僕のヒーローアカデミア〜言霊使いはヒーロー嫌い〜
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ヒーロー基礎学
体力測定を終えたA組生徒達は、制服に着替え直して教室で、先程の体力測定の際に使用した各々の個性紹介と共に自己紹介等をして友人作りに奮闘していた。因みに緋奈は、八百万の膝枕で睡眠に耽っていた。というのも、個性を使用することで頭痛が起こるため、使用後は休憩しなければ体と頭がもたない。 結局、強くても使い方が不便なら意味が無い。自分の個性は両親2人が持つ【言霊】の劣化版。頭痛は起きないし、『対象の操作』を使用しても意識を失わない完璧な個性。
「・・・zzZ」
「緋奈ちゃん、八百万さん! 一緒にかえ・・・」
リュックを背負った麗日がそう声をかけようとして、眠っている緋奈を見て、言葉を押し殺した。
「ふぅ。 緋奈ちゃん、寝てたんやね。危うく、起こすとこだったよ〜」
「いえ、お気になさらなくて構いませんわ。緋奈さん、運動後に睡眠をとらないと身体が持たないんです」
「へー。 八百万さん、緋奈ちゃんのこと凄く詳しいんだねー? もしかして付き合ってるとか?」
「い、いえ! わ、私達は、小さい頃にお隣同士でよく遊んでいただけです!」
八百万は顔を真っ赤にして、両手をあたふたさせる。それに対し、麗日は自身の口元に手を当てニヤニヤしていた。
「・・・ぅん?」
瞼を閉じたまま、うるさいなぁ、みたいな幼い子供のような表情を浮かべる緋奈。
「どうやら、うるさかったみたいだね。 私達」
「ええ、そのようですわ。ただ、緋奈さんには申し訳ないですが、早く帰らなければ先生に怒られてしまいます」
「そうえばそうやった!じゃあ、八百万さんが緋奈ちゃんをおんぶしてあげればいいんじゃないかな? 荷物は私達が持ってあげるから」
両拳を作りガッツポーズ的な事をして言う麗日。
「私達・・・ですか? 麗日さんの他にも一緒に帰る人がいるのですか?」
「うん! 梅雨ちゃんと、三奈ちゃん。 それに、葉隠ちゃん! もう少ししたら戻ってくるよ」
八百万の疑問に答えを返して、麗日は、んしょ、と緋奈の片手鞄を手に取った。
「三人とも、待たせたわね」
「遅れてごめんねー!」
「早く帰ろー!」
蛙吹と芦戸、葉隠の三人が鞄を手に教室に戻ってきた。彼女達三人は数分前にトイレに行っていたのだ。全員揃ったので、まずは八百万の膝枕で睡眠をとる緋奈をどかすために、麗日の個性【無重力】で緋奈を浮かし、解放された八百万が、浮いた状態の緋奈を背負い、個性を解除する。これで、帰る準備は整った。
「じゃあ、帰りましょうか」
「ありがとうございます。 麗日さんに、葉隠さん」
八百万は、自分の荷物と緋奈の荷物を持ってくれている麗日と葉隠にお礼の言葉をかける。そして、八百万達五人(緋奈は除く)は談笑しながら家に帰った。
❶
翌日の早朝。誰もいないリビングで一人、朝食を摂る緋奈。 テレビのニュース番組のアナウンサーの声とパンを咀嚼する音、味噌汁をすする音、牛乳を飲み込む音、そして、食器の音だけが桜兎家の日常の音。他の家のように、母親が朝食を作り、家族みんなで食事をする。 そんな普通はなくて、いつも一人で朝食を作って、一人で食べる。これが緋奈にとっての普通。
「・・・もぐもぐ」
残り少しとなったパンを口に放り、牛乳で流し込む。そして、食器を片付けようとすると、
ピロン♪
と通知の音が机に置かれた携帯から鳴った。緋奈は携帯を手に取り、液晶画面に表示されたメッセージに目を通す。
『お母さん:洗濯物干しといて』
緋奈はそのメッセージに、
「実の息子におはようもなしか」
そう呟き、返信せずに携帯を机に戻す。そして、食器を片付けて洗面所に向かい、歯を磨き髪を整え、顔を洗う。
