夢幻水滸伝
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第五十五話 武蔵と箱根でその二
「全然動く気配がない、しかも自分から何も言うてこん」
「あいつは相手を煽ることもしてくるだがや」
坂口は対峙してきただけに幸田のそうした気質は知っていた、実際に対峙していた時に戦う様に挑発されてもいたからだ。
「悪い言い方ではないだがや」
「悪い喧嘩や戦はせん奴やけどな」
「そうしたことは大好きだがや」
「そんな奴が一切出て来ん」
芥川はその目を鋭くさせて言った。
「何かおかしいな」
「では東国の方に策がある」
「それで、ちゅうんですか」
「幸田さんは出て来ない」
「そうやっちゅうんですか」
「そうやろな」
佐藤兄妹にも言うのだった。
「人間策を仕掛ける前はどうしてもや」
「策のことを考えて動く」
「そうなりますね」
「それや、まして向こうは劣勢や」
東国の方がというのだ。
「兵の数、装備の質、星のモンの数、物量でな」
「うちの方が全部上で」
「不利は事実ですね」
佐藤兄妹もそこを言う。
「それでどうして勝つか」
「そう考えていったら」
「やっぱり策ですわ」
「それを使わな仕方ないですわ」
「そや、それで策を使うならや」
芥川は東国の軍勢を見つつさらに話した。
「どうした策を使うかや」
「僕等にどう仕掛けてくるか」
「そうしてくるか、ですか」
「仕掛けるのは僕等とは限らんで」
芥川は二人の弟子に笑って話した、その顔を向けたうえで。
「中里が率いる主力かも知れんし」
「姫巫女さんにもですか」
「仕掛けるかも知れませんか」
「むしろ棟梁の綾乃ちゃんを倒した方がええやろ」
兄妹に笑ったまま話した。
「そやろ、戦に勝つ為には」
「確かに。言われてみますと」
「劣勢を一気に覆そうって思いますと」
「それが一番ですわ」
「相手の大将首を狙うのが」
「そや、僕等を攻めるよりもな」
それよりもというのだ。
「棟梁の綾乃ちゃんを攻めるわ」
「それで、ですか」
「幸田さんも今は静かですか」
「何もしてきませんか」
「攻めませんか」
「そやろな、仕込みの最中や」
策のというのだ。
「多分な」
「ほな今はですか」
「あえてですか」
「向こうは仕掛けて来やへんのですか」
「幸田さんも」
「そやろな、綾乃ちゃんを東国の星のモン全員で狙うか?」
関西の総大将である彼女をとだ、芥川は笑って述べた。
「それは大胆やな、成功すればもう一気に戦の流れは東国に傾く」
「はい、我々の士気は一気に落ちます」
雅も芥川に言ってきた。
「少なくとも今回の東国攻めは頓挫します」
「そして西国全体の統治も威信が揺らいでや」
「不安定にもなりますね」
「そこを攻められてや」
他ならぬ東国にだ。
「押されてく可能性もあるわ」
「そうですね」
「そやからな」
「はい、棟梁が敗れれば」
「倒されるか捕虜になれば最悪や」
棟梁である綾乃がというのだ。
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