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とある3年4組の卑怯者

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152 表現(いままでのきもち)

 
前書き
 アマチュアの小学生スケート大会、各地方の大会の金賞者が滑り続ける。その中で大阪府代表の瓜原の得点はこれまでの記録を大幅に更新。藤木は瓜原の得点を超える事ができるのか!?そして藤木は世界大会への出場権を勝ち取る事ができるのか・・・!? 

 
 みどりは堀の家に行き、彼女と合流した。
「それでは、行きましょうか」
「ええ」
 二人は藤木が言っていた彼の友達が入院しているという病院へと向かった。手ぶらで行くのは失礼すぎるため、途中でお菓子を買おうと思い、ケーキ屋に入った。二人は様々な果物が乗ったショートケーキ、レアチーズケーキ、そしてショコラタルトを一切れずつ購入した。行く途中、みどりは堀にある事を質問した。
「ところで、入院している藤木さんのお友達ってどんな名前でしたっけ?」
「笹山かず子さんっていうのよ」
「へえ、でもどうして堀さんにお見舞いに行ってくれって藤木さんはお願いしたんでしょうか?」
「実は私、前に会った事があるのよ・・・」
「え?そうなんですか!?」
 みどりは驚いた。
「うん、あの時は藤木君は不幸の手紙の事で皆から嫌われていたでしょ?吉川さんがいないときに顔を合わせたの。その時、私が藤木君と仲良くしてるのを見て文句言ってたわ・・・」
「そうだったんですか・・・」
「でも藤木君が言うには本当は優しい子なんだって」
「はい・・・、そういえばその人藤木さんのクラスメイトって事はまる子さんのお友達って事になるんじゃないでしょうか?」
「そういえばそうなるわね・・・」 
 みどりは気になった。その笹山かず子という子は藤木とどういう関係なのか。一方、堀も藤木は笹山が好きであるという事をみどりが知ってしまったらどうなるのか先が不安になった。

『静岡県入江小学校・藤木茂君・中部大会金賞』
 藤木が演技を見せる番が訪れた。
「藤木君の番が来たね・・・」
「まさか、怖くて逃げるんじゃないかと思ったけど、そうでもなかったね」
「そんな事ないよ。藤木君はスケートにとても自信を持っているんだから」
「まあ、失敗したら元も子もないけどね」
「いいから応援しようよ」
 永沢と山根はそのような会話をしていた。
 リリィは藤木の番がようやく訪れてさらに胸の鼓動が激しくなった。
(藤木君、頑張って・・・。絶対に負けないって信じてるわ・・・)
 リリィは旅行や中部大会での藤木のフィギュアスケートの演技を見た事がある。そのためか誰をも魅了させる藤木のその技術は絶対に一番だと信じていた。
(そういえば藤木君は不幸の手紙で皆から責められた事でそれを見返そうと思ってスケートの大会に出る事にしたんだよな・・・。でもそれでここまで来たんだ・・・)
 たかしは藤木が何の為にスケートの大会に出ているのかを顧みた。そして藤木はそのスケートで地区大会・中部大会で金賞を獲った事で皆を驚かせている。あの不幸の手紙の事件は結果的に藤木にいい方向に導いたのか。たかしはそう思っていた。しかし、やらされてたとはいえ、自分の行いには今でも苦しく感じていた。

 藤木は演技を終えた瓜原とすれ違った。
「瓜原君、君の演技凄かったよ。でも、僕は君を超えて見せるよ!」
「楽しみやな。超えてみい!!」
 藤木は瓜原と別れ、リンクに向かった。

