魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica13-B橙石楠花騎士隊~Mission~
†††Sideアイリ†††
シャルが新しく率いることになった新設部隊、橙石楠花騎士隊オランジェ・ロドデンドロンの一員としてマイスターとアイリは、頼れる仲間たちと一緒に日夜活動中。んで、本日の任務は、南部はマクファーデン地方・エリアCの警邏。
「アイリ、ルシルと合流・・・!」
「ヤー! ありがと、クラリス!」
アイリのペアだったクラリスから、先に爆発現場に居るマイスターの元へ先に行くように言われた。アイリはお礼を言って、両腰から一対の白翼を展開。トントン、トンッて三段跳びのように舗装された歩道を蹴って、「行っくよぉ~!」一気に空へと飛び上がる。
「っ・・・!」
その瞬間、空を流れる一筋の閃光。恐ろしく速い弾丸、レールガンだね。アイリは「クラリス! 南南西、距離は判んないけど、その先に砲手が居る!」って報告しておく。
『判った。イリスに許可を貰って、捕縛に向かうよ』
クラリスとの通信の最中にもレールガンは、次々と現場に向かって撃ち込まれてく。
――天翔けし俊敏なる啄木鳥――
そんなレールガンの弾丸を、それ以上の速度を誇るトリシュの魔力矢が撃ち抜き始める。トリシュの弓騎士としての腕にはホント驚かされちゃうよね。トリシュの魔力矢と弾丸が空で激突して爆発の花を咲かせる中、『こちらルシリオン。現場にて8体の死体を確認した』ってマイスターから全体通信が入った。
(爆発事故じゃなくて、爆発事件ってことだよね)
死体は全員が心臓を貫かれてるって話だし。レールガンってことは、仮面持ちの仲間になっちゃってるティアナのお兄さん、ティーダ・ランスター一尉が砲手だろうし、被害者を殺したのもたぶん、他の仮面持ちの可能性があるよね。
「マイスター・・・!」
ティーダ一尉が未だに離脱しないってことは、現場にはまだ殺人を行った犯人が居るかもしれない。マイスターは1対1での闘いなら負けはしないと思うけど、仮面持ちの実力は確かなものだし、不安がアイリを襲ってくる。そうしてアイリも現場に到着して、大穴が開いてる外窓から室内へと降り立ったところで・・・
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
知らない男の人の声で悲鳴が聞こえて、続けてダァン!って銃声が聞こえた。音の出所はフロアの奥のようで、「マイスター!」って叫びながら奥へと駆ける。そこはロッカールームで、そこには右肩から血を流したマイスターと、質量兵器の1種である拳銃を握ってる若い男が居た。
「~~~~っ!! 貴様、何をやってる!」
――氷拳――
一瞬で頭に血が上った。右拳を頑強な氷でコーティングして、「ひぃ!?」って怯えてる馬鹿野郎に向かって突撃する。でも「待て、アイリ!」ってマイスターが制止してきた。そうやってマイスターが守ってくれたのに、馬鹿野郎は「俺は、そう簡単には殺されねぇ!」って半狂乱に叫びながら、また銃口をマイスターに向けた。
「しかし二度目はないぞ?」
でも引き金は引かれることはなくて、マイスターがそう言いながら“エヴェストルム”で拳銃を弾き飛ばして、リングバインドで拘束した。馬鹿野郎は「ちくしょう! 殺されてたまるか!」ってもがくけど、魔力の無い一般人じゃマイスターのバインドを破る手段は無い。
「落ち着け! 俺は教会騎士団のルシリオンという者だ! 何があったのか教えてくれ!」
