八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百四十九話 夏は終わりでもその十二
「今になってだ」
「いなくなってわかる、ですか」
「狼もな」
「そう思うとあれですね」
井上さんのお話を聞いてだ、僕は寂しい顔になって言った。自分でもそうした顔になっているのがわかった。
「残念というか愚かというか」
「愚かか」
「絶滅させてからってこともありますから」
ニホンオオカミもそうしてしまったと思っていた。
「ですから」
「そう言ったのか」
「はい」
実際にとだ、僕は井上さんに答えた。
「そうです」
「そうも言えるな、しかしな」
「それは、ですか」
「失ってからわかることだ」
その生きもの達をというのだ。
「その時にな、そしてだ」
「そして?」
「それからわかるものだ」
「経験をしてからですか」
「人間は経験から学ぶ生物だ」
井上さんは僕に強い声で語った。
「それは我が国の環境のことでも同じだ」
「生態系が狂ってですね」
「獣害が起こってな」
まさにそうなってからというのだ。
「わかるものだ」
「失敗も経験してですか」
「わかるな」
「何でもそうですね」
「どの国の人間もしてきた」
それこそ世界中でというのだ。
「ドードー鳥もそうだった」
「あの太った飛べない鳥ですね」
「発見されてから百八十年程で絶滅した」
マダガスカルの隣にあるモーリシャス諸島にいた、今も生きていれば珍鳥扱いは間違いなかった。
「そうなってしまってからだ」
「人間は過ちに気付いた」
「そういうことだ」
「愚かな過ち、ですね」
「それを経験してだ」
そうしてというのだ。
「学んでいくのだ」
「そうしたものですか」
「失ってだ」
生きものにしてもというのだ。
「この場合は絶滅させてしまってだ」
「そうしてからですか」
「気付くのだ、そしてだ」
「その経験からですか」
「人は学ぶものだ」
「そうなんですね」
「愚かと言えばそうなる」
井上さんはここで厳しい口調になった。
「まさにな」
「それは否定出来ないですか」
「絶滅させるなぞな」
一つの種類の生きもの、それをだ。
「愚の極みとか言い様がない」
「そして絶滅させて」
「それからだ」
そのうえでというのだ。
「気付くのだ」
「自分達がした愚かなことに」
「そういうものだ、そしてその愚かな経験からだ」
「学んでいくものですか」
「失敗からな」
「よく言われることですが」
それでもとだ、僕は井上さんの話を聞いて思った。それもとても罪深くて嫌になるものをだ。
「人間の業になりますか」
「こうしたこともな」
「深い業ですね」
「そうだ、人間は業が深い」
そうした存在だというのだ。
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