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龍宮童子

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第四章

「俺が駄目だってのか」
「そうよ、だからね」
「市立大受けるんだな」
「それで合格してね」
「大学も一緒か」
「そうなるから」
 こう彼に言うのだった、そして。
 ここでだ、鈴音は二人に店のことを話した。
「思えばお店の売り上げが倍になったのは」
「それ急でしたね」
 みちるは鈴音のその言葉に応えた。
「本当に」
「ええ、実はね」
「実は?」
「男の子が来てからなの」
 二人に今はじめてその男の子のことを話したのだった。
「毎日お店にね」
「男の子がですか?」
「そう、平日のお昼にね」
 みちるに応えて二人にこのことも話した。
「来る様になったの」
「そうなんですか」
「小学生位の男の子で」
「小学生が平日のお昼に喫茶店に?」
 道明は母のその話に怪訝な顔になった。
「そうなんだ」
「ええ、毎日来るの」
「学校はどうしたのかな」
「お母さんも気になってるけれどね」
「聞かないんだ」
「お客さんのプライベートを聞くのはあちらから言わない限りはね」
 聞かない、これは鈴音が考えているエチケットだ。
「そうしてるから」
「それで聞かないんだ」
「ええ、何か無口でお世辞にも奇麗とは言えない服をいつも着ていて」
 鈴音は今度はその男の子の容姿の話をした。
「鼻水を垂らしてる子なの」
「えっ、その子って」
 男の子の外見を聞いてだ、みちるはまさかという顔になって言った。
「まさか」
「どうしたの、みちるちゃん」
「その子人間じゃないかも知れないですよ」
「どういうことなの?」
「その子龍宮童子じゃないですか?」
 こう鈴音に言うのだった。
「妖怪の」
「何、その龍宮童子って」
「はい、東北の方に多いらしいですが」
 みちるは鈴音にその龍宮童子のことを話した。
「汚い服を着ていていつも鼻水を垂らしていて」
「その男の子そのままの恰好なの」
「はい、小さな男の子の妖怪でして」
「だからいつも平日のお昼に来ているのかしら」
「妖怪は学校とか関係ないですからね」
 学校も仕事も試験もない、それが妖怪だ。
「それでこの妖怪は福をもたらしてくれるそうです」
「幸福を?」
「はい、いる家に」
「うちには住んでいないけれど」
「毎日注文しに来るんですよね」
「ええ、アイスミルクをね」
 その通りだとだ、鈴音はみちるに答えた。
「そうよ」
「それはお店のお客さんが増える様に」
「それで道明が大学に行ける様に」
「幸福をもたらしてくれるんですよ」
「そうなのね」
「はい、確かに汚い外見ですが」
 服もそうだしいつも鼻水を垂らしている、本当に汚いとしか言い様がない恰好だ。 
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