八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百四十三話 髑髏検校その八
「中毒性も禁断症状も酷いので」
「したらですね」
「破滅になります」
「それはもう遊びじゃないですね」
「この世のあらゆるものが糧になると言いましたが」
麻薬で得られる糧はというと。
「そうした恐ろしいものがある」
「そうした意味での糧ですね」
「この世には決して手を出してはいけないものがあり」
「それが麻薬なんですね」
「若い頃は普通に煙草屋でヒロポン等が売っていました」
「ああ、そうでしたね」
終戦直後まではそうだった、それで中毒になっていた人も結構いて昭和三十年代でも街中に中毒の人が歩き回っていたらしい。
「麻薬が売ってたんですね」
「それで私も見てきました」
「ヒロポン中毒の人達を」
「廃人の人が結構いました」
「結構以上に怖い時代だったんですね」
「当時は合法でしたが」
「しないに限りますね」
僕はヒロポンのその話を聞いてだった、自分でも険しい顔になっているのがわかった。中毒の恐ろしさについて考えて。
「本当に」
「はい、ですから」
「麻薬には手を出さない」
「くれぐれもです」
「お酒も溺れたら毒になりますし」
「神変鬼毒といいますが」
その元は人間だった酒呑童子が渡辺綱達に飲まされた神酒だ、文字通り鬼には毒になりその動きを麻痺させる。
「鬼に対してだけでなく」
「人間もですね」
「そうです」
その通りという返事だった。
「飲み過ぎるとやはり」
「毒ですね」
「適量ならお薬ですが」
「つまり溺れると毒になるんですね」
「その通りです」
畑中さんの返事は明瞭だった。
「ですからこのこともです」
「頭に入れてそのうえで」
「飲まれて下さい、遊び全体も」
「そうさせてもらいます、いや本当にですね」
僕は畑中さんとここまでお話をしてあらためて思った。
「溺れないことですね」
「とはいっても溺れる人も多いです」
「その人それぞれですね」
「私も一度毎晩浴びる様に飲んでいた時期がありまして」
「溺れそうだったんですね」
「はい、お酒の酔いに」
その楽しみにというのだ。
「そうしていましたが」
「溺れそうになっていて」
「師にそれを言われて暫く控えました」
酒を飲むこと自体をというのだ。
「そうして何とか脱しました」
「溺れる状況から」
「本当に危なかったです」
畑中さには僕が知らないご自身の過去を見ていた、それがお顔にも出ていた。
「まことに」
「そうだったんですね」
「師に助けられました」
「そうしたこともあったんですね」
「はい」
「意外ですね」
僕は思わずこう言った。
「それは」
「そう言われますか」
「はい、本当に」
「私も人間です」
僕のその返事にだ、畑中さんはこう答えた。
「ですから」
「弱い時もですか」
「あります、その時は敗戦の後で」
「その衝撃で」
「いえ、敗戦後の知識人達の腐敗を目の当たりにしまして」
それでというのだ。
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