| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

殺人鬼inIS学園

作者:門無和平
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二十七話:報復1

 
前書き
また血生臭くなります 

 
某年某月某日。地図から消された島にて。

編田羅赦は新世代型のISスーツに身を包み、浜辺を疾走していた。此処は先の世界大戦の際、島民が全員死亡した後に名前を消され、米軍に秘密裏に『割譲』された孤島であった。
 朝鮮戦争の折には秘密の捕虜収容所として、現在も特定の犯罪者や捕虜を収容する『東洋のグアンタナモ』と呼ばれている危険な場所だ。
何故この様な場所に居るのか。それは数日前に遡る。

「アメリカ政府への報復を行います」

「唐突に何を!?報復って我々何かされましたかね?」

 唐突に理事長室に召喚されたラシャは、若干顔に怒りの色を滲ませた轡木理事長に唐突に告げられた。
 それは、かつてラシャが従事した篠ノ之姉妹合流阻止作戦の折に発生した、アメリカ・イスラエルが合同開発した最新IS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の暴走事件。通称、『福音事件』に端を発する。
 アラスカ条約を無視した軍事使用を目的に製造された銀の福音はハワイ沖で演習中に突如として暴走。IS学園が臨海学校という名の運転試験に乱入し、少なくないダメージを与えた。織斑一夏を始めとした代表候補生チームの活躍により、民間被害は皆無のまま福音は沈黙。後にアメリカ軍によって回収された。

「尚、米軍側はアラスカ条約違反並びに日本の領海を脅かし、あまつさえ我々が抱えている生徒たちの生命を脅かしたことについては何の釈明も弁明も行っていない……巫山戯ているとは思いませんか?」

 辛うじて怒りを隠している十蔵に対して、ラシャの反応は至極軽いものだった。

「まあ、相手の気持も解らないこともないですが、一報は欲しいですよね」

「正直に言ってもいいのですよ?」

「アメリカも日本も知ったこっちゃないね。何せ日本政府は俺の家を無かった事にしたからな」

「なるほど、そうきましたか。耳が痛い」

 ラシャの意外な反応に苦笑した十蔵は、スクリーンの展開スイッチを押すと、空中ディスプレイを展開させた。日本列島が表示されたがすぐにズームアップされ、在る孤島を指し示した。

「すでに名前が抹消された島ですが、この島にはアメリカ軍の捕虜収容所があります」

「初耳ですな」

「朝鮮戦争の時代から使用されていましたからね。今もまだアジアに於ける作戦の捕虜や戦争犯罪人が収容されています」

「正にグァンタナモ米軍基地だな」

「中々良い点を衝きますね。正にそこですよ」

「まさか私を呼んだのって……」

 冷や汗をかくラシャに対して、十蔵は待ってましたとばかりに笑みを深めた。

「ええ、二日後の日米合同演習に合わせてそこに潜入し、米軍の秘匿空母を破壊して頂きたい」

「私を非正規の工作員か体のいい鉄砲玉だと思ってませんか?ただの用務員ですよ?」

「おや?私としては隠し玉だと思っていたのですが」

「ご冗談を」

 しばし二人は談笑していたが、双方の目は全く笑っていなかったという。


二日後、ラシャは管制機のプロペラントタンクの中に押し込められていた。

「千冬ちゃんと水杯交わしておくべきだったな」

 そうぼやくラシャの口調は軽い。真に危険な状況に追い込まれた時、くぐり抜ける自信があったからだ。

「ブ、ブリュンヒルデと親交があるのですか?」

 通信から恐る恐る質問が届く。この女尊男卑が蔓延る中、最先端の装備を与えられた謎の兵士。漸く口を開いたと思いきや大者の話題が出てきた。興味を持たないようにするのは無理だったようだ。

「悪いが舌を噛みたくない。切るぞ」

 ラシャは含みを持たせたまま通信を切断する。同時に振動がタンクを襲うと同時に、不愉快な浮遊感に包まれた。数十秒後、轟音と共にショックを和らげる仕掛けが作動したが、ラシャの汗腺から漆黒の液体が吹き出してタンク内を満たした。ドイツでラシャの心臓(コア)吸収したシュヴァルツェア・レーゲンの成れの果てだ。
 見事に衝撃を殺しきったラシャはタンクの仕掛けを作動させた。人間魚雷さながらに進行するプロペラントタンクは波間をたゆたうように移動し浜辺に漂着した。

