魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica13-A橙石楠花騎士隊~Orange Rhododendron~
前書き
リリカルなのはって、作品によって矛盾というか設定に齟齬が出るのがネックですよね。
STRIKERSでは、エルセア、は西部にある地方なのですが、Vividではなんと南部にあるのです。
本作では前のエピソードで、エルセアは西部、としたので、南部はまた別の名前にします。
†††Sideイリス†††
「ふわぁ~、眠い。早朝4時はやっぱ眠い・・・」
どうも、元管理局特務零課・特別機動戦闘騎隊の隊長だったイリス・ド・シャルロッテ・フライへイトです。11月もいよいよ終わりに近付いた今日この頃。わたしは管理局を無理やり休職させられて、一度は離れた教会騎士団に復帰しています。
「イリス、参りました」
聖王教会本部内のとあるドアを3回ノックした後に名乗り、「入れ」っていう、入室を促す返答にしたがってドアを開け、カリムの執務室よりちょい広い部屋へと入る。
「おはようございます、団長」
「ああ、お早う。さて、本日の橙石楠花騎士隊《オランジェ・ロドデンドロン》の任務内容を伝える。南部はマクファーデン地区のエリアCの警邏だ。あの辺りは南部でも有数な繁華街だから人も多い。逆に言えば犯罪が起きやすいとも言える。十二分に警戒するように」
わたしが新しく率いることになった新設部隊・オランジェ・ロドデンドロンに指令を下すのは、教会騎士団の全権を任されるリナルド・トラバント騎士団長。わたしは執務机に着いてる団長に「了解です。では失礼します」って簡潔に応じて、すぐさま団長執務室を後にする。
(はぁ・・・。騎士団に復帰してからまだ2週間だっていうのに、もう心が参っちゃってるよ・・・)
教会騎士団の独立は管理世界を大いに騒がせたけど、それほど大きな混乱には至らなかった。母様や団長の語った独立理由に賛同する人が多かったからだ。これまでは管理局が本命で騎士団がオマケっぽかったけど、たった2週間で今や二分する勢いになってる。どっちにも属した事がある身としては複雑だ。
「(でも、それに乗じて犯罪を起こす馬鹿共もちょい増えた気がする・・・)ただ~いま~」
我らオランジェ・ロドデンドロンの詰め所となる、新しく建てられた聖堂へと戻り、隊員の待つ会議室に入る。室内にはわたしの部下・・・っていうよりかは仲間が、ひし形に組まれた長テーブルに着いていた。みんなからの「おかえり~」を受けながらわたしも席に着く。
「えー、本日の任務は、南部マクファーデン地区のエリアCを警邏する、で~す」
今日のお仕事内容を伝えると、真っ先に「確かエリアCは陸士030部隊の管轄だったな。あそこは頭の固い連中ばかりだぞ」って嘆息するのはルシル。ルシルの宿敵にして本局の総務部総部長であるリアンシェルトの指示で局を休職させられ、今や教会騎士団の一員だ。服だって制服じゃなくて神父服だし。というか、神父服が似合いすぎてビックリなんだけど。
「確か・・・勤続40年近い幹部が多いってところでしょ? また衝突するのは嫌だね~」
やれやれって肩を竦ませるのはセレス。時空管理局は民間からの出資でその運営を保たれてる。で、セレスの実家は六家の一角であるカローラ家で、父親のカローラ卿はミュンスター・コンツェルンの総帥で、最も管理局に出資している。んで、教会騎士団も、敬虔な信徒の方からのお布施などで運営されてる。今回の独立騒動で、局への出資を減らして教会への出資を増やした。それで局の財政はちょっとばかり悪くなっちゃって、そっち関連の部署の人たちは大慌てらしい。それもあって長年局に勤めてる人からの風当たりは厳しい。
「この前の任務だと、ハイエナ呼ばわりだった」
ドーナツを頬張りながらの発言っていう、緊張感の欠片も感じさせないのはクラリス。それは数日前、2つの陸士隊が担当するエリアを跨いでわたし達は魔導犯罪者を捕らえた。その際にその2つの隊の老齢な捜査官から、ハイエナめ、って罵られた。
「これが嫌だったんだよ。管轄区っていう縛りが無くなった分、なおも縛られる陸士隊との確執や禍根が生まれるのは当然。いくら局が信用に足らなくなってきたとはいえ、こんな喧嘩を売るような真似、本当に信じられない」
