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儚き想い、されど永遠の想い

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35部分:第三話 再会その十


第三話 再会その十

「あちらでは」
「それもありますから」
「黄色い薔薇がお好きですか」
「はい、とても」
 言葉がだ。いささか強いものになった。口調は同じだがその単語がだ。
「好きです」
「そうですね。花は美しいだけでなく」
「幸福ももたらしてくれますから」
「だからいいですね」
 義正も微笑んで話す。
「だからこそ」
「そう思います。ところで」
「はい、ところで」
「八条さんはどのお花が一番お好きでしょうか」 
 今度はだ。喜久子が彼に尋ねたのである。
「どれが一番お好きでしょうか」
「そうですね。私は」
「はい、八条さんは」
「百合でしょうか」
 考える顔になってだ。それかというのだった。
「百合が好きですね」
「あの花がですか」
「今も咲いていますね」
 池のほとりを見る。確かにそれがあった。
 白い百合がだ。静かに咲いている。彼はその一輪の百合を見ながらだ。喜久子に対して穏やかで優しい声で話すのだった。
「あの場所に」
「はい、確かに」
「百合は。清らかで優しい花です」
 そうした花だというのである。
「ですから私は」
「お好きなのですか」
「どれだけ見ていても飽きません」
 こうまで言うのであった。
「本当に」
「では八条さんにとっては」
 ここでだ。喜久子は彼にこの言葉をかけた。
「百合は桜と同じなのですね」
「そうですね。桜はやはり」
「最も。よい花ですね」
「桜は別格です」
 こう言ってだ。彼もそれを否定しなかった。
「この世で。やはり」
「最も美しい花ですね」
 桜についての話はだ。二人は同じだった。
「春の。ほんの一時に咲く」
「その桜こそがですね」
「最も美しい」
「そう思います」
「それにです」
 さらにだとだ。ここで義正は言った。
「花びらの一枚一枚までもが」
「実に美しいと」
「時々思うのです」
 ここでだ。義正は遠くを見る目になって喜久子に述べた。
「桜がいつも咲いていれば」
「非常に素晴らしいと」
「そう思います。ただ」
「ただ?」
「それでは価値はありませんね」
 桜が常に咲いていればだ。それで価値がなくなるというのだ。
 こう話してだ。義正は遠くを見る目のままだ。喜久子にさらに話した。
「桜は春にあってこそですから」
「だから。価値がありますね」
「はい、あります」
 まさにだ。その通りだというのだった。
「常に咲いていては価値はありません」
「それはどうしてだと思われますか?」
「言葉でははっきりと言えません」
 こうも言う。それでもだった。
 義正は遠くを見る目のままで。それで言葉を続けていく。
「けれどです。おそらくは」
「おそらくはですか」
「桜は。散る姿もまた美しいからでしょう」
「散る姿もですか」
「終わりがよければ全てが美しいと言われますね」
 桜はない。だが桜をそこに見ながらの言葉だった。
 
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