「ひっ! え?・・・ル、ルシリオン・・・!? ルシリオン・セインテスト!? 軍神と言われてるあの!? た、助けてくれ! 何でも喋るから、何でも教えるから、俺をアイツから助けてくれ!」
片膝立ちしてるマイスターがそう聞くと、馬鹿野郎はそう懇願した。むぅ、図々しいにも程がある。マイスターはコイツに撃たれてるのにそれでも「判った。必ず護る」って承諾した。アイリは納得できないまま、「マイスター。まずは自分の負傷を治して!」って懇願した。
「ん? ああ。とりあえず、ここから離れよ――」
マイスターがそこまで言いかけた時、トンっと足音がすぐ後ろから聞こえた。こんな気配を消して近付いてくるなんて、シャル達じゃ絶対にありえない。なら、考えられるのはただ1つ。
――パンツァーシルト――
マイスターとアイリは同時にシールドを背後に展開した。振り返り中、視界の端に映りこんだのは例の学生服と学生帽とマントと目出し帽、そして天狗の仮面っていう格好の仮面持ち。得物は2m近い槍1本。すでに刺突攻撃に入ってる後で、完全に振り向く前に穂先がまずアイリのシールドに激突。
「っ!!」
アイリのシールドは一切の抗いを見せないで貫通させられて、貫通した箇所から全体に向かってヒビが入って割れた。次にマイスターのシールドに激突。この頃にはマイスターは振り向き終えていて、穂先の向かう先である馬鹿野郎の腕を掴んでた。遅れて穂先とシールドが激突。
「っく・・・!」
(マイスター!? あ、右肩を撃たれてるから・・・!)
マイスターのシールドにもヒビが入るのが判った。この僅か1秒ちょいの間、アイリは思考を巡らせて、「うりゃっ!」って馬鹿野郎を蹴っ飛ばした。直後にシールドが破壊されて、穂先がアイリの脛を掠った。
「いっつ! この・・・!」
――氷結の軛――
「逮捕する!」
――闇よ誘え、汝の宵手――
アイリは仮面持ちへと氷結効果のある拘束杭を、マイスターは影の触手をあらゆる影から発生させて、蹴っ飛ばされて床を転がってる馬鹿野郎へ向かって駆ける仮面持ちへ打ち込もうとしたんだけど・・・
――風刃烈火――
振るわれた槍全体に鋭い風の渦が巻きついて、アイリの拘束杭どころか、マイスターの影の触手すらも粉砕した。今の仮面持ちの魔法、どっかで見たことがある。ともかくアイリは、立ち上がり終えたマイスターと一緒に馬鹿野郎への追撃を再開しようとしてる仮面持ちの制圧に動く。
――知らしめよ、汝の力――
――護り給え、汝の万盾――
マイスターが今度は自分オリジナルのシールドを展開した。小さな円い盾を何十何百と重ねて大きな盾とする多重障壁で、パンツァーシルトとは比べられないほどの防御力を誇る。マイスターが防御なら・・・
「アイリが攻撃担当だよね!」
――アイス・ランツェ――
氷の礫を宙に20発と展開して、マイスターのシールドを破壊しようと槍を振るってる仮面持ちへと一斉に「発射!」させた。仮面持ちは一度シールドから後退することで、アイリの攻撃をすべて避けきった。
――力神の化身――
「勘だが、お前は特別な仮面持ちだろう?」
でもその僅かな時間で、マイスターは一気に攻勢に出た。一足飛びで仮面持ちの目の前へと移動して、“エヴェストルム”を横に払った。
「ぐっ・・・!」
仮面持ちは縦に構えた槍の柄でマイスターの斬撃を受けたんだけど、その単純な攻撃に踏ん張り切れずに吹っ飛ばされた。んで叩き付けられたロッカールームの壁をぶっ壊して、さらに室外へと吹っ飛んだ。
