夢幻水滸伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五十五話 武蔵と箱根でその一
第五十五話 武蔵と箱根で
芥川は甲斐から攻め入りそうして一路武蔵の江戸を目指していた、だが今彼は自身が率いる軍勢の前に東国の棟梁である幸田自らが率いる軍勢を見てだった。
守りを固めさせたうえで進軍を停止させてだ、己が率いる者達に言った。
「まだ時間があるしな、というかや」
「ここで対峙することもですね」
「想定の範囲内ですね」
「そや」
弟子でもある佐藤兄妹に笑って話した。
「綾乃ちゃんの軍勢が攻めて中里の軍勢もや」
「箱根を越えて伊豆や相模に入る」
「動きを連動させることですね」
「そういうことや、僕等が一気に攻めてや」
そうしてというのだ。
「江戸を囲んでもな」
「突出し過ぎになり」
「計画が崩れますね」
「そやからですね」
「今はですね」
「対峙してもええ、そやけどずっと対峙する訳やない」
芥川は佐藤兄妹にこうも話した、彼等の前には東国の主力が見事に整った陣でその姿を見せている。
「やがて攻めるで」
「姫巫女さんや中里さんと動きを合わせ」
「そうしてですね」
「そうするわ」
まさにというのだ。
「それまでに攻める態勢に入るで」
「今回は時間制限付きだがや」
坂口も言ってきた。
「そういうことだがや」
「そや、戦の常や」
「時間との勝負でもあるだがや」
「時間は無限やない」
「何時か絶対に攻めなあかん」
「それでだがや」
「時が来たらや」
その時はというのだ。
「攻めるで。敵の状況に関わらずな」
「敵がどれだけ堅固な陣を敷き罠を置いていてもですね」
雅はその切れ長の目を鋭くさせて芥川に問うた。
「その陣も罠も破り」
「まさにそうしてや」
「敵を破りですか」
「綾乃ちゃん、中里の軍勢と動きを合わせてな」
そうしてというのだ。
「江戸に向かうで」
「そうしていきますね」
「今頃綾乃ちゃんは厩橋城を攻めてる」
まさにその通りだった、芥川の戦略眼はここでも生きていた。
「そして中里は空船と海から箱根をせっせと越えてる」
「そうした状況で」
「二人の軍勢がさらに動くからな」
それに合わせてというのだ。
「僕等も動かなあかん」
「何時までもここにはいられないですね」
「そういうことや」
まさにとだ、芥川は雅に答えた。
「時が来ればな」
「攻めますね」
「全軍で」
「そのつもりや」
芥川は今度は滝沢と正宗に答えた。
「僕も自ら切り込んでな」
「江戸を目指す」
「敵を破って」
「そうする、しかし不思議やな」
ここでだ、芥川は自分達の前にいるその東国の軍勢を見て首を傾げさせて不思議そうな顔になってこうも言ったのだった。
「あっちには敵の総大将がおるんや」
「樋口だぎゃ」
「あいつはかなりの戦好きや」
坂口に応える形で言うのだった。
「もう三度の飯と酒と煎餅と喧嘩とな」
「戦だがや」
「そういうのが好きな筈やのに」
それがというのだ。
ページ上へ戻る