「また怖い顔してる」
鏡に映る自分の顔を見て、ため息をつく。あの様なメッセージが来る度に、不機嫌な顔になってしまう。
「まぁ、いつもの事だ。 忘れよう、あんな人達」
緋奈は頭を振って、2階に続く階段を上り、『緋奈ちゃん♡の部屋』と自分が生まれた頃に母親が書いてくれた小さなブラックボードが掛けられた扉を開けて、中に入る。
壁にはかつてポスターが貼ってあった跡が残っている。まだ4歳の頃はヒーローに憧れていた。 ゴミ箱にはヒーローコスチュームを身に着けた父親と母親の映ったポスターがグシャグシャに丸めて捨ててある。他にもヒーロー雑誌やグッズなどのヒーロー関連の物は全て捨てた。だから、部屋に置いてあるのは、本棚とクローゼット、ベッドと勉強机のみ。本棚には辞書や推理小説等のヒーローと全く関係の無いジャンルだけ。 勉強机の棚にも、雄英高校の教科書だけしか置いていない。 それは15歳の少年の部屋にしては殺風景だった。
「そうえば、今日からヒーロー基礎学だったっけ?」
クローゼットから雄英高校の制服を取り出し、ベッドに置いて、パジャマを脱ぎながら、壁に画鋲で留められた時間割表を確認する。
「となると、コスチュームは今日届くってことかな。 まぁ・・・僕にとってはどうでもいい事だけど」
緋奈は興味なさげに呟いて、片手鞄に必要な教材を詰め込み、しっかりと制服を整え、自室を出る。階段を降りて、2階の廊下の電気を消し、リビングに戻る。 時計を見てまだ登校時間には早いのを確認して、テレビリモコンを操作して、他のニュース番組に切り替えて、ソファに寝転がる。先程から、机に置きっぱの携帯の通知がうるさいが、どうせ親からだし、と無視を決め込んで耳を両手で押さえる。しばらくそうしていると、
ピンポーン♪
とインターホンを誰かが押したのを知らせる音が鳴った。緋奈は、『こんな時間から誰だよ?』と不機嫌な表情で呟き、外の様子を見やる。そこには--玄関の前で心配そうに立っている八百万がいた。
「・・・なんで八百万が?」
緋奈は突然の来訪者に疑問を抱く。とりあえず黙っておくのも気が引けるので、
「ちょっとそこで待ってて」
と一声かけて、玄関に向かう。廊下を歩き、玄関に辿り着くと、鍵を開け、ドアノブを回す。ガチャと扉を開き、
「おはよう。 どうしたの? 八百万」
目の前に立つ八百万に尋ねる。それに対し、
「忘れたんですの? 昨日の帰りに、お迎えに行きますと約束したはずですわよ?」
と答える。
「・・・昨日?」
「ええ、そうですわ。ただ、あの時の緋奈さんは寝起きでしたので忘れていても仕方ないですわね」
「・・・なんかごめん」
「いえ、大丈夫です。それよりも早く行きましょう。 麗日さん達が待っていますわ」
八百万はお嬢様よろしく鞄を両手で持って、告げる。
「あ、うん。 すぐ荷物持ってくるから待ってて!」
緋奈はそう言って、家に戻る。 そして、ソファに置いた片手鞄と携帯を手に、リビングの電気を消し、玄関を出て、鍵を閉めた。
「これでよしっと。 行こっか、八百万」
「はい、行きましょうか」
緋奈と八百万は談笑しながら通学路を歩き、集合場所の公園で待っていた麗日、蛙吹、葉隠、芦戸と共に学校へと向かった。
❷
午前の普通科目が終わり、午後の授業。 ヒーロー科にとって1番大切な科目。
『ヒーロー基礎学』
その名の通り、ヒーローに必要な基礎を学ぶ授業。 今年から教師として赴任した平和の象徴・オールマイトによって行われる。
本日の授業内容は『BATTLE』。 要するに戦闘訓練だ。 それに伴い、生徒達には各々が注文したコスチュームが渡される。勿論、緋奈もだ。そして、更衣室に入り、コスチュームに着替えて、オールマイトに指定されたグラウンドβに集まる。
