! 覚悟してねー、ヒーローちゃん!」
完全に敵役になりきっている緋奈と葉隠がジリジリと八百万に近づいていく。
「ぼさっとするな!残り時間もすくねえんだぞ」
縛られて動けない轟が、額に汗を浮かばせ判断に迷う八百万をさらに焦らせる。
「す、すみません!」
八百万は轟に謝って、個性を発動させようとする。だが、焦るばかりで、いま創造すべきものが何か思いつかない。その間にも刻一刻と緋奈と葉隠が捕獲せんと近づいてくる。
「諦めてお縄につきな、ヒーロー」
「痛くしないからねー、ヒーローちゃん」
敵役を楽しんでいる緋奈と葉隠。
「おい、オールマイト。 捕縛されてるやつを助けるのはアリなのか?」
轟は小型無線機で別室にいるオールマイトに質問する。
『もちろんオーケーだ! 実践ではほかのヒーローを救出して協力することもあるからな!』
その返事を聞いた後、
「八百万! お前の個性でナイフを作って、俺のテープを解け! そうすれば俺が何とかする!」
硬直する八百万に向かって轟が叫んだ。
「は、はい!」
その声に硬直していた思考と体が動き、即座にマトリョーシカ型煙爆弾で目くらましをし、ナイフを創造して轟に駆け寄り、確保テープを切り裂く。
「ふぅ。桜兎、葉隠。 第2ラウンドだ」
確保テープから解放された轟はそう告げた。
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