「アイリはその男と一緒に地上へ行き、シャル達と合流だ。俺は仮面持ちを逮捕する」
「ヤー! 気を付けてね。・・・大人しく運ばれてよね」
「あ、ああ・・・!」
馬鹿野郎を肩に担いだアイリは、大穴が開いた壁から飛び出してくマイスターを見送った後、マイスターやアイリが入ってきた事務所の外窓から飛び出した。飛行魔法でゆっくりと地上へと降下して、今なお避難誘導されてエントランスから出てくるお客さんに気遣いの声を掛けてる「シャル!」の元へ向かう。
「アイリ! ルシルは!?」
「ルシルは今、風を操る槍の仮面持ちと交戦中だよ。で、コイツは事務所で殺害されてた被害者たちの生き残り」
シャルにそう答えながら肩に担いでた馬鹿野郎を地面に降ろしたところで、ドォーン!って大きな爆発音が、あの現場のある階層付近から連続で4回と鳴った。避難をしてる最中の人たちが「きゃあ!」って悲鳴を上げて、警備員が「落ち着いてください!」って宥める。
「ルシルなら大丈夫だろうけど念のためにアイリ、もう一度ルシルの元へ向かって。その男性はこちらで保護するから」
「ヤー!・・・他のみんなは?」
「砲手にはクラリスが向かって、トリシュはレールガンの迎撃を行ってるのは知ってるよね。さらに別の仮面持ちが、近くの高層マンションを襲撃したの。そっちにはセレスとルミナに行ってもらってる」
「そっか・・・」
しばらくぶりに活動を再開した仮面持ちが付近に3人も現れた。マイスターとアイリが助けた馬鹿野郎を殺そうとし、その仲間を殺した理由って一体どんな・・・。ううん、そんな事は後で知ればいい。
「今行くからね!」
地を蹴って一気にマイスター達の居る階層へと向かう。また壊れた外窓から事務所に入って、「マイスター!?」を呼びながら駆け回ってると、またドォーン!って轟音が「下!?」から聞こえてきた。
「あそこ・・・!」
休憩所らしき部屋の床に大きな穴が開いてるのを見つけた。アイリもその穴から飛び降りて階下へ降り立うとしたけど、穴はさらに下の階、さらにさらに下の階へと続いてた。ひょっとしてさっきの4連轟音は、この穴を開けた時に出たものかも・・・。降り立った階層は、四面ある壁のうち一面が鏡張りになってる。
(ダンス教室ってところかな・・・)
床も壁もボロボロになっていて、出入り口のあるドアの壁にはこれまた大きな穴が開いていた。その奥から激しい剣戟音が聞こえてくる。マイスターと仮面持ちはこの階でまだ闘ってる。大穴を潜って廊下に出て、破裂した水道管から漏れる水でビシャビシャな廊下を走って、音の出所へと向かう。
「「おおおおおおおおおおおッ!!」」
2人の雄叫びが聞こえた直後、耳鳴りがするほどの剣戟音が鳴り響いた。そしたら目の前の壁が崩れて人影が吹っ飛んできた。それは「マイスター!?」だった。アイリはグッと踏ん張って、吹っ飛ばされてきたマイスターを抱き止める。
「マイスター!?」
――カタパルトヴィンデ――
「おー、アイリ。ありがとう、助かった・・・よ!」
目にも留まらない速さで飛来した何かからアイリを護ってくれるように、マイスターはアイリをグイッとその胸に抱き寄せてた。ほぼ同時に何か――鉄パイプがアイリ達の後ろの壁を穿った。
――ラケーテン・シュペーアⅡ――
「女神の護盾!」
マイスターの防御術式の中でも2番目の硬度を誇るシールドが展開されて、ホント気付けないレベルの速度で突っ込んで来た仮面持ちの持つ槍が、ガキィーン!と甲高い音を立てて激突した。
「アイリ、頼む!」
「ヤー!」
「「ユニゾン・イン!」」