「はぁ、やる気起きない」
緋奈はため息をつく。 彼が身につけるコスチュームは、ごつくもなくかっこよくもなく、というかヒーローコスチュームっぽくない衣装だ。
多少の細工はされてはいるが、伸縮性と通気性や耐火性、そして首の後ろを冷やすための冷却機能等の災害時や戦闘時に役立つ機能を追加しただけのスポーツ用品店で売ってるような紅いラインの入った口元を隠すほどの長さをした黒色のウインドブレーカー。 そのウインドブレーカーでいうところの首辺り、緋奈の口がちょうどある位置部分には、普通であればチャックのある場所だが、そこには小型のスピーカーが埋め込まれており、その数三センチ下にチャックが付けられている。私服としても使いたかったから好都合だ。
「あれ? 緋奈ちゃん、ヒーローコスチュームじゃないの?」
「ううん、これも一応コスチュームだよ。僕の個性はどんなコスチュームでも問題ないからね。 ただ、頭痛を起こしちゃうからそれを抑制する為の冷却機能。 それと声を響かせるための小型のスピーカーを搭載してもらったんだ」
「そうなんだ。 私なんて要望ちゃんと書いてなかったから、パツパツスーツんなった。 はずかしい・・・」
そう言う麗日のヒーローコスチュームは確かにパツパツだった。 15歳の男子高校生達には刺激が強すぎる。というのも、完全に体のラインが浮き出ているのだ。その他はヒーローコスチュームと言うより宇宙服に似ている。頭をすっぽりと覆うメットに、首や手首に細工でもしてあるのか少しごつい機械が取り付けられていた。
「それにしても初日から戦闘訓練かぁ」
ひどく面倒くさそうに呟いて、緋奈はため息をつく。
「緋奈ちゃ〜ん! 麗日〜!」
背後から、声が聞こえて緋奈と麗日はそちらに振り返ると、ヒーローコスチュームに身を包んだ芦戸、蛙吹、葉隠、八百万が駆け寄ってきた。
「みんな、衣装凄いよね〜!」
と、芦戸が感想を零す。 かくいう彼女のヒーローコスチュームは、まだら模様のコンビネゾンに袖なしのダウンジャケットというラフな格好をしていた。
「あら、緋奈ちゃんのコスチュームは普通ね」
と、緑を基調とした水中戦確定のボディスーツに、大きめのグローブとゴーグルを着用した蛙吹が緋奈のコスチュームを見て率直な感想を零す。彼女も彼女で体のラインが出ていて緋奈にとっては目に毒だが、口に出さないでおく。
「そうえば透ちゃんのコスチュームって、その手袋とブーツだけなの?」
蛙吹と芦戸の後ろにいる手袋とブーツが浮いている状態にしか見えない葉隠に声をかける。昨日から気になっていたのだが、彼女はずっと透明化しており、顔を見たことがない。なので身につけているもので判断するしかないのだが、どう見ても手袋とブーツしか身につけていない。
「うん!そうだよ!」
葉隠はテンション高い声で頷く。
「じゃあ、全r--あふっ!?」
気になることはとことん気になってしまう緋奈が率直な疑問を投げかけようとすると、蛙吹が伸ばしてきた長い舌が鞭のような速さで緋奈の頬を叩いた。
「デリカシーがないのはどうかと思うわ、緋奈ちゃん」
「・・・すみませんでした」
蛙吹にそう注意されて緋奈は反省する。
「皆さん、そろそろ授業が始まりますわよ」
談笑する緋奈達に八百万が声をかけてきた。
「八百万。 そのコスチューム露出高くない? ミッドナイト並みにエロいよ?というか、はしたない?」
緋奈は駆け寄って開口一発にそんな感想を告げた。八百万の身につけるコスチュームは、胸元がぱっくりと開いたデザインをしていた。ただでさえ発育がいいというのに。
「・・・は、はしたない」
ズーン、と緋奈の言葉が心にクリティカルヒットした八百万はしゃがみこんで地面を指でなぞりながら呟き始めた。
