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夢幻水滸伝

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第四十五話 神戸の大工その三

「貧富の差が少ない、貧しい奴が少ないことはな」
「ええことやろ」
「そこから結構社会不安とかになるんやろ」
「そや、綾乃ちゃんも太宰もそれはわかってるからな」
「そのうえで政をしててやな」
「ええ感じにや」
 貧しい者は少なく、というのだ。
「そしてや」
「これからもやな」
「貧しい者は少なくしていってな」
「豊かなモンをやな」
「増やしていくで。理想論やけど」
「理想を目指してやな」
「政をしてくってな」
 そうしてというのだ。
「綾乃ちゃんと太宰は言うてるわ」
「それで貧しい奴もか」
「出来る限り減らしてくってな」
「そうした考えか、それでやな」
「そや、今からその貧しい奴を減らす為にもな」
 内政によってというのだ、内政の充実こそが貧しい者を減らすことになるからだというのである。
「大工の奴もな」
「迎え入れるか」
「そうするで、そいつが何処におるかっていうと」
 それもわかっている芥川だった。
「神戸の東、西宮に近いとこにおるらしい」
「そっちの方か」
「そや、普通の民家に住んでるらしいわ」
「ごく普通の大工か」
「そうらしいな、ほなその大工のとこに行こうな」
 神戸の賑やかな街の中でだった、芥川は狐に言って彼と共にそのうえで神戸の東の方に向かった。行く先は民家が立ち並んでいるところだった。
 そこの一軒の建てている最中の家に行くと小柄で黒い肌の大きな胸を持つ大工の服の女がいた、黒髪を上で束ねグレムリン特有の先が尖った細長い尻尾が見えている。グレムリンらしく耳は尖り目は切れ長で吊り上がっているが全体的に艶やかな外見だ。自らせっせと動きそのうえで家を凄まじい速さで築いていく。
 その女にだ、芥川は声をかけた。
「ちょっとええか?」
「ああ、もうすぐ家が建つからね」
「まだ半分位しか出来てないやろ」
「もう半分だよ」
 関西弁のニュアンスでの返事だった。
「うちにとってはね」
「そうなんか」
「そうだよ、じゃあ建ててからね」
 女はこう言ってだ、グレムリン特有の敏捷さいやその十倍はあるかという速さで家をどんどん建てていく、そうして三十分もすればだった。
 家が一軒建った、そのうえで芥川と狐の前に来て言ってきた。
「それで何だい?」
「僕は芥川宗介、神捷星やけどな」
「ああ、忍者の棟梁さん兼軍師さんだね」
「そや、関西のな」
「それだけの人がうちに何の用かっていうと」
 グエムリンの女は考える顔になり芥川に応えた、背は一三八程とホビット並に小柄だが顔もスタイルもかなりのものだ。
「誘いに来たのかい?」
「うちで家とか建てる政やってくれるか?」
「いいのかい?」
「そや、自分にな」
「うちが政ねえ、出来るのかね」
「大工関係に専念してもらうことでどないや」
 芥川は女の得意分野に限って言ってきた。
「それで」
「それならいいよ、丁度今ので頼まれてた仕事も終わったしね」
「それでやな」
「ああ、お金受け取ったらね」
 仕事の分の報酬、それをだ。
「すぐに都に行くよ、それでだね」
「大工関係のことで思う存分働いてくれ」
「わかったさ、じゃあ宜しくね」
「こっちこそな」
 芥川は女に笑顔で応えた。 
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