(皆、見ていてくれよ!!)
 藤木は音楽が流れると共に滑り出した。一方、女子控室のモニターから見ている美葡や黄花、古宮も藤木を応援していた。
(藤木君・・・、頑張ってな!!)
 藤木が滑り出す。音楽が流れ始めた。まず始めに見せたのはダブルトウループ、そしてすぐにトリプルサルコウ。これはリリィと共に高山へ旅行に行った時、偶然花輪とマーク、ルリ子と出会い、そして片山と初めて知り合った時を表現した。トウループもサルコウもきれいに決めた。
(あの時、僕はあそこで初めて、リリィに自分の演技を見せた・・・。そして片山さんと初めて会った・・・。全てはそこから始まったんだ・・・)
 その時、自分の技術を見て驚いたルリ子の言葉が蘇る。
《アナタ、凄いわ。本当の、スケーターみたい!》
 そして花輪の言葉も思い出す。
《Hey、藤木クン、凄いprayだったよ。僕らも脱帽さ》
 そしてその時のリリィの感想は・・・。
《藤木君、かっこよかったわ。私も見惚れちゃったわ》
 そうだ、あの時はリリィも惚れた。その時リリィに自分のスケート姿を見せる事ができた嬉しさだ。そして藤木の滑り方が変わった。そして次に表現する者は不幸の手紙で一時的にリリィや笹山から嫌われた哀しさを示すシングルアクセルとシングルルッツ。そしてその絶望の先にみどりに堀と出会い、堀への心変わりを考えるくらい彼女らに助けれられたそのありがたさ。その時のみどりの言葉が蘇る。
《藤木さんのその寂しい気持ち、私にもわかります!もし藤木さんが寂しいならば私はいつでも傍にいます!だって、藤木さんは私の大切な人ですから・・・》
(そうだよね、みどりちゃんはそれでも僕の為にいろいろやってくれていたよね・・・。みぎわと冬田にばったり会った時、僕を庇っていたし、地区大会の時も僕を必死に応援していたね・・・)
 藤木はみどりが堀によって精神的に強くなった事を思い出しながら、フライングコンビネーションスピンを行った。そして自分の弱みであり、全てである卑怯を治したい為に地区大会に出場した。自分に大会を勧めた堀の言葉を思い出す。
《弱気になっちゃだめよ。卑怯を治したいって自分で言ったでしょ?積極的にならなきゃ!》
(そうだよね。卑怯を治したいなら弱気になっちゃだめだよね、堀さん・・・)
「藤木、お前凄いブー」
 ブー太郎が感心していた。
「あぁ、あいつはやっぱりスケートじゃ、誰にも負けねぇぜ」
 関口も陶然としていた。
(藤木君、今の回転(スピン)かっこよかったわ・・・)
 リリィは藤木のスピンに見惚れていた。藤木の演技は続く。藤木は不幸の手紙の事件が解決して皆と仲直りした後も、平穏な日常ばかりが訪れるばかりではなかった事を示したかった。なぜなら自分にとって恩人である堀が凄惨ないじめを受け、笹山が校内テロによって生死に関わる重傷を負ったからである。その時自分は大切な人が傷つけられて呑気にスケートなんてできるのだろうかと自分を責めて大会を辞退しようと考えた事があった。しかし、それは自分の為で人の為になっていなかった。自分に大会で頑張ってほしいから堀は自分に桂川美葡を紹介し、笹山は藤木に怪我して欲しくないと思い、死ぬ気で堀内竜一と格闘していたのだから。
(今度の技は絶対失敗させない!!これには笹山さんや堀さんへの想いが詰まっているからさ!!)
 藤木はトリプルフリップ、トリプルルッツ、トリプルループの三回転ジャンプのオンパレードを披露した。どれも失敗する事はなかった。むしろ、藤木が思っている以上の出来だった。
(凄い!!あの三つのジャンプは高評価が付くぞ!!)
 片山は藤木の今の三連続のジャンプを称賛した。そしてアップライトスピンを行った。
(そしてここに来てくれたリリィ達に感謝だ!!)
 このスピンは9回転で決まった。そして地区大会や中部大会で最終兵器として魅せたトリプルアクセルからのスパイラル姿勢での着地を試みる。藤木はジャンプする。トリプルアクセルは決まった。そして着地する。藤木は右足を伸ばし、右足の踵を右手で掴んだ。中部大会の時は失敗しそうになったが、今度は成功させた。誰もが歓声を挙げないわけにはいかなかった。
「茂、お前はやっぱりすごいぞ・・・」
「茂、アンタはやっぱりスケートやっててよかったねえ・・・」
 藤木の両親は感動すると共に息子を称賛していた。藤木茂の演技が終わった。やったんだなというすがすがしい表情で藤木はリンクから引き上げた。そして得点が表示されるのを待った。もし瓜原よりも点を超えれば銀以上は確定するし、たとえ瓜原に勝てなくとも現在二位につけている住吉の得点を超えるだけでも銅以上は確約される。

 得点が出た。151.89だった。つまり・・・。
(僅かにわいを超えたやと!?)
 瓜原は驚いた。藤木の点数は瓜原の151.54を僅差で超えた。藤木はその場で嬉しさの感情を剥き出しになった。
「やった、やったー!!これで銀以上は決まったー!!」
 藤木は嬉しさの興奮が冷めぬまま控室に戻った。

 一方、観客席では3年4組の皆が藤木の健闘を喜び合っていた。
(藤木君、貴方の演技、凄かったわ・・・)
 リリィは感動で涙が自然と流れて来ていた。 
 

 
後書き
次回:「面会(かおあわせ)
 スケートの男子の部も大詰め。遂に最後の一人、豆尾が滑り出す。一方みどりと堀は入院中の笹山の元を訪れる。堀にとっては二度目の、そしてみどりにとっては初めての笹山との対面になる・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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