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儚き想い、されど永遠の想い

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34部分:第三話 再会その九


第三話 再会その九

 彼女がいた。喜久子がだ。義正は彼女の姿を見て言った。
「貴女は」
「八条義正さんですか」
「はい、そうです」
 まずは彼女の言葉を受けたのだった。
「そして貴女はですね」
「高柳喜久子と申します」
 一礼と共の言葉だった。それを受けてだ。
 義正も返礼する。それからだった。
 そのうえでだ。義正は高柳の言葉を受けたのだった。
「どうかな、八条君」
「どうかといいますと」
「いや、うちの娘とね」
 穏やかで親しげな声でだ。彼に話すのだった。
「少し。この館の周りをね」
「散策をですか」
「それをしてはどうかな」
 こう話すのだった。
「それはどうかな」
「そうですね。それでは」
 義正もそれを受けようとした。しかしである。
 ここでだ。喜久子がこう父に言うのだった。
「あの、お父様」
「駄目かな」
「駄目とか。あの」
「いいじゃないか。只の散策だよ」
 そこにあるものはあえて言わずにだ。話すのだった。
「そうしたらいいよ」
「散策ですか」
「そう、散策だよ」
 最初はそこからはじまる。だからこその今の彼の言葉だった。
「行って来たらどうかな」
「そうなのですか」
「勿論御前が嫌ならそれでいい」
 無理強いはしない。娘に対して寛容なものも見せる。
「けれど。そうじゃなかったらね」
「行って来いというのですね」
「どうだい、それで」
 また言う彼だった。そしてであった。
 二人はだ。高柳の言葉を受けることにしたのだった。
 二人で外に出てだ。散策をはじめた。その中でだ。
 義正はだ。庭の花達を見ながらだ。傍らにいる喜久子に尋ねた。
「花は何がお好きでしょうか」
「花ですか」
「はい。色々な花がありますが」
 この庭でもそれは同じだった。見れば庭にあるだけではない。池にもある。赤や白、そして青とだ。色も様々なものがそこにある。
 そうした花達を見ながら。喜久子に尋ねたのである。
「どういったものが好きでしょうか」
「花は嫌いなものはありません」
 こう穏やかに笑って答える喜久子だった。
「花はどれもです」
「お好きですか」
「菖蒲も。菫も」
 まずはそういった花々からだった。
「それに椿や菊もです」
「薔薇はどうでしょうか」
「薔薇ですか」
「はい、西洋の趣のする花はどうでしょうか」
 義正は今薔薇をみていた。庭の薔薇は白薔薇だった。緑の棘の先にあるその薔薇達をいとおしげに見ながら。喜久子に尋ねたのだ。
「そういったものは」
「それも好きです」
 喜久子は微笑んで答えた。
「薔薇は。とりわけ」
「とりわけ?」
「黄色いものが好きです」
 それがだというのである。
「黄色の薔薇が好きです」
「そうですか。黄色ですか」
「黄色い薔薇は幸せの象徴と利いていますが」
「その様ですね」
 義正もそのことは聞いていた。それで頷くことができたのだ。
 
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