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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百四十九話 夏は終わりでもその十三

「実際にな」
「やっぱりそうですか」
「人間の業は相当に深い」 
 井上さんは断言した、人間はそうしたものだと。
「そうして多くの生きものを絶滅させてきたからな」
「嫌になりますね」
「しかしだからといってだ」
「それでもですか」
「人間の業が深くともな」
 例えそれが事実でもというのだ。
「そこで絶望することもない」
「人間が罪深いからといって」
「そこから学ぶものだ、そしてだ」
「そして?」
「種を絶滅させるのは人間だけでもない」
「他の生きものもですか」
「例えば猫が鳥を絶滅させる」
 天敵がいない島に住んでいる鳥達のところに猫が入ってだ、たった一匹の猫にそうなったこともあるらしい。
「病気も然りだ」
「病原菌ですか」
「間接的に人間の責任だが」
 ニホンオオアカミにしてもその鳥、確かスティーブンミソサザイにしてもだ。
「それでもだ」
「他の生きものもですね」
「そうすることもある、大なり小なりだ」
「人間は同じですか」
「人間の業の深さから人間は自然の敵だと考える者もいるだろう」
 よくアニメや漫画である、そこから極端な思考や行動に至る話はそれこそストーリーの王道の一つだ。
「しかしだ」
「それでもですね」
「だからといってだ」
「それでもですね」
「そこで忘れてはならないことがある」
「それはやっぱり」
「私が言いたいことがわかるな」
 僕を見据えて問うてきた。
「人間もまた、だ」
「自然の一部ですね」
「この大きな地球のな」
「そういうことですね」
「人間はだ」 
 まさにというのだ。
「その業を認識しつつだ」
「苦い経験から学ぶことですか」
「それが大事なのだ」
「経験から学ぶ」
「環境のこともな」
 そちらもというのだ。
「そうしていくことだ」
「環境破壊も経験ですか」
「苦い経験、嫌な経験ならな」
「二度と繰り返さない、ですか」
「それが大事だ、ニホンオオカミは幸いにしてまだいたが」
 絶滅したと思っていたがだ、本当に幸いにして。
「多くの生きものがいなくなっている」
「絶滅していますね」
「その絶滅を繰り返さないことだ」
「そして環境もですね」
「保護し戻していくことなのだ」
「業を理解して認識して」
「そのうえでな」
 井上さんの言葉はかなり真剣だった、暗くなってしまう話だけれど決して後ろ向きな話ではなかった。
 それでだ、井上さんは僕にこうも言ってきれた。
「経験から学ぶことだ」
「そのことが大事ですね」
「絶望することなくな」
「絶望したら」
「そこで終わりだ」
「前向きにならないといけないですか」
「そうだ、絶望は何も生み出さない」
 正直井上さんがここまで前向きとは思っていなかった、規律に厳しい人だという認識があったけれど。 
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