龍宮童子
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第三章
それでも二人は道明の進学のことを真剣に考えていたが実際に金はなかった。実際は普通に暮らせていたが確かに彼を大学に行かせるだけの金はなかった。
それで二人も諦めるしかないと思っていたが。
ある日だ、店にだった。
一人の男の子が平日の昼間から来た、汚い服を着ていて鼻水を垂らしている随分な外見の男の子だ。
その子を見てだ、その時間は一人で店をやっている鈴音は小学生が平日に昼にと思ったがそれはあえて言わず。
カウンターに座った男の子に注文を聞いた。
「ご注文は」
「アイスミルク」
返事は一言だった。
それでそのアイスミルクを出すと男の子は一杯飲んで帰る、勘定はアイスミルクの値段丁度を出していた。
鈴音はその男の子を妙に思ったがだった。
言うのもどうかと思って黙っていた、それで男の子は店から帰ったが。
問題はその後だ、何と客が普段の倍来たのだ。それでだった。
店の売り上げは二倍だった、その話を学校から帰って店に入った道明とみちるも驚いて聞いた。それで道明は思わず言った。
「そんなこともあるんだ」
「そうなの、お客さんが多くて」
「店の売り上げが二倍だね」
「そうなったの」
「お袋忙しかっただろ」
「それ位何でもないわよ」
ずっと喫茶店をやっているので接客も注文のものを用意して出すこともだ、この辺り鈴音の手際は抜群にいいのだ。
「お母さんにとってはね」
「だといいけれどね」
「ええ、ただ今日の売り上げは二倍だから」
「その分だけ」
「お金儲かったから」
「よかったね」
「ええ、本当にね」
鈴音はこの時は男の子のことを忘れていた、だが。
男の子は次の日も店に来てアイスミルクを頼んだ、そして男の子が帰った後でまた売り上げが伸びた。
この日もこれまでの二倍の売り上げだった、その次の日もだった。
男の子は毎日来た、そしてアイスミルクを飲んで帰るがその後でお客さんがうんと来る。それが何ヶ月も続いてだ。
道明が大学に行けるだけの学費が出来た、それでだった。
鈴音は笑顔で我が子に言った。
「お金出来たから」
「お店の売り上げが倍になったから」
「ええ、だからね」
「俺大学に行けるんだ」
「それだけの学費が出来たわ」
息子ににこりと笑って言うのだった。
「よかったわね」
「うん、ただ公立に行くから」
ここでも家計を気遣って言う道明だった。
「そうするから」
「八条大学には行かないのね」
「あそこは私立だからね」
私立は学費が高いからだというのだ。
「だからね」
「行かないのね」
「うん、市立大受けるよ」
大阪市にあるその大学にというのだ。
「そうするから」
「成績の方は大丈夫なのね」
「うん、模擬の査定はAだったから」
道明は鈴音ににこりと笑って答えた。
「だからね」
「じゃあ頑張ってね」
「そうするよ、そっちも」
「じゃあ私もね」
みちるは今も道明達と一緒にいた、この日はお店は休みだったが家に来てそれで三人で話をしていたのだ。
「市立大受けるから」
「鈴音ちゃんもなの」
「私も勉強してきたんです」
みちるは鈴音に熱心な顔で答えた。
「ですから」
「それでなのね」
「はい、道明と同じ大学に行きます」
これまでと同じ様にというのだ。
「道明って私がいないと全然駄目ですから」
「おい、そこでそう言うのかよ」
道明はみちるの今の言葉に眉を顰めさせて返した。
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