「八百万? どうかし--あばっ!?」
シュル、っと伸びてきた蛙吹の舌が再び、緋奈の頬を叩いた。
「・・・緋奈ちゃん?」
凄い剣幕で緋奈の名前を呼ぶ蛙吹に二度目の説教を受け、八百万と同じようにしゃがみこんで地面を指でなぞりながら肩を落とす。そんな光景に先行き不安のまま、オールマイトは授業の説明をしていく。
今回行うのは屋内での対人格闘訓練。
敵退治を目にすることが多いのは屋外であるが、統計で言えば、屋内の方が凶悪敵出現率は高いという話は両親から聞かされて知っている。
これもまた、超常社会においてヒーローという職業が人気を博し、果てには『ヒーロー飽和社会』と呼ばれるほどにヒーローの数が増えたのが原因だ。それはつまり、犯罪に目を光らす者達が増えたと言う事。
そのような状況の中で、わざわざ人目に着く場所で罪を犯す馬鹿は居ない。よって、賢しい敵は光の目が届かぬ屋内に免れるということだ。
君らにはこれから『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!!」
「基礎訓練もなしに?」
「その基礎を知る為の訓練さ! ただし今度は、ブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」
蛙吹の質問に、溌剌とした声で答えるオールマイト。
だが、
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ブッ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「帰りた〜い」
「あとすこしの辛抱ですから、頑張りましょう、緋奈さん」
「んんん~~~、聖徳太子ィィ!!!」
次々と投げかけられる質問に、拳を握って悶える姿は得も言えない初々しさがある。
その後、小さい紙切れのようなカンペを、肩を竦めるような体勢で読み上げるオールマイト。
・『敵』がアジトに核兵器を隠している。
・『ヒーロー』がそれを処理しようとしている。
・『ヒーロー』の勝利条件は、『敵』を二人とも捕縛するか、『核兵器』を回収すること。
・『敵』の勝利条件は、同じく『ヒーロー』を二人とも捕縛するか、制限時間まで『核兵器』を守り切ること。
・捕縛に用いるのは事前に配布された『確保テープ』。これを相手に巻きつければ、捕えたことになる。
・制限時間は15分。
分かりやすくシンプルなルール。
「それじゃあ、各々、くじを引いてくれ。そこに書かれた番号と同じ人がペアだ」
オールマイトはくじ引きのBOXを手にして、生徒達に指示する。それに群がって一人一人とくじを引き、結果はこうなった。
A:『桜兎 緋奈』・『葉隠 透』
B:『砂糖 力道』・『蛙吹 梅雨』
C:『緑谷 出久』・『麗日 お茶子』
D:『瀬呂 範太』・『上鳴 電気』
E:『峰田 実』・『耳郎 響香』
F:『轟 焦凍』・『八百万 百』
G:『爆豪 勝己』・『切島 鋭児郎』
H:『尾白 猿尾』・『常闇 踏陰』
I:『芦戸 三奈』・『飯田 天哉』
J:『障子 目蔵』・『口田 甲司』
「よかった〜!透ちゃんとだ〜!」
「一緒に頑張ろうね! 緋奈ちゃん!」
緋奈と葉隠がそう喜びあっていると、
「続いて、最初の対戦相手はこいつらだ!! Fコンビが『ヒーロー』!! Aコンビが『敵』だ!」
アルファベットが書かれているボールをオールマイトが高々と掲げる。
「うへぇ。 推薦組と勝負なんて」
「ぜ、絶対勝とうね! 緋奈ちゃん!」
緋奈と葉隠は、推薦組二人と戦うことに不安を感じながら、準備についた。
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