「今更だが、この潜入方法を考えた連中はどうかしてるぜ」

 あとでお礼参りしてやると毒づきながらも、ラシャは偽装網をプロペラントタンクに貼り付けて岸辺に固定した。

「さて、あそこに接舷してる空母を吹っ飛ばしましょうかね」

 ラシャはボイスチェンジャーが備え付けられたガスマスクを装着した。


 某年某月某日パークライナー級秘匿空母「エルボー」にて。

 モンド・グロッソアメリカ代表イーリス・コーリング大尉は自らの出番の無さを嘆いていた。徹底的現場主義の彼女はじっとしている事が出来ない性格で、出来ることなら常にISに登場していることを望む様な女傑だ。
 
「ああ畜生!何でアタシが!国家代表で虎の子のイーリス・コーリング様が後詰何だよォ!!」

 空を飛び回って華々しくドンパチしている格下の朋輩達を苦々しげに睨みつけながら、すっかり萎縮しきっているオペレーター達を睨みつける。

「こ、コーリング大尉。何か修正点やアドバイスを……」

「立ち回りが悪い!マニュアル操作に慣れない下手糞(ビギナー)じゃねえんだぞ!もっと足回り意識していけ足回りを!!」

「い、イエスマム!!」

 イーリスの檄をモロに受けた米軍ISパイロット達は搭乗機のラファールやファング・クエイクを慌ただしく操作しながら演習用のミサイル迎撃に備えていく。

「ったく、あーあ。現場に出られないならもっとヤワな体に産まれたかったぜ……」

 超現場主義な性分では今の状況は生殺しに近い。とにかく、今の彼女は暴れたかった。というのも──。

「ナタル……オメー、何をやらかしやがったんだ?」

 同期でありテストパイロットのナターシャ・ファイルス()大尉。の理不尽とも取れる仕打ちが彼女を苛立たせていた。ナターシャはハワイでの演習中、突如乗機を暴走させてIS学園生徒を襲撃、代表候補生たちの攻撃により撃墜・拘束され、当収容所に収監される。イーリスが聞かされたナターシャの罪状であった。
 判決は階級剥奪の上不名誉除隊。その後、民間の特別刑務所に移送し終身刑というあまりにも重い判決だった。
 当然、イーリスは抗議し、ポケットマネーをはたいて弁護士までつけた。しかし、悲しきかな。国家絡みの見えざる手(ゴリ押し)により、判決は覆ること無く、刑が執行されるのを待つ状態となってしまった。
 
 ──何もかもが胡散臭え……福音の暴走自体ナタルが仕込んだ事自体が怪しすぎるし、何よりお粗末だ。裏に絶対何かがある。

その時、船内に警報が鳴り響いた。慌ててオペレーターが端末を操作するが、船内の監視カメラが映していたのはこの世の地獄だった。一体そこには何人の兵士が居たのであろうか。それを考えることすら難しい。手、腕、脚、腸、頭、そして大量の肉片と血しぶき。
 まるで半端に予算を与えられたできの悪いホラー映画のワンシーンだ。だが、そこに映っているのは、確かにさっきまで食堂で飯を食って上官に怒鳴られながら訓練をこなし、共に任務を乗り越えてきた仲間たちだったのだ。
 あまりの惨状にオペレーターの何人かが嘔吐する。イーリスでさえ喉まで反吐が出かかったが寸でのところで堪え切ることに成功した。

「他は!?他のカメラの映像を回せ!」

 直ぐに艦長が指示を飛ばす。正気を保っていたオペレーター達が慌ててコンソールを動かす。カメラを切り替えるたびに同じ様な惨劇(ブラッド・バス)がかたちを変えて画面に拡がる。
何度めかの同胞のぶつ切りを映し終えたか。唐突にそれは現れた。漆黒のしなやかな体躯をしており、両手は手斧のような異形へと変わり果てていた。(かお)は殻を剥いた卵のようなそれで、表情というものをまるで伺えない。

「VT……システム!?」

 オペレーターの一人が絞り出すように喘いだ。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