マイスターとユニゾンを果たす。つまりあの仮面持ちは、ユニゾンしないとまずいほどの実力者になる。そんな不安の中でも、頼られてるってことだから嬉しいって思っちゃうんだよね。
『氷結圏!』
アイリは氷結効果を強化する魔法を発動。マイスターのシールドに弾かれて後方に飛び退いた仮面持ちは、僅かに一切の行動を止めた。
「絡み付く泉湖の水精・・・!」
その隙にマイスターは廊下に溜まってる水を操って、仮面持ちの全身を飲み込むように水で拘束した。首から下が球体状の水に包まれた仮面持ちは、槍を振るおうとしてるけど、水圧に負けて振るえてない。
「これで・・・」
『終わりだよ!』
――舞い振るは、汝の麗雪――
マイスターとアイリで氷の槍を30本と展開して、「『ジャッジメント!』」って一斉に射出。仮面持ちを飲み込んでる水の檻や廊下へと撃ち込んで、一気に凍結させた。さすがにこの連携には仮面持ちも耐え切れなかったみたいで、完全に氷漬けになっちゃった。
「ありがとう、アイリ。助かったよ」
『気にしないで、マイスター。でもこれって、かなりの功績だよね? 仮面持ちを生け捕りなんて』
「ああ、お手柄だぞ。さて。素顔を見てみたいが、完全に確保してからだな」
仮面持ちの中には転移スキル保有者がいるし、ソイツが手を出せないようにするための檻が必要なんだよね。マイスターやシャル達は、シスター・プラダマンテの空間干渉スキルを利用しようって話も出してるみたいだね。マイスターがシールドを解除して、氷漬けな仮面持ちへ近付こうとした時・・・
「魔法陣・・・!」
『まだ動けるのコイツ!?』
――シュトルム・シャルフリヒター――
黄緑色のベルカ魔法陣が仮面持ちの足元に展開されて、魔法陣から竜巻が発生した。それで氷塊が粉々に砕けて、竜巻の風圧や氷の破片がマイスターを襲った。
――パンツァーシルト――
「ぅく・・・!」
展開したシールドにガツンガツンと当たり続ける砕かれた壁や床の破片の中、自由になった『仮面持ちが・・・!』逃げるのが見えた。マイスターも気付いてシールドを解除、“エヴェストルム”を二剣一対のゲブラーフォルムして、飛び散る破片を斬り捨てながら駆け抜ける。
「ここまでされて逃がすものか!」
仮面持ちが角を曲がって、その姿がマイスターの視界から一瞬消える。直後にドォーン!って轟音が鳴り響いた。続けてマイスターも角を曲がったら、廊下の床に大穴が開いてるのが見えた。これ以上、視界から仮面持ちを離すと逃げ切れられる。マイスターもそう思っちゃったんだと思う。アイリだって焦ってて、注意を怠っちゃった・・・。
――ラケーテン・シュペーアⅡ――
マイスターが穴から階下に降り立ったその直後、上から仮面持ちが刺突攻撃を繰り出してきた。完全な奇襲でもマイスターはギリで反応できたんだけど・・・。でも着地した場所の状態が悪かった。瓦礫に足を取られたマイスターは回避に移れなくて、体の前で交差させた“エヴェストルム”2本で防御した。
「ぐぅぅ・・・!」
『マイスター!?』
仮面持ちの突進力に踏ん張りきれなかったマイスターは後ろ向きに床に叩き付けられて、大きなクレーターを作った。しかもそれだけじゃ終わらなくて、床にヒビが入ったかと思えばどんどん床にめり込んで、最後には崩落した。それほどの突進力を持ってるんだ、仮面持ちは・・・。
「がはっ・・・!」
階下の床に叩き付けられたマイスターが吐血する。それでも仮面持ちの突進は収まる気配を見せなくて、床にクレーターが出来始める。
(アイリが助けないと!)