母様と団長、さらに言えばSt.オルフェンを治めるフライハイト家と六家で構成される評議会に悪態を吐くのはルミナ。特騎隊に誘った際、パラディンの称号や銀薔薇騎士隊所属っていう肩書きは邪魔だから、ってなんの未練も無しに捨てたトンデモない子。
「・・・未だに信じられない。マリアンネ聖下がこのような判断をしたとは・・・」
テーブルの上に両肘を置き、組んだ両手に額を乗せて項垂れるのはトリシュ。わたしだって信じられないよ、未だに。最初は、母様は何者かに操られていたり、誰かの変身魔法だったり、そう疑って再会した。でも、そのどれでもなかった。とても付き合いの長い父様や、そういう細工を見破るのが得意なルシルからしても、母様は本物だっていう結果が出るのみだ。
「本当にこの一件には裏があるのでしょうか・・・?」
不安そうに漏らすのはアンジェ。わたしとルシルはずっとそう考えてたし、今も考えてる。母様は本物だ。でも母様が騎士団の独立を推進するなんて絶対にありえない。団長が推進派の筆頭だって話は父様から聞いている。
(だからわたし達は団長を疑ってる。信じたいけど、反対派だったらしい母様の意見をコロリと変えさせることが出来るなんて、やっぱり何かしらの術を使ってるって考えざるを得ない)
わたしイリス、ルシリオン、トリシュタン、クラリス、アンジェリエ、アルテルミナス、セレス、あと「それを調べるのがアイリ達だよ」って、ルシルの肩に座ってる小さなアイリ、この8人の騎士が、銀薔薇騎士隊と共に騎士団の双頭となるべく新設された橙石楠花騎士隊のメンバーだ。
「局は局でリンディ統括官やクロノといった昔なじみが調べてくれている。たった数時間の話し合いで、なぜ局が教会騎士団の独立を許すという結果に至ったのか、リンディ統括官たちも疑問に抱いている」
「・・・密約があったかもしれない、ということですねルシル様」
「ああ。そのために俺たちも騎士団内部を調査しなければならない。が、その前に目前の仕事をこなさなければな。隊長」
ルシルを始めとして他のみんなの視線がわたしに向いたから、「ん! オランジェ・ロドデンドロン出撃!」と号令を下すと、「了解!」ってみんなが応じてくれた。聖堂を出て、騎士団の人員輸送車が停車してる駐車場へ向かう中・・・
「あ、先輩方! これから出動ですか!?」
「あ、キュンナ。そうなの」
駐車場の方からやって来た後輩、キュンナが声を掛けてきた。彼女も今や銀薔薇騎士隊の一員で、鎌騎士ゼンゼパラディンだ。とはいえ、先代の騎士マドール・ド・ラ・ポルトが年齢を理由に引退しちゃったからの繰り上げなんだけどね。でもその実力は全鎌騎士最強のA級1位だから、どこからも文句は無い。
「私たちは警邏から戻って来たばかりなんです。いや~、ミッド全体を護らないといけないとなって、とっても忙しいですよね♪」
キュンナはそう言いつつもすごく楽しそうで、嬉しそうで。パラディンになった事もそうだろうけど、騎士が自由に事件を取り締まれる事もその一因なんだろうね。いつだったか、騎士の威光を取り戻すために戦いましょう、って誘われたし。
(まさか、キュンナも今回の独立の一枚かんでる・・・?)
なんて馬鹿な考えを一蹴する。キュンナの実家であるフリードリヒローゼンバッハ家には、言っちゃ悪いけど評議会に対する権力なんて持ち合わせていない。もし万が一にもあの子が関わってる言うなら、他の騎士たちと同様に独立に賛成しているってことくらいだ。
「でもゆくゆくは管理世界をドーンと守りたいですよね!」
「・・・ごめん、キュンナ。そろそろ行かないと」
独立賛成派とわたし達のような反対派は存在してる。キュンナのように最後には陸だけじゃなくて海の平和を守りたいと言う夢を見る賛成派。わたし達のように今なお独立など受け入れられず、海にまで手を伸ばすのは無理だっていう反対派。
(正直に言えば無謀が過ぎる。騎士団は何もここ本部だけにあるわけじゃないとしても・・・)
各管理世界には、地上本部のように教会支部がある。でも陸士隊舎のような施設は無い。あるのは信者の方々が礼拝するための教会だ。局と騎士団の差がソレ・・・数、だ。質は正直、騎士団に分があると思う。けど数が圧倒的に足りない。それはつまり管理世界の全てをフォロー出来ないということ。今の局ですら人員不足が酷いというのに。
(その最大の問題を、団長は解決できるというの・・・?)
