八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百四十九話 夏は終わりでもその十四
「前向きに頑張ることこそがだ」
「環境についてもですか」
「いいことだ、苦い経験嫌な経験もだ」
「忘れないで、ですね」
「活かすことだ」
まさにというのだ。
「このことが大事なのだ」
「前向きにならないと」
「何も出来ないからな」
「そうなんですね」
「だが人は難しい」
「絶望する時もですね」
「ある」
どうしてもだ、そうした時もあるというのだ。
「目の前が真っ暗になる時もな」
「僕はそこまでないですが」
本当にそこまで絶望したことはだ、それは一体どれだけ深くて重い絶望なのか想像もつかない。
「そうした時もありますか」
「そうなのだ、私もあった」
「目の前が真っ暗になる位」
「それ位の絶望がだ」
まさにというのだ。
「一度あった」
「そうですか」
「一度失恋したことがある」
井上さんは苦しそうな顔で僕に話した。
「中学時代な」
「その時に」
「目の前が真っ暗になった」
そうなったというのだ。
「随分と酷く否定されてな」
「そんなことがあったんですね」
「ブスだの色々言われてラブレターも壁に貼られて周りに見せられた」
「その振った相手がしたんですか」
「そうだ」
「それはまた」
僕は言葉を失いそうになった、井上さんにそんな過去があったなんて知らなくて。それもその振った相手の行いにだ。
あんまりだと思いだ、怒りを感じて言った。
「酷い奴ですね」
「その時の私は相手の外見だけでだ」
「好きになってですか」
「動いた、そしてだ」
「そうなったんですか」
「愚かだった、だが
「その時にですね」
ここまで聞いて僕もわかった、それで井上さんに返した。
「目の前が真っ暗になったんですか」
「私が書いたラブレターが壁に貼られているのを見てな」
「そんなことがあったんですね」
「そして周りから囃し立てられてだ」
よくある展開だ、失恋が公になって周りから面白がって言われる、けれどこのことは言われる方にとってはたまったものではない。
僕はそうした経験はない、けれど親父に言われた。
「人の失恋は言うな」
「絶対にだな」
「親父に言われました」
こう井上さんに言った。
「このことも」
「私の様になるからか」
「そう思います、傷つきましたよね」
「その後もな」
目の前が真っ暗になってからもというのだ。
「言う奴は言うものだ」
「人の失恋のことは」
「嗤ってな」
「自分が失恋すればわかりますよね」
僕は親父の言葉を思い出しつつ井上さんに応えた。
「そうしたことも」
「そうだな、そして私もだ」
「言われてですか」
「わかった、今思うと貴重な経験だった」
「痛かったですよね」
「痛い経験でもだ」
それでもというのだ。
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