――竜氷旋――
マイスターの体を通して冷気を竜巻状に発生させて、仮面持ちを後退させてやった。その間にマイスターも立ち上がったけど・・・
――ラケーテン・シュペーアⅡ――
仮面持ちの追撃がすぐ側にまで迫ってた。“エヴェストルム”を手放したマイスターは突き出された槍を躱して、背負い投げの要領で仮面持ちの右腕を掴んで「おらぁっ!」ってぶん投げた。ジムらしいこのフロアのトレーニング器具をなぎ倒しながら、仮面持ちは「ぐふっ!?」って壁に叩き付けられた。
「もう施設への被害など気にしていられるか。やってやるよ、仮面持ち・・・!」
マイスターは床に突き立った“エヴェストルム”2本を手に取って、めり込んだ壁から床に降り立った仮面持ちへと一足飛びで接近。
――集い纏え、汝の雷撃槍――
蒼い雷撃を纏う右の“エヴェストルム”を仮面持ちに振るった。仮面持ちは横っ飛びすることで避けたけど、穂から放電されてる雷撃が掠って「ぐぁ・・・!」って感電した。そこに左の“エヴェストルム”の追撃。仮面持ちはビクビクって痙攣しながらも槍を振るって、マイスターの一撃を弾き返した。あの状態で対応できるなんて、アイツすごい。
(でもマイスターも加減はしないよ)
施設を壊さないように手加減してたマイスターだ。本気になったらもうアイツに勝ち目はないよね。そっからのマイスターは、トレーニング器具や天井や壁、床の損傷なんてお構いなしに魔法を放って、仮面持ちを確実に追い詰めていった。
『転移スキルで逃げる気配がないな・・・』
『うん。アイリもそれは気になってた。この階に落ちた時、マイスターに奇襲しないでそのまま逃げれば良かったのにね』
――天よ怒れ、汝の酷雷――
マイスターへと突進し始めた仮面持ちの直前に現れた雷の龍。さっきからカートリッジをロードして魔力量を増やしてるから、相対的に威力もうなぎ上り。そんな魔力の塊へと仮面持ちは突っ込んで、雷龍にパクンって飲み込まれた。そして強烈な雷撃を周囲に放電しながら雷龍は消滅して、ボロボロになった仮面持ちが姿を現した。
「クソが!」
――シュトルム・シャルフリヒター――
仮面持ちの足元から竜巻が発生して、まるで蛇のようにうねりながら突っ込んで来た。この魔法を見て、アイリはすごい懐かしさを覚えた。アイリやアギトお姉ちゃんを作ったイリュリアに、同じような魔法を使う騎士がいたな~って。竜巻の蛇と化した仮面持ちがジムの中をグルグル回った後、どうしてかビルの外壁じゃなくて奥へと向かっていった。
「逃がすか!」
マイスターも仮面持ちとの追いかけっこを再開。仮面持ちはその圧倒的な破壊力でこの階層の壁という壁を粉砕していってるから、「おい、それ以上はやめろ!」ってマイスターも焦りだす。そんな時、仮面持ちがある部屋の壁を破壊した。
『ちょっ、え、なんで・・・!?』
その部屋の中には、気を失ってる水着姿の女の子が数人と横たわってた。部屋の造りからしてサウナルームだと思うんだけど・・・。なんで逃げなかったのか、って疑問が頭の中をグルグル駆け巡った。マイスターも、想定外なその光景に動きを止めざるを得なかったみたいで・・・。
――トランスファーゲート――
その間にも仮面持ちは派手な破壊音を立て続けに起こしてる。だからアイリは、マイスターだけでも先に行かせたくて、勝手だけど『ユニゾン・アウト!』をした。
――ラケーテン・シュペーアⅡ――
とそこに、超高速の突進で戻ってきた仮面持ち。携えてる槍の穂先が向いてるのはアイリでもマイスターでもなく、アイリが今抱き起こしてる女の子。マイスターがアイリ達を護るように間に入ってくれて、“エヴェストルム”で槍を上に向かって弾いた。穂先が天井に突き刺さって、仮面持ちの攻撃手段は無くなった。
――シルト・インエフェクティーフ――
「ぐぅぅ・・・!」
「マイスター!?」