「あ、そうですよね! ごめんなさい、引き止めてしまいまして! では先輩方、どうぞお気を付けて!」
キュンナは大きく手を振りながら、「お待たせしました~!」と、ある集団の元へと戻っていった。
「ええ」
1人は20年も剣騎士の頂点に立つシュベーアトパラディン・プラダマンテ。
「ほっほ。イリス嬢ちゃん達の部隊じゃの」
1人はパラディン歴計49年にして現役最高齢69歳を記録する、弓騎士ボーゲンパラディン・ガラガース。いずれ取り主が超えるべき壁だ。
「元銀薔薇騎士嬢ちゃんも一緒だな」
「わっはっは! 未来の教皇聖下の隊ではないか! 挨拶をしに行くか?」
騎士ガラガースと共に騎士団をずっと支えていただいている騎兵騎士レイターパラディン・ガリフッド、打撃騎士シュラーゲンパラディン・ラヴェイン。騎士ガリフッドも、クラリスが目指すパラディンの壁となる人物だ。
「騎士ラヴェイン。僕たちは団長への報告がありますので」
「今はまだ一礼くらいで良いんですよ」
「それもどうかと思いますが。あ、でも先輩たちは今から出動なので、挨拶は無用のようです」
先代のパーシヴァル君の除隊によって繰り上げ昇格した槍騎士シュペーアパラディン・ブレオベリス、同様に繰り上げ昇格した斧騎士アクストパラディン・グリフレット、拳闘騎士ファオストパラディン・ガリホディン、そして鎌騎士ゼンゼパラディン・キュンナの8人から成る銀薔薇騎士隊だ。お互いに小さく一礼だけして別れた。
「ふと思ったんだけどね。今の青髪と赤髪、なんかいやな感じ。・・・シャル達が見下されてる感じがする。すごいムカつく」
アイリが団長の居る聖堂へと入ってくプラダマンテ達を横目でチラッと見ながら、青髪と赤髪を指してそう悪態を吐いた。それに対してルミナが「天狗になってるんだよアレ」って呆れた風に肩を竦めた。
「先代の事情だから仕方ないとはいえ、先代に勝って交代、っていう本来の条件を経ずにパラディンになったからね。普通ならそんな方法でパラディンになったことに胸を張らないはずのものなんだけど・・・」
「彼らもまた10年余とA級1位でしたからね。パラディンになれて浮かれているのですよ」
ルミナとアンジェがそう吐き捨てた。わたしやトリシュ、クラリス、アンジェもまた10年以上とA級1位の座から上に進めないから、ひょっとしたらパラディンの座が労なく転がり込んできたらはしゃいじゃう・・・ことはないかな。キュンナみたいに、ちゃんと鎌騎士のみの昇格試験を緊急開催して、改めてA級1位の実力を示せば良かったのに。
「ともかく、あの2人とはあまり関わらない方がいいですよ、アイリ」
「はーい」
やっぱパラディンには実力でなってこそ堂々と胸を晴れるってものでしょ。
†††Sideイリス⇒ルシリオン†††
俺たちの隊のシンボルである石楠花が描かれた輸送車でやって来たのは、本日の警邏担当となるエリアC。ここからは2人1組でエリアCの巡回となるわけで、ジャンケンで組み分けを行った。
「くぅ~! ルシルとペアになりたっかのに~・・・!」
右手をチョキにしたまま項垂れているのはシャルで、彼女のペアになったセレスが「私がペアで悪ぅございました」と不貞腐れている。さらにアイリやトリシュも俺たちに背を向けて「はぁ・・・」と溜息を吐いている。
「あの~、私、変わりましょうか・・・?」
俺とペアになったアンジェがそう提案すると、シャル達3人が「いいの!?」と詰め寄ったんだが、ルミナが「私情持ち込み厳禁! ほら、出るよ!」と手を打ち、自分のペアであるトリシュの左手首を掴んだ。
「それじゃ私とトリシュは、4th~6thアベニューの警邏に入るよ」
「行って参ります~・・・」
そうしてルミナとトリシュは、ここに来るまでの車内で決めた担当する大通りへ歩き出した。2人に続いて、シャルとセレス、アイリとクラリス、俺とアンジェもそれぞれの担当となる大通りへと向かった。
「休日で繁華街ということもあって、かなり人が多いな」
「は、はい、ですね・・・」