でもそうじゃなかった。仮面持ちは槍の下半分を分離させて、石突部分でマイスターの左肩を貫いた。仮面持ちは槍を引き抜こうとしたけど、マイスターは“エヴェストルム”を手放した左手で柄を鷲掴んだ。
「逃がすものかよ」
――禍神の隷氷――
本来は氷の甲冑を身に纏う氷雪系強化の術式だけど、マイスターは空いてる右腕だけに籠手を生成。仮面持ちをガシッと鷲掴んで、そのまま急速冷凍した。凍結効果は槍にも及んで、粉々に砕けちゃったから「おっと。やり過ぎてしまった」って反省しちゃった。
「そんな反省は後だよ、マイスター! 左肩の治療をしないと!」
「ん? ああ、そうだな」
そんな軽い口調で言ったマイスターは床に転がってる“エヴェストルム”を拾い上げて、カートリッジを3発と連続ロードして「コード・エイル」って治癒術式を発動、一気に肩に開いた穴を塞いだ。マイスターの持つ治癒は強力だけど、ダメージを受ける事には変わりないんだから心臓に悪いんだよね・・・。
「アイリ。彼女たちの容態は?」
「あ、うん。・・・息はしてる。でも脱水症状に陥ってるみたいだね。たぶんだけど、何かしらの原因で、サウナの出入り口が開かなくなっちゃったんだと思う」
「俺と仮面持ちの所為だな。シャルや陸士隊の連中が救急隊を呼んでいるだろう。彼らに治療を任せよう。と思うが、まずは応急処置だな。アイリ、確か自販機が近くにあったはずだ。スポーツドリンクを調達してきてくれ」
「ヤー!」
自販機を目指して駆け出す中、背中から「こちらルシリオン。シャル、仮面持ちの1人を確保した。誰か寄越してくれ。それと、脱水症状を――」って、シャルに報告する声が聞こえてきた。それからアイリは、壊れた自販機からスポーツドリンクを購入(お金だけを投入して、近くに転がってる無傷なドリンクを取った)して、マイスター達の元へと戻る。
「ああ、ありがとう、アイリ。彼女たちに渡してあげてくれ」
マイスターの視線の先には意識を取り戻してる女の子たちが座ってた。その子たちに「どうぞ。慌てずに飲んでね」ってドリンクを差し出すと、「ありがとうございます」って、ちょっとかすれた声でお礼を言ってくれた。
「(あれ? この子、どっかで見た気が・・・)ねえ、マイス――ルシル、この子たちって・・・」
「ん? インターミドル出場者の、 砲撃番長ことハリー・トライベッカ選手だろ。違っただろうか・・・?」
「い、いえ! ど、どもっす!」
フォルセティ達が今年のインターミドルの試合映像を何度も繰り返し観て、来年のインターミドルで当たってもいいように研究してたっけ。仲間の子たちが、「リーダーすげぇ!」って大興奮しだした。
「あの有名な軍神ルシリオンに知られてるほどって、かなりすごいことじゃないっスか!」
「良かったっスね、リーダー! 憧れの局員さんの1人に知ってもらえていて!」
「お!? お、おう・・・!」
「リーダー、あとでサインもらったらどうっスか?」
「え、あ、いや、オレは・・・! 迷惑になっちまうだろうし・・・」
「でも、なかなかこんな機会ないっスよ?」
コソコソと集まってそう話し合ってるハリー選手たちの様子に、マイスターは「とりえず重症にならずに済んで良かった」って安堵した。
「ねえねえ。サインなんだけどね、こっちも書くから、ハリー選手のサインもくれない?」
知り合いの子たちが来年のインターミドルに参加する予定で、ハリー選手のファンでもあることを伝えると、「喜んで、サイン書かせてもらいます!」って承諾してくれた。
「現着っと。迎えに来たよ、ルシル、アイリ」
ここで応援のシャルが来てくれて、マイスターとシャルの2人で完全凍結された仮面持ちを地上へと運び終えて、救急隊の人たちも遅れて到着して、ハリー選手たちを病院へと搬送した。
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