俺の隣を歩くアンジェはどこかそわそわと落ち着きがなく、注意力散漫というかよく通行人や店の看板などにぶつかりそうになっている。俺が怪訝そうな表情を浮かべていることに気付いたのか、彼女は「ごめんなさい。その、緊張していまして・・・」とチラチラと俺を見る。鈍い男ならひたすら?マークを浮かべるんだろうが・・・。
「そういえば、俺と2人きりになるのは初めてだったか。こうして一緒に活動する事になってからまだ2週間とはいえ、これまであまり関わりが無かったから・・・」
「あぁ、いえ、そういう事ではなく、場所といいますか、私の未経験ゆえといいますか・・・」
「?・・・あ、ああ、そういう・・・」
俺とアンジェが担当する大通りは7thから9thの3つで、7thアベニューは通称カップルストリートと呼ばれるほど、目に見えて恋人の数が多い。そんなところに俺とアンジェが2人で歩いている。周囲には腕を組んだり手を繋いでいるカップルがいるわけで。
「なるほど。照れているのか・・・」
「ぅひ!? あ、あああ! これは仕方がない事なのです! ただでさえ男性と2人きりで、しかも恋人が多いところに・・・! もう! 今はわたしの顔を見ないでください!」
耳まで真っ赤にして俯き、両手で顔を覆い隠すアンジェ。可愛いな、と微笑ましく彼女を眺めた後に視界を前方に移したところで、「あ、前!」と警告したがすでに手遅れ。彼女はそのまま標識のポールへと突っ込み、「きゃん!?」と頭をぶつけた。
「痛い・・・です」
「おいおい、大丈夫か? いや、まずは謝らないといけないよな。すまん、からかってしまって」
赤くなっている額を擦っているアンジェと向き合ってから謝ると、「い、いえ! これは私個人の問題なので! ごめんなさい!」と逆に謝られた。そんな彼女と再び8thアベニューの警邏に戻る。
「いやしかし、男と2人で出掛けたことが無いというのも珍しいんじゃないか? 君も以前は隊を率いていただろう?」
「・・・常に側に居てくれる副官は同性でしたので。学生の頃も、トリシュやクラリスといった同性の友人ばかりと一緒で・・・。恥ずかしい話なのですが、初恋すらもしたことがありません。ですからイリスやトリシュのことが本当は羨ましかったりします」
10本の指先の腹をくっ付けた両手を口元に持ってきたアンジェが照れ笑いを浮かべる。アンジェのお嬢様然とした容姿であれば引く手数多だろうに。まぁそんな照れてばかりな彼女と7thアベニュー、それに休憩を挟んで8thの警邏を終え、最後に「9thアベニューの警邏だな」と、7thと違って子供連れの家族が多い大通りの入り口へとやって来た。
「はい。では参りましょう」
(アンジェも俺との2人きりに慣れてくれたおかげで、スムーズに見舞われて助かったよ)
大賑わいの大通りに入り、平和そのものの空間を歩いている中、それは突然起きた。
――スナイプレールガンVersion 2.0――
とある20階建てほどの複合ビルの上層階から爆発が起き、地上に居た人たちが一斉に「きゃああああ!」と悲鳴が上げ、蜘蛛の子を散らすように建物の周囲から逃げ出す。あれだけ平和な光景が一瞬に阿鼻叫喚の巷と化した。
「アンジェ!」
――暴力防ぎし、汝の鉄壁――
「はい! こちら9thアベニュー担当のアンジェリエ! 商業施設にて爆発事件が発生! 至急応援をよろしくお願いします!」
アンジェにシャル達への連絡を行ってもらい、俺は崩落してくる瓦礫や窓ガラスの破片の対処に入る。街路に降って来る大小さまざまな危険物を対物シールドであるピュルキエルで防ぎつつ、「皆さん! 落ち着いて避難をしてください!」と、拡声魔法を使って誘導を行う。
「おい、あれ! 軍神ルシリオンじゃね!?」」
「ねえ、あの人、セインテスト調査官じゃない!?」
俺も有名人になってしまっているから、ところどころから俺の名前が挙がってくる。だがそのおかげで、散り散りに逃げ惑っていた人たちが協調して避難し始めてくれた。こういう時には局の有名人という肩書きは助かるな。
「ルシルさん、先に参ります!」
「ああ! 俺もすぐ行く!」
シールドの下から人が居なくなったことを確認してから解除、留めていた瓦礫などが音を立てながら街路へと落ちた。それらを回り込んで、俺もビルの入り口から建物内へ突入。このビルは各階で機能が違う複合型で、1階は食事処が密集しているようだが、すでに避難を終えているのか店員や客の姿は無い。入り口付近の壁に設けられている案内図を確認すれば、爆発があったのは「事務所・・・?」のようだった。
『アンジェ、君は今どこに居る?』
『今は2階で警備員の方と一緒に避難誘導を行っています。こちらは手が足りていますので、ルシルさんは爆発した階層へ直接向かってください』
確かにこんな下層階に居ても俺に出来る事は少ない。なら爆発した階を確認し、負傷者がいれば治癒しなければ。俺は『了解した。任せる』と伝え、外へと出る。
――我を運べ、汝の蒼翼――
――パンツァーガイスト――
背より剣状の魔力翼12枚を展開し、さらなる爆発を警戒して魔力で全身をコーティングした上で地を蹴って飛び上がる。目指すは爆発した階なのだが・・・
――スナイプレールガンVersion 2.0――
「ぐぅ・・・!?」
突然の攻撃に反応し切れなかった俺は直撃を受け、その衝撃でビルの外壁に叩きつけられてしまった。爆発が事件か事故かは判っていなかったとはいえ直撃を受けるなど間抜けすぎる。パンツァーガイストのおかげで軽傷で済んだが・・・。
「(今のはレールガンだった。ティーダ・ランスターか・・・?)今回の爆発は仮面持ちが絡んでいる・・・?」
――スナイプレールガンVersion 2.0――
――パンツァーシルト――
そんなに俺を爆発現場に行かせたくないのか、俺が上昇するのを拒むような射線で物質弾を撃ち込み続けて来る。避けるのは容易いが、俺の背後には未だに避難を終えていない人が多く居るビル。避けるわけにはいかず、シールドを展開して自身とビルを護る。
『ルシル様! 私が迎撃します!』
――天翔けし俊敏なる啄木鳥――
どこからともなく飛来してくるレールガンを、トリシュの高速狙撃が正確に迎撃していく。さすがに転移スキルと合わせたコンボは打つ手無しだが、ティーダはそれをせずに律儀に普通に撃ってくる。
『助かる!』
そのおかげでトリシュは迎撃が出来、俺もすんなり現場へと上がることが出来たんだが、爆発にしては焼けているところは無い。それで、爆発ではなくやはり狙撃されたのだと察することが出来た。そのフロアに降り立ち、「これも仮面持ちの仕業か?」と、床に倒れている血まみれの死体を見る。生きている人は居ないかを確認したが、全員が殺害されたのを再確認するだけだった。
「こちらルシリオン。現場にて8体の死体を確認した。全員が心臓を一突きされている。おそらく凶器は槍だろう」
『了解。陸士隊も通報を受けてこっちに向かってるそうだから、協同捜査できるように話してみるよ』
「了解だ。シャル、誰か1人こちらに寄越してくれ。俺も陸士隊と話そう」
『うん、判った。じゃあ・・・』
『私が行こう。そっちの方が気楽そう』
シャルがうちの隊長だが、だからと言って彼女ひとりに陸士隊の連中の罵詈雑言を全部を背負わせるわけにはいかない。ルミナが来てくれることになったし、俺は現場を荒らさないように注意しながら、破壊しつくされた外窓へと向かおうとしたその時、ガタッと物音がした。俺は「エヴェストルム」をイェソドフォルムで起動。物音がした場所、ロッカールームへと入る。
(あそこからか・・・)
あるロッカーがガタガタと小さく震えている。足音を殺し、気配を消し、そのロッカーの前へと移動し、そして勢いよく扉を開けた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ロッカーの中には、顔面を涙や鼻水でグシャグシャに濡らして怯えているチンピラ風の男が1人居り、両手で握っている拳銃の銃口を俺に向け、引き金を引いた。
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